春風 月葉

文字書きです。

春風 月葉

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打算

 人の言葉には表と裏があるが、彼女の言葉に裏腹は存在していなかった。 「愛なんて所詮は打算ですよ。」皮肉っぽく言う彼女は私と目を合わせてくれない。  うん、そうかもしれないね。  私は窓の外に向いた彼女の横顔を眺めながら彼女に同意した。  夕陽を写す彼女の瞳は少し潤んでいて、ガラス玉にはない輝きを持っていた。  あぁ、そんな顔をしないでおくれよ。  彼女の涙を止めなくてはならないのに、この身体は動かない。 「無償の愛なんてないんです。」彼女はいくつもの感情が流れ出てしまうのを

    • 色褪せた宝石箱

       何年か前、小さな古着屋を訪れた。古民家を改築したのだろう背の低い天井の店内には多種多様な古着がそれぞれの持ち場に並び、新しい主人が現れるのを待っていた。その日は手持ちも少なく、何かを買うつもりはなかったので店内をフラフラとして時間を潰していると店の奥に古民家特有のやたらと傾斜のきつい階段があることに気がついた。別に立ち入りに制限もされておらず、店員も気にした様子がないので私は恐る恐るその階段を登ってみた。  そこは先ほどよりも天井こそ高いものの窮屈な空間で、そこにある古着た

      • 花れ時

         旅をしていると不思議な出会いをすることがある。 「手紙を届けてくれませんか。」街道の真ん中でそう叫ぶ少女を、周囲の人たちは気にもかけず通り過ぎる。気の毒に思った私は彼女に声をかけた。 「お嬢さん、どうしたんだい。」少女は壊れたラジオの様に同じ言葉を繰り返す。 「手紙を届けてくれませんか。」そう言って目の前に差し出された手紙を手に取ると、少女は花が咲いたようにぱぁっと笑った。 「この手紙をどこへ?」私は花柄の封蝋で丁寧に綴じられた淡い桜色の手紙に目をやりながら尋ねた。 「あの