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「性別変更時の手術要件違憲」判決文の読解に挑戦する~第2回

【はじめに】

 本稿は令和5年10月25日付の最高裁判決(性別の取扱いの変更申立て却下審判に対する抗告棄却決定に対する特別抗告事件)、いわゆる―性別変更時の手術要件違憲判決―の判決文全文を読解するための参考資料として作成しました。

 分量が長大になるため、シリーズ投稿となっています。本稿は第2回として、判決文の構成理解を目標とします。

 シリーズ第1回のリンクはこちら。判決文の要約理解が目標です。↓

【本論】

 2023年10月25日、最高裁大法廷は、性同一性障害特例法(以下特例法)の3条1項4号規定を憲法違反と判断しました。判決は裁判官15人の全員一致で支持されました。

 まず判決文の分量を確認します。PDFのドキュメント形式で、全36Pのボリュームがあります。

 判決文自体は以下のリンク先から無料閲覧が可能です。↓

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/446/092446_hanrei.pdf

 分量が多いため、次に判決文の構成を把握することから始めます。判決文の章構成は以下の通りとなっています。対応するページ番号を振りますので、各パートの分量の目安にしてください。

 主文(p.1)
 第1:事案の概要(p.1-p.2)
 第2:本件規定の憲法13条適合性について(p.2-p.10)
 第3:結論(p.10-p.36)

 こう見るとほとんどの分量が結論部分に偏っているように見えるかもしれません。しかし中身を読んでみると結論部分は「結論そのもの」、「補足意見」、「反対意見」の三つのパートに分かれていることがわかります。反対意見に関しては3人の裁判官の見解が述べられています。実はこの反対意見が最も分量があります。再構成するとこうなります。

 主文(p.1)
 第1:事案の概要(p.1-p.2)
 第2:本件規定の憲法13条適合性について(p.2-p.10)
 第3-1:結論そのもの(p.10-p.10)
 第3-2:岡裁判官補足意見(p.10-p.10)
 第3-3-1:三浦裁判官反対意見(p.10-p.25)
 第3-3-2:草野裁判官反対意見(p.25-p.31)
 第3-3-3:宇賀裁判官反対意見(p.31-p.36)

 先ほど「判決は裁判官15人の全員一致で支持された」と述べましたが、再構成をみると3人の裁判官の反対意見が述べられていたり反対意見の分量が全体の約3/4を占めていたりすることがわかります。どういうことでしょうか。それが今回の判決の性質を把握するための重要なヒントになります。

 前回記事でも触れましたが、今回の判決は原告の訴えに対して特例法第3条1項のうち4号が憲法違反にあたるとの判決を出したものでした。改めて判決の全体像を確認してみましょう。

 こちらの図でも示している通り、判決結果に着目すれば、今回の判決は「4号違憲」「5号差し戻し」の二つの内容を持っています。裁判官3人から述べられた反対意見とは、今回の判決で5号違憲の判断を控えたことに対する反対意見のことを意味します。その反対意見の分量が全体の3/4を占める結果になったというわけです。

 従って今回の判決を理解するポイントは、結論そのものもさることながら、どのような理由から5号が憲法違反に該当すると考えられるのかというそのロジックにあります。

 それこそが今回の判決は、判決文そのものを自分の目で見て、しっかりと自分の頭で考えを練ることが大切だとわたしが考える一番の理由になります。

 5号要件の合憲性検討は高裁に差し戻されました。近い将来、この論点は再び最高裁の場に戻ってきます。そのときまでに―賛同するにせよ反対するにせよ―国民的な議論が積み上がっていることが極めて重要になります。

 なぜなら最高裁はいずれ来たるそのとき、国民的熟議を参照しつつ最終判決を下すことになるだろうからです。そしてその判決が、これからの日本のセックスやジェンダーの在り方に対して決定的な影響を与えていくだろうと考えられるからです。

 賛同するならなぜそういえるのか。反対するならなぜそういえるのか。今回の判決文にはそうした国民的議論のヒントや材料がたくさん含まれているようにわたしは思います。

 だからこそわたしは今回の判決文に一人でも多くの人の目に触れてほしいと考えています。本稿はそんな思いで執筆しているというお気持ちを伝えさせていただきたいと思います。

 判決文の総量は多いですが、再構成を見ていただくとわかる通り一つ一つのパートの分量はそう多くはありません。腰を据えればしっかりと把握できる内容になっています。

 次回は構成のうち、 
 第1:事案の概要(p.1-p.2)
 第2:本件規定の憲法13条適合性について(p.2-p.10)
 第3-1:結論そのもの(p.10-p.10)
 第3-2:岡裁判官補足意見(p.10-p.10)

 の、いわばセットで「本論」にあたる部分について補足資料を作成する予定です。(了)

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