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#6「宮古ブルー」

透き通った海を眺めながら電動スクーターで心地よい風を全身で浴びる。岩を見つけては凝視するものの、特段違和感もないので、また次の岩を探す。まるで、現実世界で点つなぎをしているかのようだ。

「ウミガメは岩と似ているから、岩のようなものを見つけて違和感がないかを確認するのがいい。」と前日お世話になったスキューバダイビングのインストラクターの言葉を頼りに探すが、結局見つけることはできなかった。

別に落胆はしない。なぜなら目の前に広がる宮古ブルーの美しさを体感できただけで十分過ぎるほど幸せを感じたからである。

1時間1500円でレンタルした電動スクーターは最高時速20kmしか出せないから、一度出遅れると他の二人に追いつくことはできず、縦の距離感が変わらないまま走り続けた。

夕日を浴びながら先を進む二人の後ろ姿は眩しい。昔だったらその状況に焦りを感じたけれど、今は後ろの方が見やすいなと好んでこの状況を楽しめている。彼らと比べようとしなくなった自分がそこにはいた。

二人は大学の同期で、それぞれ名の知れた大企業に就職している。小さなベンチャー企業に就職した私にとって、彼らは自慢であり、大きな憧れであり、そしてライバルでもあった。

彼らの話を聞いているだけで、大きな企業に就職したいという気持ちは蘇ってくるけれども、かつてほどの焦燥感はなかった。
「彼らは彼らで、自分は自分。」
そんなふうに割り切れるようになったし、今いる環境で成長の実感があるからか、ある時から比べなくなっていた。もちろん、収入などの面で今でも羨ましさはあるが。

レンタル返却まであと10分ほど。
この時間もあと10分で終わってしまう。サドルにつけていたおしりを上げ、少しでも視線を高いところへ移そうと、胸を張って走り続ける。

今この瞬間もいつか必ず過去になる。
寂しいと感じる気持ちが半分と、今この瞬間を最後まで目に焼き付けようと思う気持ちが半分。あらゆるものに終わりが来るけれど、目の前に対峙する時間や人、ものや事象全てを大切にしたい。

そうやって、心は成長していくんだと思う。
いつか記憶となってしまう今日をまた心の中で旅ができるように、多くの角度から感動や思考を持って接していきたいし、これからもそうでありたいと思う。

返却まであと3分。
通り道の横の浜辺で恋人や子ども連れの家族が楽しそうに写真を撮ったり、水辺で遊んでいる。微笑ましいその光景に、将来の自分を重ねては胸が踊る。
スピードの上がらない電動スクーターに前傾姿勢を取り、少しでも前を走る二人に追いつこうとするのであった。

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