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「性別変更時の手術要件違憲」判決文の読解に挑戦する~第1回

【はじめに】

 本稿は令和5年10月25日付の最高裁判決(性別の取扱いの変更申立て却下審判に対する抗告棄却決定に対する特別抗告事件)、いわゆる―性別変更時の手術要件違憲判決―の判決文全文を読解するための参考資料として作成しました。

 一般的に裁判の判決文に目を通す機会は乏しいように思いますが、本件に関しては国民的関心が高いため、判決文を自分の目で見て、しっかりと自分の頭で考えを練ることが大切だと思います。判決に賛同するにせよ反対するにせよ、ぜひ判決文原文に挑戦してみてください。

 分量が長大になることが予想され、分割作成・分割投稿を予定しています。本稿は第1回として、判決文の要約理解を目標とします。

 なお判決文自体は以下のリンク先から無料閲覧が可能です。 

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/446/092446_hanrei.pdf

【本論】

 2023年10月25日、最高裁大法廷は、性同一性障害特例法(以下特例法)の3条1項4号規定を憲法違反と判断しました。

 まず原告の主訴内容を確認します。
 特例法の第3条4号と5号は憲法13条、14条1項に違反するため無効。
 
しかしこれだけを見ても原告が何を訴えているのかはわかりません。

 次に特例法の理解を深めます。2004年7月16日に施行された特例法の制定趣旨は以下の通りでした。当時の法務大臣・南野知惠子氏の国会内の発言を引用します。

 性同一性障害は、生物学的な性と性の自己意識が一致しない疾患であり、性同一性障害を有する者は、諸外国の統計等から推測し、おおよそ男性三万人に一人、女性十万人に一人の割合で存在するとも言われております。
 性同一性障害につきましては、我が国では、日本精神神経学会がまとめましたガイドラインに基づき診断と治療が行われております。性別適合手術も医学的かつ法的に適正な治療として実施されるようになっているほか、性同一性障害を理由とする名の変更もその多くが家庭裁判所によって許可されているのに対して、戸籍の訂正手続による戸籍の続柄の記載の変更はほとんどが不許可となっております。
 そのようなことなどから、性同一性障害者は、社会生活上様々な問題を抱えている状況にあり、その治療の効果を高め、社会的な不利益を解消するためにも、立法による対応を求める議論が高まっているところでございます。

第156回国会 参議院 法務委員会 第18号 平成15年7月1日
https://kokkai.ndl.go.jp/simple/detail?minId=115615206X01820030701&spkNum=0#s0

 要約すると、特例法の趣旨は以下の通りになります。

  • 性同一性障害は精神疾患(当時)。

  • 性別適合手術は医学的かつ法的に適正な治療として既に容認済。

  • 家庭裁判所による名前の変更も既に容認済。

  • しかし戸籍上の性別変更はほとんどが不許可。

  • 治療方針や制度変更が認められている一方、戸籍上の性別変更が伴わないことは不整合。治療の効果向上と社会的な不利益の解消の観点から法的な対応が必要。

 次に特例法の内容を確認します。特例法の対象となる個人は以下の条件を満たす必要があります。

(定義)
第二条 この法律において「性同一性障害者」とは、生物学的には性別が明らかであるにもかかわらず、心理的にはそれとは別の性別(以下「他の性別」という。)であるとの持続的な確信を持ち、かつ、自己を身体的及び社会的に他の性別に適合させようとする意思を有する者であって、そのことについてその診断を的確に行うために必要な知識及び経験を有する二人以上の医師の一般に認められている医学的知見に基づき行う診断が一致しているものをいう。
(性別の取扱いの変更の審判)
第三条 家庭裁判所は、性同一性障害者であって次の各号のいずれにも該当するものについて、その者の請求により、性別の取扱いの変更の審判をすることができる。
一 十八歳以上であること。
二 現に婚姻をしていないこと。
三 現に未成年の子がいないこと。
四 生殖腺せんがないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること。
五 その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていること。

性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=415AC0100000111

 ややこしいですが、図示するとこうなります。「定義を満たす→①~⑤の審判条件を具備する」という流れを理解してください。

 最後に判決の要約になります。特例法が定める審判条件のうち、「4号:生殖腺の欠如または永続的な機能欠如」が違憲と判断されました。
 「5号:他の性別に近似する外観具備」については、判断を控え、高裁に差し戻しされました。

 補足として、憲法13条、14条1項の内容を確認します。

第十三条:すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする
第十四条(一):すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない

日本国憲法

 本稿の要点をまとめると以下の通り。今回の判決で何が争われたのか、どの点について結論が出たのか、どの点について結論が保留されたのかを理解することがポイントになると思います。

 次回は判決文の構成について補足資料を作成する予定です。(了)


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