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Mr.Children『SOUNDTRACKS』


ちょうど今から2ヶ月前、Mr.Childrenが新譜を出すとSNSを通して知った。そんな重大ニュースに自分の心は動かなかった。まさに他人事だった。
そんなやつが2ヶ月経った今、レコードプレイヤーが家に無いくせにタワレコでLPを買って、そしてさらにストリーミングに上がらなかったからと調子こいてCDまでも手にしている。
何故、そこまで期待していなかったこの盤が自分の中で大切な物になってしまったのか。いや、大切と言い切るにはまだ早い気がする。まぁ色々、Mr.Childrenと歩んだ日々を思い出しながら今回のアルバムについて書き綴っていこうと思う。今の感情が少しでも残るように。


ミスチルとの出会いから現在に至るまで。


出会いと言ったって自分が生まれた2000年にはもう国民的バンドだったから、この世代の誰もが赤ん坊の頃から桜井さんの歌声を耳にしていたのではないだろうか。
そんなことを考えながら遡っていくと、能動的にミスチルを聴き始めたのは小学校の頃からで、家の隅に追いやられた母の私物の『BOLERO』『I LOVE U』を見つけ、勝手にwalkmanに音源を入れて、まさに擦り切れるくらい聴いた。
ミスチルに興味が無いはずの母でさえCDを持っているのだから、その当時のミスチルの勢いが本当に凄かったのだと身を持って感じる。
周知の事実だが、『BOLERO』にはミスチル最大のヒットソング『Tomorrow never knows』や『シーソーゲーム』が入っているのだけれど、これが1994年、95年発売で、『BOLERO』は1997年。そしてその間の1996年に、個人的にも好きなアルバム『深海』がある。
発売の年を見てわかるように、大ヒット曲が生まれたにも関わらずその直近のアルバムにはその曲を入れなかった。Mr.Childrenは一番勢いに乗っていた時でさえも、利益よりも自分達のコンセプトを大切にしてアルバムを作っていたのだ。このエピソードからも想像できる通り、この時代のミスチルはかなり尖っていた。(ミュージシャンとしては当たり前の行動だと個人的には思うが。)例を簡単にあげると、名曲『名もなき詩』には放送禁止用語が入っていて、テレビで歌唱する時には歌詞を変更して歌っていた。とか、『BOLERO』の歌詞を読んでみてもかなり驚くのではないだろうか。Kingや髭がそんなことをしたらどうなってしまうのか、考えるだけであまり関係の無い自分も怖くなってしまう。
そんなことから考えても、『深海』を買わずに『BOLERO』を買っている時点で「母はCDを手にした当時もそこまで好きではなかったんだろうなぁ。」と勝手に想像している。
まぁどっちのアルバムも半端なく売れてるんだけど。
とにかく『BOLERO』と出会っていなかったら、今の自分はいないだろうなと思うほど『BOLERO』を聴いていた。まぁ、後に『深海』に振り回されていくのですが…。

その2枚を摂取した以降の思い出といえば、家族でワンピースの映画をイオンに見にいった時に流れたエンディングソング『fanfare』がその時の自分には何もかもが新鮮すぎて、映画より曲にテンションが上がり、終わって真っ先に下の階のCD屋さんに親を連れて行って、探しまくったのにも関わらず、お目当てのものはなく、後々調べると着うた限定とか意味わからん売り方をしていて、小学生ながら苛立った記憶が今でも大脳皮質にこびりついている。
ほんと、2010年とはいえ、ガラケーで聴かせるなんて酷いことしやがるな。

そして、中学生に上がるくらいのタイミングで2001年〜2010年までのSGが入っているベストアルバムが出た。それをひたすら聴いて、その中の良いなと思った楽曲が入っているアルバムをTSUTAYAで借りるというプロセスを循環させて、ミスチルライフを他のアーティストも聴きながら送っていた。
そこから、TSUTAYAに通うようになり、RADWIMPSやONE OK ROCK、サカナクションなどのいわゆる邦ROCK洗礼を中二、中三の時期は浴びていた。自分がその当時、影響を受けてしまっていた野田洋次郎とTakaは二人ともMr.Childrenに幼少期を含め、とてつもなく影響を受けていたこともあって、ミスチルはずっと聴き続けていた。
もし、日本の音楽業界にMr.Childrenがいなかったら、今の邦ロック産業が全く違う物になっていたのは事実だ。良くも、悪くも。

そして、大ニュースが飛び込む。
デビューから編曲、プロデュースを担当していた小林武史とついに手を切ったのだ。
ほんと、今思えばこれがあるから今のMr.Childrenがある。もちろん良い意味で。
そして、ミスチルへの愛が深まる中、やっとリアルタイムでアルバムと出会うことになる。それが『REFLECTION』。もうこの時はお祭りのように、毎日聴いて、出るテレビ番組をチェックしたり、youtubeで何回もMVを見たり、歌詞の考察をしてみたり、自分なりに楽しんだアルバムだった。

そして、気づけば、2018年。
new album『重力と呼吸』が出た。
まさにリアルタイムで手にするアルバムpart2って感じで、ワクワクした気持ちでCDを買って、車ん中で聴いた。もちろん爆音で。
そして、聴き終わった時、何か物足りなく感じた。明確な理由は出てこないし、もちろん悪いアルバムではない。
だが、自分の期待以上のものをそこから得られなかったことは事実だった。
そして、意識をしていたわけではないのだが、気づけばそこからの2年間、Mr.Childrenを聴くことは、ほぼなくなっていた。

その代わりと言ってはあれだが、ミスチルを聴いていた頃よりも、より様々な音楽と出会い、国境を問わず、色んな音楽を聴いて、映画もかなり見まくった。そっちの方が色々と居心地が良かった。まさにカルチャーを通して世界の広さを実感していた。

だから、2020年にミスチルの新譜が出るなんて、自分にはもう関係のないことだった。正直、3月の時点でドラえもんの曲も試しに聴いてみたが、感想としては「ふーん。今はこんな感じなんだ。」くらいだった。ストリーミングにもすぐにはでなかったし。
ただ、コロナで映画も延期になっているはずなのに、そのタイアップのミスチルのEPだけが世に出ている状態には、なんともいえない違和感を感じた。

そして、ようやく本題の『soundtracks』に出会うことになるのだが、アルバムを買った理由としては、先行曲の『Brand new planet』が今までのMr.Childrenに無い新しさがあって「これ、良いな。」と素直に思ったことや、アートワークにPerimetronを起用するなど、明らかに今までのモードとは違った。「これはもしかして、凄いものが生まれるのでは?」と、その曖昧な直感を頼りにタワレコでLPを買った。
今はストリーミングで何もかも聴けてしまうし、先行曲もYoutubeで聴けてしまうが、従来、音楽を聴く行為は、“買って、家に帰って針を落とすまで、その盤が本当に良いのかわからない"というお金を払う運試しみたいなもんで、音を流すまでマシンガンをぶっ放すことになるか、ならないかなんてわからないものだったんだろう。

そして、12月1日、朝一でタワレコから届いた商品を受け取り、そのまま友達の家にいって盤に針を落とした。

ここからは、新譜を聴いた感想を素直に書いていく。





『SOUNDTRACKS』の中身。






1.DANCING SHOES

スピーカーから流れ出すスネアとギターの音が体に響く。
その裏で鳴り響くストリングス。一つ一つの音がしっかり分離して聞こえてくる。そしてその音一つ一つが積み重なり綺麗な立体を作り出している。今までの盤と違い明らかに音の解像度が良い、良すぎる。なんなら2020年のロックバンドが奏でるべき理想の音だ。初めてLPで出したくなるのもわかる。
丁寧に展開は進んでいき、サビに入る。
またもや世界が広がる。UKロックサウンドが弦と交わり、体の真髄まで響き渡る。

その両手に繋がれた鎖
タンバリン代わりにして踊れるか

タンバリンを叩いているあの人の姿がよぎってしまう。笑

流行り廃りがあると百も承知で
そう あえて俺のやり方でいくんだって自分をけしかける
四半世紀やってりゃ色々ある
あちらを立てれば こちらは濡れずで破綻をきたしそうです

リリックからも伝わる通り、桜井さんのモードが明らかに違う。

サルバドール・ダリ
ってちょっとグロくない?
普通じゃない感じが良い
We were born to be free

何よりこれ、最高のパンチラインというか。
こういう韻の踏み方をロックバンドがすると悪い意味で寒気がする時があるんだけど、このリリックは好き。きっと何から何まで意識して書いてるんだろうな。
もうこの時点で、自分が知っているミスチルとは色々と違う。
2020年のこの廃れた邦ロック産業、というよりはカルチャーそのものに対するMr.Childrenからの回答だろう。



2. Brand new planet


この曲は、『DANCING SHOES』の次だということもあるのか、いわゆるダンスミュージックの構成を意識していると思う。賞味期限切れの構成ではある気がするが今はそんなことどうだって良い。

最初のサビで盛り上げず、旋律やリリックをまずじっくり聴かせ、そしてそこからリズムでもっていく。「スネアいらねぇな。」とは思いつつ、あくまでロックなのでそこはしょうがない。我慢しなければ。
そんなことよりも、サビのハイハットが好きなのでこれがあるだけで、もうなんでもいい。
ブレイクも長めで田原さんのギターがとても心地良くて、一生聴いていられる。
桜井さんのボーカルとキーボードとストリングスだけになった時にはもう、完全に自分の心はMr.Childrenに掴まれている。
最後のサビなんて、もう最高じゃないですか。
ボーカルの処理も完璧で、前に出すぎず、あくまで一つの楽器として計算されてミックスされている。
何よりストリングスが本当に完璧で、弦の音のバランスや旋律が良すぎる。

なぜこんなに音やストリングスが良いのか調べると、今回の盤の特徴として、レコーディングエンジニアやストリングスアレンジ、マスタリングを、グラミーを取っているレベルの海外の人達が集まっているので、その時点である一定の質は決まっているのだが、それに加え、弦やキーボード、パーカッションまでも海外のアーティストを起用している。
つまり、ミスチル以外全員海外のアーティストという、今までの盤との明らかな違いがある。
その中でも自分が注目している人物は、ストリングスアレンジ、編曲を担当しているSimon Haleだ。この方はサムスミス宇多田ヒカルを手掛けていて、グラミーだけでなく、トニー賞の編曲賞も手にしている。なんなら、英国アカデミー賞「最優秀音楽賞」を手にしているまさに逸材。
その人が明らかに、今回のアルバムのキーパーソンで、聴いてわかる通り、ストリングスアレンジがもう完璧。
あの桜井さんが自分の楽曲に弦が入ったデモを聴いて、涙を流してしまうほどのアレンジを加えた素晴らしいアーティストだ。

常田大希主宰のクリエイターチームPerimetronが手がけるMVも良いので是非見て欲しい。

この手で飼い殺した
憧れを解放したい
消えかけの可能星を見つけに行こう
何処かでまた迷うだろう
でも今なら遅くはない
新しい「欲しい」まで もうすぐ

ラストのサビがこの歌詞なのも素晴らしい。
"この手で飼い殺した憧れ"
桜井和寿はドラマのタイアップ曲でもあるこの曲のラストのサビでこれを書ける人なんだと改めて感じる。






3. turn over?

この感じ、まさに自分が馴染んできたミスチルだ。
途中で入るクラップやサビで鳴るパーカッション。たぶんボンゴだろう。
この音たちを聴きたくて、この曲を何回も聴いてしまうほど、やはり良い役割を果たしている。

地球は回る 僕らとは無関係で
それもそうさ いろんなカタチの愛があって
今日も生まれては消えてく

去年のcold playのアルバムのように、既に売れまくっているアーティストが、歌詞やサウンド面で、そっと側に寄り添うような曲を奏でてくれるのは本当に嬉しい。








4. 君と重ねたモノローグ


この曲は良い意味で問題作だと思う。
他の曲と同様、ストリングスがまず最高。
そして、何より凄いのが構成。桜井さんの声が聞こえなくなってからが本当の勝負どころで、1番の盛り上がりが曲が終わりそうな場面になっているのがかなり面白い。
なんなら、ここから『やさしさに包まらたなら』が流れ出しても全然許せるぐらい良い。むしろこのまま次の曲へ行かずあの頃のユーミンを聴きたくなっている自分がいる。
そして、もっと面白いのが一旦ドラムがフェイドアウトしていき、ストリングスの心地よい音が流れ、そのままフェイドアウトして終わるかと思いきや、ドラムが再び顔を出し始める。もうほぼホラーに近い展開。まさに『Carrie』(1976)だ。ドラムの音もでかくなっていくし…。
何が言いたいかっていうと、遊び心満載で面白いってこと。
これは完全に、現場で楽しんで作っている。ミックスだけじゃなくて、レコーディングをロンドンでしているからこそ実現した楽曲だと思う。

それに、この時代に『Birthday』のカップリングとはいえ、7分超えの曲を作ることができる余裕があるのも凄い。
ストリーミングで繰り返し聴かれるように、分数を短くし、最初の数秒でリスナーを虜にするキャッチーさが必要とされ、TikTokで若者達に使ってもらえるようにサビの秒数にも制限がかかっている2020年で、狙っている層が違うとはいえ、平然とこれをやっているのはほんとに凄い。こんな自由に曲を作れるなんて、多くのアーティストが羨ましがるのではないだろうか。






5. losstime


『SOUNDTRACKS』に深みをもたらしているのは明らかにこの曲。
"口笛が入ってるMr.Childrenの曲は良い"という持論がまた立証された。例えば、

とか、

とか、どっちも良い曲だし、大切な曲。
改めて今聴くと、電車に揺られながら「蒼」をひたすらループしていた記憶が、その時眺めていた街の風景と共に脳内で放たれる。そして、「いつでも微笑みを」は優しい歌で、単純に自分自身助けられた。明るい曲調だからって理由で、最初は好きだったんだけど、歌詞を意識してからはより虜になってしまった。
2020年に聴かれるべき曲の一つでもあると思う。

losstimeもまた、歌詞を意識するとより情景が深くなり、この前後の曲の強度もより強くなるのではないだろうか。
それに、50歳になった桜井和寿だからこそこの楽曲を生み出すことができたのだとも思う。





6. Documentary film

希望や夢を歌った
BGMなんてなくても
幸せが微かに聞こえてくるから
そっと耳をすましてみる
ある時は悲しみが
多くのものを奪い去っても
次のシーンを笑って迎えるための
演出だって思えばいい

今まで生きてきて、こんなにも丁寧に寄り添ってくれた言葉やサウンドに出会ったことはあるだろうか。
「今までは技術で歌詞を書いていたところがあった。でも、もっとリアルに時代のことを歌わなければいけないと思った。ミスチル桜井さんの恐ろしさを知った。あの人が書く歌詞ってすごく普遍的で。こんな普遍的なことを外に向かって歌える勇気があるなんて、いい意味でどれだけナルシストなんだろうって。」
と山口一郎が語っていたのを思い出す。
題名がサウンドトラックとはいえ、わざと過ぎないか。桜井さんが珍しく真っ直ぐにこっちを向いて、曲を作ってくれた気がする。
この曲は、それ以上でも、それ以下でもないのではないだろうか。

ずっと今まで、聴き続けてきたかのような。
少なくとも、初めて出会った曲ではないような気ががする。それくらいミスチルらしい曲だと思う。
そうなると、今までと一体何が違うのか。
それは、桜井さんの美しい言葉や旋律に加え、simonの手によって美しく儚いサウンドに仕上がり、この曲の信頼度がより増していることだろう。





7. Birthday

バスドラムの心地良い音が鳴り響く。
そして、その音と共にこの曲は進んでいく。
ラストのサビへと向かう間奏、その音はより強度を増し、音に意味をも持たせる。
ただ、欲を言うとラストサビの前の桜井さんのボーカルに寄り添うギターはもっと落ち着いた感じにできなかったのかなと思ってしまった。
最初にこの曲を単体で聴いた時、「ふーん。」ぐらいだったやつが何を言ってるんだって話だけど。笑
ここまでの6曲で心を完全に掴まれているので、やはりアルバム単位で作品を聴くと言うのは大切なことだと再確認した。


歴史なんかを学ぶより解き明かさなくちゃな
逃げも隠れも出来ぬ今を






8. others

最高ですよね、この曲。
テレビで見たキリンレモンのCMの数十秒だけで、「あ、この曲やばいな。」と感じてしまっただけあって、一番期待していた曲ではあったけど、もうそれを遥かに上回ってくるストリングスの響きと、桜井さんが紡ぎ出す言葉、旋律。そして、まさかの「君と重ねたモノローグ」の構成の再来!
完全にバンドというよりはオーケストラ。新海誠に次はradwimpsなんかと組まずにどうか、この曲を映画内で流してくれませんか?と何をしてでも頼みたい。(この楽曲、新海誠の絵と相性、絶対にいいと思う。)
どっちにしろ、この曲のタイアップ一発目がキリンレモンって何考えてんだろ。コロナでごちゃごちゃになっているのだとしても、映画館の音響でフルで流すべきでしょ。

そして何より重要なのは、『others』まで聴いてわかる通り、今回のアルバムの楽曲はライブに向けて書かれたものでないことがわかる。
スタジアムやアリーナで鳴らす為に作られていない。なんなら、オケを率いてホールでやらなくては成り立たない楽曲たちばかりだ。
邦ロックのバンドがフェスで勝つ為に、フェス仕様の楽曲を作ったりしていたのを寒い目でみていたので、2020年になって、実際にフェスができなくなった時、どう生き残っていくのか。何を鳴らすべきなのか。
Mr.Childrenは真っ先にその道を示してくれたのではないだろうか。






9. The song of praise

「この曲、絶対東京オリンピックのタイアップの為に作った曲でしょ。」と誰もが言ってしまいそうになるのではないだろうか。どの道、zipのオープニングで流れてるだけなんて勿体ない。

旋律も良いし、思わず口ずさんでしまいそうになる。唯一、アリーナでみんなが合奏しているのが脳裏に浮かんでくる曲だと思う。このような曲をしっかり入れることで、いわゆるミスチルファンも満足するんだろうなぁと思う。

何故かわからないけど、自分はこの曲を聴いた後、これを聴きたくなった。

https://youtu.be/XpLyntX5JVc

そう、びっくりするほど、関係ないけど、今聴いてもめっちゃいい曲。







10. memories

最後の曲というだけで、身構えてしまいそうになるが、音が流れ始めた瞬間、自然と目を閉じてしまうほど、心地良く、この時間が一生続けばいいのに、と心からそう願ってしまう。

心臓を揺らして
鐘の音が聴こえる
僕だけが幕を下ろせないストーリー

ねぇ誰か教えてよ
愛しい気持ちはどうして
こんなにも こんなにも
この心 惑わすのだろう?
いつの日も いつの日も

最後の30秒、この30秒にこのアルバムの全てが詰まっている気がする。
それまでずっと描かれてきた物語のように、美しく、心地良く、静かに幕はおりていく。
まさにこの物語の終わりにふさわしい最後だ。










『SOUNDTRACKS』を聴き終えて。




桜井さんがこの作品で最後にしたいと思わず言葉にしていた理由がなんだかわかる。
ここまで美しい歌詞、旋律、リズムを生み出してしまえば、ここで終えたくなる気持ちも素人ながらわかってしまうし、実際にMr.Childrenから届く作品がこれで最後でも良いと思ってしまっている自分がここにいる。
そのくらい素晴らしい作品だった。

正直、3月以降、好きなアーティストでも、時代の空気となんか合わないなと思った作品は、なんだかのれなかったり、避けてしまったりすることもあった。
その時よりも事態が重くなっている2020年12月2日に産み落とされたこの作品は、Mr.Childrenと今回のチームがこのアルバムの音源を制作していた情勢とはかなり違うはずなのに、スッと自分の中に解け込んでくる。自分だけではなく、今の時代の空気とも合致するのではないだろうか。
そんなこのアルバムから、感じたことがある。
それは、世界が変わったとしても、生きるうえで大切にすべきことは、その前と同じで何も変わっていないということだ。
そんな当たり前のことを、現在進行形で進んでいくクソみたいな日々にそっと寄り添って手を差し伸べながら、その日常に隠れている美しさと共にMr.Childrenは僕に教えてくれた。

だからと言って、「このアルバムは自分のサウンドトラックです。」なんて、口がすべっても言えない。
ただ、このアルバムを聴き終わった前と後では、明らかに情景が違う。
"優れたアートとは、観客を虜にし、観客がその前の自分に戻りたくても、戻れなくするものだ"とどこかで聞いたことがある。
今の自分にはそれが当てはまる。
それは、過去にMr.Childrenの作品を自分から初めて受け取ったあの日と同じ感覚を味わっているということを意味するのではないだろうか。
そんな嬉しいことはない。
そんな体験を21歳になりかけの自分に与えてくれたのだから、感謝しかない。

とりあえず心から言いたいことは、
このアルバムは最高だということ。
そして、Simon Haleが好き。
彼が手がけたアルバムを絶賛聴いていっている。



後は、CDについてくる映像作品を是非見て欲しい。
Mr.Childrenは桜井和寿ありきのバンドだと思い込んでる人が多いと思うが、そんなことはない。
あの4人だからこそ今まで戦ってこれたし、今回の作品も生まれたのだと知ることができると思う。
Perimetronの映像もなんだか儚い良さがある。






最後に、Radioheadの曲を何曲か載せたいと思う。
比べたいわけではない。
桜井和寿がなぜ四半世紀経ってもMr.Childrenとして音楽をやっているのか。
その理由が少しわかるのではないだろうか。

Mr.Childrenと同世代のバンドであり、世界で最も創造的な音楽グループRadioheadから『The Bends』『No Surprises』『Idioteque』『Creep』。




小林武史ではなく、自分たちが選んだ最高の編曲家やエンジニアを迎え、出来上がった最高傑作『SOUNDTRACKS』。
ここからがMr.Childrenの新たなスタートだと思わずにはいられない。
アルバムを出す度、新しい音を人々に届け魅了していったRadioheadのように自由に音楽を奏でて欲しい。
日本という場所で。




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