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自然のままのワインを、九州・福岡で造るということ

福岡に、小さなワイナリーが誕生しました

はじめまして。
SHINDO WINESでワインを造っている、阪本開(さかもと・はるき)です。

SHINDO WINESは、福岡県朝倉市で2021年から操業を始めたウイスキー蒸留所「新道蒸溜所」の一角を間借りして運営している、小さなワイナリーです。

2021年、そして昨年と、この地で2度のワイン造りを経験し、ようやく本年4月に初めてのリリースを迎えることができました。

左から「UKIHA BUBBLES 2021」「UKIHA BUBBLES 2022」「ASAHA WHITE 2022」

現在は、世界的に著名なナチュラルワインの造り手である、アレックス・クレイグヘッド氏の教えを請いながら、私とラガーマンの髙野の2人でワインを造っております。

左から髙野、アレックス氏、阪本

髙野も、私も、お互いにワイン造りは人生の新しい挑戦です。
現在31歳の私は、これからの半世紀にかけて、ワインを造り続けることを人生の目標にしております。

私たちが目指しているワインは、主に3つの特徴から成り立っています。

《SHINDO WINESのこだわり》
①日本の夏に最適化されたワイン
②人的介入を最小限に抑えた、自然のままの味わい
③日本酒造りで学んだ、醸造哲学の活用

それぞれについて、ご説明していきます。


日本の夏に最適化されたワイン

SHINDO WINESがある福岡県のブドウの収穫は早く、夏に行われます。

夏に獲られるブドウは、糖度が上がりすぎずに酸が残るため、自然とアルコール度数の低い、穏やかな酸が特徴のワインに仕上がります。
ゆえに、夏に旬を迎えるブドウから造られるワインは、夏に飲むのがいちばんおいしく感じられると思います。

そこで、私たちは「真夏にぐびぐび飲めておいしいワイン」を意識して造っています(もちろん、夏以外に飲んでいただいてもおいしいですよ!)。

人的介入を最小限に抑えた、自然のままの味わい

ブドウが育つ環境が違えば、ワインの味わいもそれに応じてしかるべきではないでしょうか。
しかし、サイエンスが発達した結果、世にある多くのワインは規格を持った工業品となってしまいました。

必要以上の人的操作が加わると、フランスで造ろうが、オーストラリアで造ろうが、土地ごとの異なるニュアンスが失われ、似通った味のワインになってしまうのです。

そのため、SHINDO WINESでは人的介入を必要最低限に抑え、福岡ならではのブドウの風味を感じられるワイン造りを目指しています。

  • 地元産のブドウを使用(全量、福岡県うきは市の農家さんに育てていただきました)

  • 野生酵母の使用(ブドウの皮の表面に棲む酵母を使って醸造)

  • 無補糖、無補酸、 無濾過

  • 酸化防止剤は基本不使用(避けられない場合のみ、ごくごく少量を用いる)

具体的にはこのようなルールを設けて、日々の運営にあたっております。

日本酒造りで学んだ、醸造哲学の活用

私は以前、日本酒蔵で蔵人として働いておりました。
当時の大先輩から教わったことで、いまも大事にしていることが2つあります。

酒は人間が造っているようで、実は微生物が造っている」こと。
そして「洗い物の大切さ」です。

酒造りは「見えない世界の住人(微生物)」との共同作用です。
蔵人は、目に見えない「彼ら」が心地よく働ける環境を整えることしかできません。
それは、日本酒と同じ醸造酒のワインも同じと心得ています。

また、微生物は時たま「いたずら」をして、酒質に影響を与えてしまいます。
いたずらをさせないためには、醸造に使用する道具は使用前後に徹底的に洗浄し、常に清潔な状態を保つことが求められます。

「洗い物に始まり、洗い物に終わる」
蔵もワイナリーも、仕事の9割は洗い物・掃除といって過言ではありません。

徹底した衛生管理を行うことによってはじめて、土地本来の風味が伝わるワイン造りが可能になると考えております。


日本の気候に適した、タフなブドウの存在

最後に、ワイン造りにおいて最も大事な要素である、ブドウの話をさせてください。

まず、福岡でブドウを栽培することは容易ではありません。
ご存じの通り、九州の夏は暑く湿潤で、栽培期間に多量の雨が降ったり、台風が到来したりと、決してブドウ造りに優しい環境ではないのです。

たとえば、当ワイナリーで使用するブドウは全量が福岡県うきは市産ですが(自社園地もうきは市)、ここで同じブドウの名産地である、山梨県勝沼市と北海道余市市の気候と比べてみましょう。

<通年平均気温>
うきは市:17度 勝沼市:14度 余市市:8度
<年間降水量>
うきは市:1,800mm 勝沼市:1,100mm 余市市:1,300mm
<年間日照時間>
うきは市:2,160h 勝沼市:2,209h 余市市:1,325h

このことから、うきは市は勝沼市、余市市と比較すると雨が多く、暑い地域であることがわかります。

では、どうして福岡のブドウを使ったワイン造りを選んだのか。

福岡で育てられているブドウの多くは、ハイブリッドブドウ(生食用のブドウ)です。
ハイブリッドブドウは、伝統的なワイン造りに用いられるブドウと比べて、比較的病気に強い特徴があるため、温暖湿潤な福岡でも育てられるタフな存在なのです。

そのような特徴があるにもかかわらず、大粒で水分量の多いハイブリッドブドウはワイン造りには不向きとされ、このブドウを使う醸造家は、世界中でもごく少数派です。

ワイナリーの立ち上げ時からご協力をいただいている、ブドウ生産者の山口さん

しかし、目まぐるしいスピードで気候変動が進んでいるなか、湿気や病気に強いハイブリッドブドウは、今後は世界的に重宝されるだろうと予測しています。
病気にかかりにくいということは、農薬の使用量を削減でき、有機栽培にも向いている品種でもあるからです。

日本の気候にフィットし、日本の風土やオリジナリティを表現するのに、ここまで適したブドウはないと、私たちは考えております。

SHINDO WINESの骨格を担う「巨峰」

意外かもしれませんが、福岡はブドウの産地として全国5位の生産量を誇ります。
現在、ワイナリーは数えるほどしかありませんが、ブルゴーニュ地方やナパ・ヴァレーといった、世界的に有名なワインの産地のバックボーンは、ブドウの一大生産地でもあります。

ということは、福岡も今後、ワインの産地としてブレイクする可能性を秘めているのではないでしょうか?
私たちは、そう信じています。

最後になりますが、このnoteではSHINDO WINESでのワイン造りを通じて、その経験を皆様と共有したり、今後の取り組みや想いなどを、お伝えしていきたいと思っております。

次回の記事では、私たちが初めて造ったワイン「UKIHA BUBBLES 2021」についてご紹介いたします。

どうぞ、SHINDO WINESをよろしくお願い申し上げます。

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