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「表現の自由文庫」~表現の自由重要判例23選

【はじめに】

 このページは、表現の自由に関する重要判例集へのリンクを集めた判例データベースです。ニックネームは「表現の自由文庫」としました。

 「表現の自由文庫」は、表現の自由に関心のある方が重要判例を通じ、表現の自由を守るための基本的な考え方や法律知識などを確認することを目的に開設しました。

 判例は23ケースを収蔵しました。うち7判例が表現の自由にプラス、16例が表現の自由にマイナスな判決となっています。どういう場合に表現の自由が保障され、またどういう場合に表現の自由が制約されるのでしょうか? 法的な枠組みを知るうえで、心強い資料集になると期待しています。

 誰かと意見を交わすときや自分の考えをひとり深めるときなど、さまざまな場面でご活用ください。

 表現の自由界隈が、遵法精神において他の界隈と一線を画すことが広く知られるよう願っています。


📚憲法21条(表現の自由)📚

集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
②(前段)検閲は、これをしてはならない。
 (後段)通信の秘密は、これを侵してはならない。


【収蔵判例23選】


(1)✒犯罪の煽動と表現の自由―食料緊急措置令違反事件

事件番号:昭和23(れ)1308
事件名:食糧緊急措置令違反
裁判年月日:昭和24年5月18日
法廷名:最高裁判所大法廷
裁判種別:判決
結果:棄却
表現の自由には:⏬マイナス⏬

判事事項

  1. 食糧緊急措置令第11条と憲法第21条

  2. 食糧緊急措置令の合憲性

  3. 憲法第二一条の法意

  4. 食糧管理法の合憲性

事件概要

  1. 食糧管理法は、食糧管理法は、米や麦などの主要食食糧の生産・流通・消費について国が介入し、食糧の需給と価格の安定を目的とするもの。政府は供出価格や供出数量を決定し、生産者は食糧を公定価格によって政府に売り渡すべきことを定めている(現廃止済)。

  2. 同法が指示する「政府に対する主要食糧の売り渡し」をしないよう煽動した者を処罰する食糧緊急措置令第11条の規定が、憲法21条に違反するかが争われた。

判旨

  1. 憲法21条は基本的人権の一つとして言論の自由を保障するものの、主要食糧を政府に売渡ししないよう煽動するような言論行為は、政府の政策を批判し、その失政を攻撃するに止まらない。国民として負担するべき法律上の重要な義務の不履行を助長し、公共の福祉を害している。

  2. こうした言論行為は新憲法の保障する言論の自由の限界を逸脱し、社会生活において道義的に責められるべきもの。したがってこれを犯罪として処罰する法規は憲法21条に違反しない。

判例の意義

  • 公共の福祉原理による表現の自由の制約を初めて示した重要判例。

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(2)✒破壊活動防止法のせん動罪と表現の自由―沖縄デー事件、渋谷暴動事件

事件番号:昭和63(あ)1292
事件名: 破壊活動防止法違反
裁判年月日 :平成2年9月28日
法廷名: 最高裁判所第二小法廷
裁判種別:判決
結果 :棄却
表現の自由には:⏬マイナス⏬

判事事項

  1.  破壊活動防止法(破防法)39条及び40条の煽動を処罰する規定と憲法21条1項

事件概要

  1. 破防法39条及び40条上の「煽動」は、政治目的に基づいて、所定の犯罪を実行させる目的をもって、文書や言動等によりその犯罪行為を実行する決意を生じせしめ、または既に生じている決意を助長させるような強い刺激を与える表現活動

  2. 破防法39条及び40条が憲法21条に違反するかが争われた。

判旨

  1. 表現活動といえども、絶対無制限に許容されるものではなく、公共の福祉に反し、表現の自由の限界を逸脱するときには、制限を受けるのはやむをえない。

  2. 公共の安全を脅かす建造物等放火罪、騒擾罪等の重大犯罪を煽動する政治的言論は公共の福祉に反し、表現の自由の保護を受けるに値しないものとして、制限を受けるのはやむをえない。

  3. したがって破防法39条及び40条は憲法21条1項に違反しない。

判例の意義

  • 公共の福祉原理による【政治的言論の自由】の制約を初めて示した重要判例。

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(3)✒「有害図書」指定と表現の自由―岐阜県青少年保護育成条例

事件番号:昭和62(あ)1462
事件名:岐阜県青少年保護育成条例違反
裁判年月日:平成元年9月19日
法廷名:最高裁判所第三小法廷
裁判種別:判決
結果:棄却
表現の自由には:⏬マイナス⏬

判事事項

  1. 岐阜県青少年保護育成条例6条2項、6条の6第1項本文、21条5号の規定と憲法21条1項(補足意見がある)

事件概要

  1. 岐阜県青少年保護育成条例の6条2項、6条の6第1項本文、21条5号の規定による、有害図書の自動販売機への収納禁止の規制が、憲法21条1項に違反しないかが争われた。

判旨

  1. 有害図書が一般に思慮分別の未熟な青少年の性に関する価値観に悪い影響を及ぼし、性的な逸脱行為や残虐な行為を容認する風潮の助長につながるものであって、青少年の健全な育成に有害であることは既に社会共通の認識。

  2. 有害図書の自動販売機への収納の禁止は、青少年に対する関係において、憲法21条1項に違反しない。

  3. 成人に対する関係においても、有害図書の流通をいくらか制約することにはなるものの、青少年の健全な育成を阻害する有害環境を浄化する目的であって、必要やむをえない制約なので、青少年保護育成条例による有害図書指定は憲法21条1項に違反しない。

判例の意義

  • 青少年保護育成条例による有害図書指定制度を初めて合憲とした重要判例。

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(4)✒わいせつ文書の頒布禁止と表現の自由―チャタレー事件

事件番号:昭和28(あ)1713
事件名:猥褻文書販売
裁判年月日:昭和32年3月13日
法廷名:最高裁判所大法廷
裁判種別:判決
結果:棄却
表現の自由には:⏬マイナス⏬

判事事項

  1.  刑法第175条にいわゆる「猥褻文書」の意味

  2. 「猥褻文書」にあたるかどうかは事実問題か法律問題か

  3. 「猥褻文書」にあたるかどうかの判断の基準

  4. 社会通念とは何か

  5. 芸術的作品と猥褻性

  6. 猥褻性の存否と作者の主観的意図

  7. 刑法第175条に規定する猥褻文書販売罪における犯意

  8. 憲法第21条に保障する表現の自由と公共の福祉

  9. 憲法第21条第2項による検閲の禁止と猥褻文書販売罪。

事件概要

  1. 芸術的が価値が認められる海外文学、「チヤタレー夫人の恋人」の翻訳出版が、作品内にわいせつ表現を含むことを理由に刑法175条の処罰対象とされた。

  2. 憲法21条との関係から、刑法175条の処罰対象となるべき表現作品はあらゆる立場から見て有害無益な場合、たとえば春本類に限られるかが争われた。

判旨

  1. 刑法第175条上の【わいせつ文書】の定義~①その内容がいらずらに性欲を興奮または刺激させて、②普通人の正常な性的羞恥心を害し、③善良な性的道義観念に反する文書。

  2. 文書が【わいせつ文書】にあたるかどうかの判断は、当該文書について与えられる事実認定の問題でなく、法解釈の問題である。

  3. 文書が【わいせつ文書】にあたるかどうかは、一般社会において行われている良識、すなわち、社会通念に従って判断すべきもの。

  4. 社会通念は、個々人の認識の集合またはその平均値でなく、これを超えた集団意識であり、これに反する認識をもつ個々人がいるからといって否定されるものではない。

  5. 芸術的作品であっても猥褻性を有する場合がある。

  6. わいせつ性の有無は、作品自体によって客観的に判断すべきものであって、作者の主観的意図によって影響されるものではない。

  7. 刑法第175条に規定する"わいせつ文書販売罪"の故意性は、わいせつ表現の有無と、わいせつ表現を含んだ文書を頒布・販売することの自覚があれば足りる。刑法175条に抵触する水準のわいせつ性を備えていないとの個人的判断は、処罰を免れる条件にはならない。

  8. 憲法第21条の保障する表現の自由といえども絶対無制限のものではなく、公共の福祉に反することは許されない。

  9. 憲法第21条第2項によって事前の検閲が禁止されているからといって、わいせつ褻文書の頒布、販売の禁止が認められないわけではない。

判例の意義

  • 刑法175条によるわいせつ文書の頒布禁止が憲法21条に違反しないと初めて示された重要判例。

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(5)✒わいせつの概念―「悪徳の栄え」事件

事件番号:昭和39(あ)305
事件名:猥褻文書販売、同所持
裁判年月日:昭和44年10月15日
法廷名:最高裁判所大法廷
裁判種別:判決
結果:棄却
表現の自由には:⏬マイナス⏬

判事事項

  1. 芸術的思想的価値のある文書と猥褻性

  2. 文書の部分についての猥褻性と文書全体との関係

  3. 憲法21条、23条(学問の自由)と公共の福祉

事件概要

  1. 芸術的が価値が認められる海外文学、「悪徳の栄え(続)」の翻訳出版が、作品内にわいせつ表現を含むことを理由に刑法175条の処罰対象とされた。

  2. この刑法175条の適用解釈が憲法21条に違反するかが争われた。

判旨

  1. 芸術的・思想的価値のある文書であっても、これを猥褻性を有するものとすることに差し支えはない。

  2. 文書の個々の章句の部分の猥褻性の有無は、文書全体との関連において判断されなければならない。

  3. 憲法21条の表現の自由や23条の学問の自由は、絶対無制限なものではなく、公共の福祉の制限の下に置かれる。

判例の意義

  • 相対的わいせつ概念(作品を全体としてみれば、わいせつ性が緩和される場合を認める)を初めて示した重要判例。

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(6)✒わいせつ概念の再構築―「四畳半襖の下張」事件

事件番号:昭和54(あ)998
事件名:わいせつ文書販売
裁判年月日:昭和55年11月28日
法廷名:最高裁判所第二小法廷
裁判種別:判決
結果:棄却
表現の自由には:⏬マイナス⏬

判事事項

  1. 文書のわいせつ性の判断方法

事件概要

  1. 小説家・永井荷風著の性行為描写を含む短編小説、「四畳半襖の下張」が作品内にわいせつ表現を含むことを理由に刑法175条の処罰対象とされた。

  2. この刑法175条の適用解釈が憲法21条に違反するかが争われた。

判旨

  1. 文書のわいせつ性の判断は、①文書の性に関する露骨で詳細な描写叙述の程度とその手法、②描写叙述の文書全体に占める比重、③文書に表現された思想等と描写叙述との関連性、④文書の構成や展開、⑤芸術性・思想性等による性的刺激の緩和の程度、⑥主として読者の好色的興味に訴えられるものかどうか―以上を総合的に考慮し、「いたずらに性欲を興奮または刺激せしめ、かつ、普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するもの」といえるか否かを決すべき。

判例の意義

・文書のわいせつ性の判断枠組みが具体的に示された重要判決。

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(7)✒営利的な広告の自由の制限―灸の適応症広告事件

事件番号:昭和29(あ)2861
事件名:あん摩師、はり師、きゆう師及び柔道整復師法違反
裁判年月日:昭和36年2月15日
法廷名:最高裁判所大法廷
裁判種別:判決
結果:棄却
表現の自由には:⏬マイナス⏬

判示事項

  1. 灸の適応型として神経痛、リヨウマチ、胃腸病等の病名を記載したビラの配布とあん摩師、はり師、灸師及び柔道整復師法第7条違反罪の成立。

  2. あん摩師、はり師、灸師及び柔道整復法第7条の合憲性。

事件概要

  1. 「あん(按)摩師、はり(針)師、きゆう(灸)師及び柔道整復師法7条」は、あん摩・はり・灸等の業務に関し、同条1項各号に列挙する事項以外の事項について広告することを一切禁止している。

  2.  灸業を営む被告人が、灸療法の適応症であるとして神経痛・リヨウマチ・血の道・胃腸病等の病名を記載したビラ約7,030枚を各所に配布した行為は、効能の広告を禁止する「あん摩師、はり師、灸師及び柔道整復師法第7条」に違反するかが争われた。

判旨

  1.  同法が灸療法の適応症の広告を許さないのは、もしこれを無制限に許容すると、ややもすれば集客のために虚偽誇大に流れ、一般大衆を惑わすおそれがあって、結果として適時適切な医療を受ける機会を失わせるような事態の招来をおそれるため。

  2. このような弊害を未然に防止するために一定事項以外の広告を禁止することは、国民の保健衛生上の見地から、公共の福祉を維持するためやむをえない措置といえる。同条は憲法21条に違反しない。

判例の意義

  • 営利的言論(営利的な広告)が憲法21条の保障範囲に入ることを示すとともに、公共の福祉(国民の保健衛生等)の見地からは一定の制約を受けることもやむをえないと明らかにした重要判例。

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(8)✒屋外広告物条例と表現の自由―大阪市屋外広告物規制条例事件

事件番号:昭和41(あ)536
事件名:大阪市屋外広告物条例違反
裁判年月日:昭和43年12月18日
法廷名:最高裁判所大法廷
裁判種別:判決
結果:棄却
表現の自由には:⏬マイナス⏬

判示事項

  1.  昭和31年大阪市条例第39号、大阪市屋外広告物条例第13条第1号、第4条第2項第1号、第3項第1号と憲法第21条

事件概要

  1. 被告人は、「四十五年の危機迫る!!国民よ決起せよ!!C会本部」などと印刷したビラ合計26枚を大阪市内の一三箇所の橋柱、電柱および電信柱にのりで貼りつけ、大阪市屋外広告物条例13条1号等を適用され、罰金刑に処された。

  2. なんら営利と関係のない純粋な思想・政治・社会運動である本件印刷物の貼付に、大阪市屋外広告物条例違反を適用した判断が、憲法21条に違反するかが争われた。

判旨

  1. 国民の文化的生活の向上を目指す憲法の下においては、都市の美観風致を維持することは、公共の福祉に資するものだと考えられる。

  2. 営利目的があるかに関わらず、屋外広告物条例は大阪市における美観風致を維持し、公衆に対する危害を防止するために、屋外広告物の表示の場所、方法等に必要な規制を定めている。

  3. 以上の規制は公共の福祉のため、表現の自由に対し許された必要かつ合理的な制限と解すべき。従って同法の禁止規定は憲法21条に違反しない。

判例の意義

  • 都市の美観風致の維持を根拠として、屋外広告物条例による表現の自由(政治的意見を表現した電柱等へのビラ貼り)の規制を合憲と認めた重要判例。

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(9)立看板と表現の自由―大分県屋外広告物条例

事件番号:昭和59(あ)1090
事件名:大分県屋外広告物条例違反
裁判年月日:昭和62年3月3日
法廷名:最高裁判所第三小法廷
裁判種別:判決
結果:棄却
表現の自由には:⏬マイナス⏬

判示事項

  1. 大分県屋外広告物条例33条1号、4条1項3号を適用しても憲法21条1項に違反しないとされた事例

事件概要

  1.  被告人は大分県屋外広告物条例によって広告物の表示を禁止されている街路樹2本の支柱に、政党の演説会開催の告知宣伝を内容とするプラカード式ポスター2枚を針金でくくりつけた。

  2. 同条例によってこれを処罰することが憲法21条1項に違反するかが争われた。

判旨

  1. 街路樹の支柱へのプラカード2枚のくくりつけとはいえ、都市の美観風致を損なって公共の福祉を害するもの。

  2. 本条例による処罰は、表現の自由に対し許された必要かつ合理的な制限と解され、憲法第21条に違反しない。

判例の意義

  • 表現の自由の制約は必要かつ合理的なものに限られる必要があるが、街路樹の「支柱」へのプラカード「2枚」のくくりつけさえ、公共の福祉に反することが示された重要判例。

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(10)✒駅構内でのビラ配布と表現の自由―吉祥寺駅構内ビラ配布事件

事件番号:昭和59(あ)206
事件名:鉄道営業法違反、建造物侵入
裁判年月日:昭和59年12月18日
法廷名:最高裁判所第三小法廷
裁判種別:判決
結果:棄却
表現の自由には:⏬マイナス⏬

判示事項

  1. 鉄道営業法35条及び刑法130条後段を適用しても憲法21条1項に違反しないとされた事例

事件概要

  1. 被告人4名はA線の吉祥寺駅構内において、駅係員の許諾を受けずに乗降客らに対してビラ多数枚を配布して演説等を繰り返したうえ、同駅の管理者からの退去要求を無視して約20分間にわたり同駅構内に滞留した。

  2. 鉄道営業法35条等違反を適用してこれを処罰したが、憲法21条1項に違反するかが争われた。

判旨

  1. たとえ思想を外部に発表するための手段であっても、その手段が他人の財産権、管理権を不当に害するものは許されない。従って鉄道営業法35条他による処罰は憲法21条1項に違反しない。

判例の意義

  • 駅のようなパブリックフォーラムといえども、管理地の管理権が表現の自由に優先することを初めて認めた重要判例。

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(11)✒集合住宅へのビラ投函と表現の自由―立川反戦ビラ配布事件

事件番号:平成17(あ)2652
事件名:住居侵入被告事件
裁判年月日:平成20年4月11日
法廷名:最高裁判所第二小法廷
裁判種別:判決
結果:棄却
表現の自由には:⏬マイナス⏬

判事事項

  1. 管理者が管理する、集合住宅(公務員宿舎)の1階出入口から各室玄関前までの部分、および門塀等を設置したその敷地が、刑法130条の邸宅侵入罪の保護範囲にあたるとされた事例

  2. 各室玄関ドアの新聞受けに政治的意見を記載したビラを投かんする目的で、管理権者の意思に反して集合住宅(公務員宿舎)の敷地等に立ち入った行為を刑法130条前段によって処罰することが、憲法21条1項に違反しないとされた事例

事件概要

  1. 「立川自衛隊監視テント村」(以下「テント村」という。)は、自衛隊の米軍立川基地移駐に際して結成された団体で、反戦平和を課題とし、示威運動や駐屯地に対する申入れ活動等を行っている。被告人3名は、いずれもテント村の構成員として活動している。

  2. テント村は、平成15年夏に関連法律が成立して自衛隊のイラク派遣が迫ってきた頃から、これに反対する活動として、駅頭情報宣伝活動やデモを積極的に行うようになった。

  3. テント村は、平成15年夏に関連法律が成立して自衛隊のイラク派遣が迫ってきた同年10月頃から、防衛庁立川宿舎(以降、「立川宿舎」)に住む自衛官及びその家族に向けて、3回にわたって「自衛官のみなさん・家族のみなさんへ イラクへの派兵が何をもたらすというのか?」、「自衛官のみなさん・家族のみなさんへ 殺すのも・殺されるのもイヤだと言おう」、「イラクへ行くな、自衛隊! 戦争では何も解決しない」との表題のA4判大のビラを、立川宿舎の1階出入口の集合郵便受け、または各室玄関ドアの新聞受けに投かんした。

  4. 集合住宅内の各室内には侵入していないものの、管理者の注意にも関わらず敷地内に侵入して政治的言論活動を行ったことが、憲法21条の保障の範囲となるかが争われた。

判旨

  1. 管理者が管理する公務員宿舎(集合住宅)の階段通路部分、および門塀に囲まれた敷地は刑法130条(住居侵入罪)にいう「人の看守する邸宅」の保障範囲にあたる。

  2. 各室玄関ドアの新聞受けに政治的意見を記載したビラを投かんする目的で、公務員宿舎(集合住宅)の共用部分および敷地に、同宿舎の管理権者の意思に反して立ち入った行為を刑法130条で処罰することは、憲法21条1項に違反しない。

判例の意義

  • 集合住宅への広告ビラは黙認される一方、政府方針に批判的な立場からのビラ投函を住居侵入罪によって処罰することが憲法21条に違反しないと初めて示された重要判例。

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(12)✒プライバシーと表現の自由―「宴のあと事件」

事件番号:昭和36年(ワ)第1882号
事件名:損害賠償
裁判年月日:昭和39年9月28日
法廷名:東京地方裁判所
裁判種別:判決
結果:一部請求認容、一部請求棄却
表現の自由には:⏬マイナス⏬

判示事項

フィクション小説におけるプライバシー権の侵害の成立

事件概要

  1. 三島由紀夫が、実在する政治家をモデルとした「宴のあと」という小説を執筆・出版。

  2. 小説内には、三島が事実をもとに想像した政治家の私生活(離婚や妻を踏んだり蹴ったりする描写等)が露わに描かれていたが、これらがプライバシー権の侵害に該当するかが争われた。

判旨

  1. プライバシー権とは「私生活をみだりに公開されないという法的保障なし権利」と定義。

  2. 私生活の公開とは、必ずしもすべて真実でなければならないものではなく、一般人にとって真実らしく受け取られるものであれば、同様にプライバシーの侵害として捉えられると考えるべき。

  3. たとえモデル小説(フィクション)とはいえ、実在人物の私生活をみだりに公開した当該小説はプライバシー権の侵害にあたり、三島がモデルに損害賠償を支払うことは憲法21条違反に該当しない。

  4. なお謝罪広告の必要性は認めない。

判例の意義

  • プライバシー侵害を理由として表現の自由を規制することが初めて認められた重要判例。

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(13)✒ノンフィクションと前科の公表―「逆転」事件

事件番号:平成1(オ)1649
事件名:慰藉料
裁判年月日:平成6年2月8日
法廷名:最高裁判所第三小法廷
裁判種別:判決
結果:棄却
表現の自由には:⏬マイナス⏬

判示事項

  1. ある者の前科等にかかわる事実が著作物で実名を使用して公表された場合における損害賠償請求の可否

事件概要

  1. 戦後米国の統治下でにあった沖縄で、住人4名と米兵2名との間で喧嘩があり、米兵が死傷する傷害事件があった。

  2. およそ10年後、本事件を題材としたノンフィクション小説「逆転」が出版され、うち住人1名の実名が使用されたため、住人が秘匿していた前科が公表されて精神的苦痛を被ったと主張して、著作者に対して慰謝料の支払いが請求された。

  3. ノンフィクション小説における前科の公表がプライバシーの侵害にあたるかが争われた。

判旨

  1. 特定の個人の前科などの事実が、著作物で実名を使って公表された場合、その公表の正当性を判断する必要がある。

  2. 前科などの事実を公表されないことの法的利益が、その公表の利益に優越する場合、被害者は精神的苦痛の損害賠償を請求することができる。

判例の意義

  • ノンフィクション小説における前科情報の公表がプライバシーの侵害にあたると明らかにした重要判例。

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(14)✒プライバシー侵害と表現の自由―「石に泳ぐ魚」事件

事件番号:平成13(オ)851
事件名:損害賠償等請求事件
裁判年月日:平成14年9月24日
法廷名:最高裁判所第三小法廷
裁判種別:判決
結果:棄却
表現の自由には:⏬マイナス⏬

判示事項

  1.  名誉、プライバシー等の侵害に基づく小説の出版の差止めを認めた判断に違法がないとされた事例

事件概要

  1. Xは昭和44年に東京都で生まれた韓国籍の女性。昭和55年以降韓国に居住してきたが、韓国ソウル市内の大学を卒業した後の平成5年に来日し、邦学の大学院に在籍。

  2. Xは幼少時に血管奇形に属する静脈性血管腫に罹患し、幼少時からの多数回にわたる手術にもかかわらず完治の見込みはなく、その血管奇形が外貌に現れている。

  3. またXの父は日本国内の大学の国際政治学の教授であったが、昭和49年に講演先の韓国においてスパイ容疑で逮捕され、53年まで投獄された事実があった。

  4. 作家の柳美里は、そのデビュー小説においてXをモデルとした「石に泳ぐ魚」を執筆・出版したが、小説内にはXの顔面の腫瘍につき、水死体の顔などに例えて描写するなど、異様なもの、悲劇的なもの、気味の悪いものなどと受け取られる苛烈な表現を与えた。またXの父親が逮捕された経歴を有していること等、Xが公開を望まない私生活の記述が含まれていた。

  5. Xは柳美里に対して慰謝料と出版差し止めを訴えた(出版差し止めに関してはのちに取り下げ)。

判旨

  1. 公共の利益に関わらないXのプライバシーにわたる事項を表現内容に含む小説の出版により、公的立場にないXのプライバシーおよび名誉感情が侵害され、Xに重大かつ回復困難な損害を被らせるおそれがある。

  2. 同小説の出版の差止めを認めた法的判断には、憲法21条に照らしても違憲性がない。

判例の意義

  • プライバシー侵害に基づく出版物の法的な差し止めが初めて認められた重要判例。

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(15)✒プライバシーと忘れられる権利―検索サービス結果削除要求事件

事件番号:平成28(許)45
事件名 :投稿記事削除仮処分決定
裁判年月日:平成29年1月31日
法廷名:最高裁判所第三小法廷
裁判種別:決定
結果:棄却
表現の自由には:⏫プラス⏫

判示事項

  1. 検索事業者に対し、自己のプライバシーに属する事実を含む記事等が掲載されたウェブサイトのURLならびに当該ウェブサイトの表題、および抜粋を検索結果から削除することを求められる場合

事件概要

  1. Xは、児童買春をしたとの被疑事実に基づき、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反の容疑で平成23年11月に逮捕され、同年12月に同法違反の罪により罰金刑に処せられた。

  2. X抗が逮捕された事実(以下「本件事実」という。)は逮捕当日に報道され、その内容の全部または一部がインターネット上のウェブサイトの電子掲示板に多数回書き込まれた。

  3. インターネット検索の利用者がXの居住する県の名称およびXの氏名を条件として検索すると、利用者に対し、本件事実等が書き込まれたウェブサイトのURL等の情報(以下「本件検索結果」という。)が提供される。

  4. 本件はXが検索事業者に対し、人格権ないし人格的利益に基づき、検索結果の削除を求める仮処分命令の申し立てをした事案。

判旨

  1. インターネット検索事業者の検索結果は憲法21条が保障する表現行為に含まれると認定。

  2. 児童買春が公共の利害に関する事項であることを踏まえると、検索条件として県名を要すること(プライバシー公表の影響範囲が限定的)なども考慮し、表現の自由がプライバシー侵害に優越すると判断し、検索結果の削除請求は認めない。

判例の意義

  1. インターネット検索事業者の検索結果が、憲法21条の保障する表現行為に含まれると初めて示された重要判例。

  2. また本事件ではプライバシー侵害が認められなかったものの、条件が整えば国民には検索結果の削除請求権(いわゆる「忘れられる権利」)が認められることを示唆した点でも注目に値する。

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(16)✒言論の自由と名誉毀損における真実性の証明―「夕刊和歌山時事」事件

事件番号:昭和41(あ)2472
事件名:名誉毀損
裁判年月日:昭和44年6月25日
法廷名:最高裁判所大法廷
裁判種別:判決
結果:破棄差戻
表現の自由には:⏫プラス⏫

判示事項

  1. 事実を真実と誤信したことにつき相当の理由がある場合と名誉毀損罪の成否

事件概要

  1. Xは昭和38年2月18日付「夕刊和歌山時事」に、「吸血鬼Aの罪業」と題し、Yの指示のもとに、新聞記者が和歌山市役所土木部の某課長に向かって『出すものを出せば目をつむつてやるんだが、チビリくさるのでやつたるんや』と聞こえよがしの捨てせりふを吐いたうえ、今度は上層の某主幹に向かって『しかし魚心あれば水心ということもある、どうだ、お前にも汚職の疑いがあるが、一つ席を変えて一杯やりながら話をつけるか』と凄んだ旨の記事を掲載し、頒布。

  2. 公然事実を摘示してYの名誉を毀損したとして名誉毀損罪に処せられた。

  3. Xの弁護人は「Xは証明可能な程度の資料、根拠をもって事実を真実と確信したから、被告人には名誉毀損の故意が阻却され、犯罪は成立しない」と主張し、名誉毀損罪適用が憲法21条に違反するかが争われた。

判旨

  1.  刑法230条の2第1項にいう「事実が真実であることの証明がない場合」でも、行為者がその事実を真実であると誤信し、その誤信したことについて、確実な資料、根拠に照らし相当の理由があるときは、犯罪の故意はないと考えられる。

  2. 名誉毀損の罪は成立しないものと解するのが相当。

判例の意義

  • 真実相当性を備えた言論の自由が、憲法21条の保障範囲となることが示された重要判例。

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(17)✒名誉毀損と「公共ノ利害ニ関スル事実」―「月刊ペン」事件

事件番号:昭和55(あ)273
事件名:名誉毀損
裁判年月日:昭和56年4月16日
法廷名:最高裁判所第一小法廷
裁判種別:判決
結果:破棄差戻
表現の自由には:⏫プラス⏫

判示事項

  1.  私人の私生活上の行状と刑法230条の2項1項にいう「公共ノ利害ニ関スル事実」

  2. 刑法230条の2第1項にいう「公共ノ利害ニ関スル事実」にあたるとされた事例

  3. 刑法230条の2第1項にいう「公共ノ利害ニ関スル事実」にあたるか否かの判断方法

事件概要

  1. 株式会社Aの編集局長であるXは、同社発行の月刊誌『月刊ペン』誌上で連続特集を組み、諸般の面から宗教団体Bを批判するにあたり、同会における象徴的存在とみられる会長Cの私的行動を採り上げた。記事中にはCの性的嗜好や女性関係、公明党への影響などが赤裸々に述べられていた。

  2. プライバシーの公表をともなう「公共の利害に関する事実」についての批判表現が、名誉毀損罪の処罰にあたるかどうかが争われた。

判旨

  1.  私人の私生活上の行状であっても、そのたずさわる社会的活動の性質や社会に及ぼす影響力の程度などによっては、その社会的活動に対する批判ないし評価のいち資料として、刑法230条の2第1項にいう「公共ノ利害ニ関スル事実」にあたる場合がある。

  2. 多数の信徒を擁するわが国有数の宗教団体Bの会長C(当時)は、信仰上の絶対的な指導者であって、公私を問わずその言動が信徒の精神生活等に重大な影響を与える立場にあった。また同会長が国会議員等への影響力を持っていたという事実関係を踏まえれば、宗教団体Bの教義ないしあり方を批判し、その誤りを指摘するにあたり、会長Cの私生活上の女性関係は刑法230条の2第1項にいう「公共ノ利害ニ関スル事実」にあたる。

  3. したがって会長Cのプライバシーの公表をともなう「公共の利害に関する事実」についての批判表現は憲法21条の保障範囲といえ、名誉毀損罪にはあたらない。

判例の意義

  • 単に公人・公人候補者のみならず、私人であっても「社会的活動の性質及びこれを通じて社会に及ぼす影響力の程度」を考慮し、「公的人物」として扱われ、批判の受忍限度が広く求められるという規範が示された。

  • 「公的人物」の範囲を示した重要判例。

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(18)✒公正な論評の法理―長崎市ビラ配布事件

事件番号:昭和60(オ)1274
事件名:損害賠償等
裁判年月日:平成元年12月21日
法廷名:最高裁判所第一小法廷
裁判種別:判決
結果:破棄自判
表現の自由には:⏫プラス⏫

判示事項

  1. 公立小学校における通知表の交付をめぐる混乱についての批判、論評を主題とするビラの配布行為が名誉侵害としての違法性を欠くとされた事例

事件概要

  1. 長崎市内の公立小学校で、昭和53年度の第1学期に一部の学校が3段階絶対評価方式を5段階相対評価方式に改めたのを契機とし、これに反対する教師が終業式当日に通知表を児童に交付しないなどの混乱が生じた。

  2. 昭和56年1月の第3学期開始時に至っても、7校56クラスで通知表が交付されない事態が継続。

  3. このような事態が長崎市内の教育関係者のみならず一般市民の間でも大きな関心事になっていた最中、かねてより教育問題等について言論活動をしていたXは、自己の収集した資料に基づき、一部教師が通知表を交付しなかった事実を確認。

  4. これが組合に所属する教師が学校当局に対して行う抗争であるとの認識に立ち、昭和56年2月初旬ころ、「父母の皆さん、そして市民の皆さん」と題するB四版大のビラ(以下「本件ビラ」という)約5,000枚を作成した上、これを教師勤務先の学校の児童の下校時に手渡し、ならびに校区内の家庭の郵便受に投函、さらには長崎市内の繁華街で通行人に手渡しして配布した。

  5. 本件ビラにはXが把握した事実に加え、「教師としての能力自体を疑われるような『愚かな抵抗』」、「教育公務員としての当然の責任と義務を忘れ」、「お粗末教育」、「有害無能な教職員」等の表現が用いられ、加えて「通知表問題でわかった有害無能な教職員の一覧表」と題する一覧表においては、一部教師らの各勤務先学校名・担任クラス・氏名・年齢・住所・電話番号が個別的に記載された。

  6. 掲載された教師は名誉を毀損されたとして、損害賠償請求および謝罪広告の掲載を求めて民事裁判に踏み切った。

判旨

  1. ビラ内容は、一般市民の間で大きな関心事になっていた通知表の交付に関する混乱を批判し、論評する政治的な意見表明にあたる。

  2. 通知表をめぐる混乱は一般住人でも大きな関心事になっており、ビラ配布の主目的は教師の個人攻撃に終始するとは言い切れず、公益を図る目的を備えているといえる。

  3. ビラの内容は、客観的事実の主要な点について真実の証明が存在する。

  4. 以上を踏まえると個人情報の公表を含むビラの配布行為は、全体として公正な論評としての域を逸脱していない。

  5. 憲法21条の保障範囲内といえ、名誉侵害としての不法行為にあたらない。

  6. なお名誉毀損は認めず謝罪広告請求は棄却されたが、一部教師らがビラの配布に起因して受けた嫌がらせ行為による人格的利益侵害は認められ、教師らに各2万円の慰謝料の支払いが命じられた。

判例の意義

  1. 主観的な論評における名誉毀損の不法行為の成立要件を特に定式化した初めての重要判例。

  2. 公共目的の論評は、その前提とする事実が人身攻撃に及ぶなど論評としての域を逸脱したものではない限り、名誉毀損の違法性が免責されるとの基準が示された。

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(19)✒少年事件の推知報道―長良川事件報道訴訟

事件番号:平成12(受)1335
事件名:損害賠償請求事件
裁判年月日:平成15年3月14日
法廷名:最高裁判所第二小法廷
裁判種別:判決
結果:破棄差戻
表現の自由には:⏫プラス⏫

判示事項

  1.  少年法61条が禁止しているいわゆる推知報道に当たるか否かの判断基準

事件概要

  1. 連続殺人、強盗殺人、死体遺棄等の4つの事件により起訴された少年事件について、平成9年7月31日発売の「週刊文春」が「『少年犯』残虐」、「法廷メモ独占公開」などの表題のもとに、事件の被害者の両親の思いと法廷傍聴記等を中心にした記事を掲載した。

  2. その中には、被疑者の少年について仮名を用いて法廷での様子、犯行態様の一部、経歴や交友関係等を記載した表現があったが、これが少年法61条が禁止する推知報道(氏名、年齢、職業、住居、容貌などによって犯人が誰であるかが分かるような記事・写真等の報道)に該当し、名誉毀損やプライバシー侵害が成立するかが争われた。

判旨

  1. 少年法61条が禁止する推知報道にあたるか否かは、その記事等により、不特定多数の一般人がその者を当該事件の本人であると推知可能かを基準にして判断すべき。

  2. 当時の実名と類似する仮名が用いられ、その経歴等が記載されているものの、当時少年を特定するに足りる事項の記載は認められなかった。

  3. 名誉毀損ならば違法性阻却事由を検討する必要があるし、プライバシー侵害ならば公表されない法的利益と公表する理由とを比較衡量して検討する必要がある。

  4. しかし高裁の判断はこうした個別事情の検討することなく、ただちに推知報道が成立すると判断したものであって、審理不尽といわざるをえない。したがって控訴は高裁に破棄差し戻しする。

判例の意義

  • 少年法61条に抵触する推知報道の範囲に限界を与えた重要判例。

  • 仮に推知報道に該当するとしても、推知報道は絶対的禁止にはあたらず、個別事情の検討のもと認められる可能性を示唆した。

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(20)✒名誉毀損と事前差し止め―「北方ジャーナル事件」

事件番号:昭和56(オ)609
事件名:損害賠償
裁判年月日:昭和61年6月11日
法廷名:最高裁判所大法廷
裁判種別:判決
結果:棄却
表現の自由には:⏬マイナス⏬

判示事項

  1.  出版物の印刷・製本・販売・頒布等の仮処分による事前差止めと、憲法21条2項前段にいう検閲

  2. 名誉侵害と侵害行為の差止請求権

  3. 公務員又は公職選挙の候補者に対する評価、批判等に関する出版物の印刷、製本、販売、頒布等の事前差止めの許否

  4. 公共の利害に関する事項についての表現行為の事前差止めを仮処分によって命ずる場合と口頭弁論又は債務者審尋

事件概要

  1. 札幌地方裁判所がXの申請に基づき、「ある権力主義者の誘惑」と題する記事を掲載した月刊雑誌「北方ジャーナル」昭和54年4月号の事前差止めを命じたことが、憲法21条2項上の「検閲」にあたるかが争われた。

判旨

  1. 雑誌その他の出版物の印刷・製本・販売・頒布等の仮処分による事前差止めは憲法21条2項前段にいう検閲にあたらない。

  2. 名誉侵害の被害者は、人格権としての名誉権に基づき、現に行われている侵害行為を排除し、または将来生ずるだろう侵害を予防するため、加害者に対して侵害行為の差止めを求める権利を有する。

  3. 名誉権に基づく出版物の印刷・製本・販売・頒布等の事前差止めは、出版物が公務員または公職選挙の候補者に対する評価、批判等に関するものである場合には原則として許されない。

  4. 事前差し止めは、その表現内容が真実ではないことや、もっぱら公益を図る目的のものではないことが明白であって、かつ被害者が重大にして著しく回復困難な損害を被るおそれがあるときに限り、例外的に許される。

判例の意義

  • 検閲の範囲を示した重要判例。

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(21)✒輸入書籍・図画等の税関検査―札幌税関検査事件

事件番号:昭和57(行ツ)156
事件名:輸入禁制品該当通知処分等取消
裁判年月日:昭和59年12月12日
法廷名:最高裁判所大法廷
裁判種別:判決
結果:棄却
表現の自由には:⏬マイナス⏬

判示事項

  1. 関税定率法21条3項の規定による税関長の通知と抗告訴訟の対象

  2. 憲法21条2項前段の検閲禁止の趣旨

  3. 憲法21条2項にいう「検閲」

  4. 関税定率法21条1項3号所定の物件に関する税関検査と、憲法21条2項にいう「検閲」

  5. 関税定率法21条1項3号の規定による猥褻表現物の輸入規制と憲法21条1項

  6. 表現の自由を規制する法律の規定について限定解釈をすることが許される場合

  7. 関税定率法21条1項3号の「風俗を害すべき書籍図画」等との規定の意義及びその合憲性

事件概要

  1. 関税定率法21条1項3号は輸入禁制品として、「公安又は風俗を害すべき書籍、図画、彫刻物その他の物品」を掲げ、その輸入を禁止している。

  2. 本件においてXは外国から自己宛に郵便物を送ったが、税関検査を行った札幌税関支署長から「郵便物の中に3号物件に該当すると認めるのに相当の理由がある貨物がある」との通知を受け、郵便物の配達または交付を受けられなくなった。

  3. Xはこれが憲法21条2項に定める検閲の禁止にあたるとして、税関支署長が行った通知等の取り消しを求めて訴訟に踏み切った。

判旨

  1. 関税定率法21条3項の規定による税関長の通知は、抗告訴訟の対象となる行政庁の処分にあたる。

  2. 憲法21条2項前段の検閲禁止は、公共の福祉を理由とする例外の許容をも認めない趣旨と解すべき。

  3. 憲法21条2項にいう「検閲」とは、行政権が主体となって、思想内容等の表現物を対象とし、その全部又は一部の発表の禁止を目的として、対象とされる一定の表現物につき網羅的・一般的に、発表前にその内容を審査したうえ、不適当と認めるものの発表を禁止することを、その特質として備えるものを指すと解すべき。

  4. 関税定率法21条1項3号所定の物件に関し、輸入手続において関税徴収を目的として税関職員が行う検査は、憲法21条2項にいう「検閲」にあたらない。

  5. 関税定率法21条1項3号の規定による猥褻表現物の輸入規制は、憲法21条1項に違反しない。

  6. 表現の自由を制限する法律から具体的な解釈を引き出すときは、規制するものとそうでないものを明確に区別し、規制が必要かつ合理性が認められる範囲に留められなければならない。また一般人でも法律内の具体的な基準を読み取ることで、その表現が規制されるものかどうかを判断できるものでなければならない。

  7. 関税定率法21条1項3号の「風俗を害すべき書籍、図画」等とは、猥褻な書籍、図画等を限定して指すものと解すべき。制約の範囲が広汎または不明確とはいえず、憲法21条1項に違反するものではない。

判例の意義

  • 検閲の範囲を示した重要判例。

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(22)✒公立図書館の蔵書と著作者の表現の自由―船橋市西図書館蔵書破棄事件

事件番号:平成16(受)930
事件名:損害賠償請求事件
裁判年月日:平成17年7月14日
法廷名:最高裁判所第一小法廷
裁判種別:判決
結果:破棄差戻
表現の自由には:⏫プラス⏫

判示事項

  1. 公立図書館の職員が図書の廃棄について不公正な取扱いをすることと、当該図書の著作者の人格的利益の侵害による国家賠償法上の違法

事件概要

  1. 平成13年8月10日から同月26日にかけて、当時船橋市西図書館に司書として勤務していた職員が、「新しい歴史教科書をつくる会」に対する否定的評価と反感から、独断で、同図書館の蔵書のうち「新しい歴史教科書をつくる会」の関係者が含まれる書籍等合計107冊を、事前に定められた除籍基準に該当しないにもかかわらず除籍処理をして廃棄した。

  2. 同会の役員は著作者としての人格的利益等を侵害されて精神的苦痛を受けたと主張し、船橋市と司書に対し、国家賠償法1条1項、または民法715条に基づく慰謝料の支払いを求めた。

判旨

  1. 公立図書館の図書館職員によって、著作者の思想や信条などを理由として収蔵図書を不公正に廃棄されない権利は、表現の自由の保障範囲に属する。

  2. 公立図書館の司書たる公務員が、収蔵図書の著作者または著作物に対する独断的な評価や個人的な好みによって、いったん閲覧提供された図書を不公正に廃棄することは、著作者の人格的利益を侵害するものとして国家賠償法上の違法となる。

判例の意義

  • 公立図書館職員による恣意的かつ不当な図書廃棄は、著作者が思想、意見等を公衆に伝達する権利を不当に損なうものだと示した重要判例。

  • 公立図書館の目的として、「住民に対して思想、意見その他の種々の情報を含む図書館資料を提供してその教養を高めること等を目的とする公的な場」との位置づけが明確に与えられた点でも注目に値する。

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(23)✒取材源の秘匿と表現の自由―NHK記者証言拒絶事件

事件番号:平成18(許)19
事件名:証拠調べ共助事件における証人の証言拒絶についての決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件
裁判年月日:平成18年10月3日
法廷名:最高裁判所第三小法廷
裁判種別:決定
結果:棄却
表現の自由には:⏫プラス⏫

判示事項

  1. 民事事件において証人となった報道関係者が民訴法197条1項3号(職業の秘密に関する事項の証言拒否権)に基づいて、取材源に係る証言を拒絶することができるかどうかを判断する基準

  2. 民事事件において証人となった報道関係者が民訴法197条1項3号に基づいて取材源に係る証言を拒絶することができる場合

事件概要

  1. A社は、健康・美容アロエ製品を製造・販売する企業グループの日本法人。

  2. NHKは、平成9年10月9日午後7時のニュースにおいて、①A社が原材料費を水増しして77億円余りの所得隠しをし、日本の国税当局から35億円の追徴課税を受けたこと、②所得隠しに基づく利益が米国法人Bに送金され、同会社の役員らにより流用されたとして、合衆国の国税当局も追徴課税をしたことなどの報道を行った。

  3. この報道に端を発して、米国法人Bの株価の下落や配当の減少などの被害を被ったとして、Bやその役員らは米国を相手取って訴訟を提起した。平成8年に行われた日米同時税務調査の過程の中で、米国国税局の職員が日本の国税庁の税務官に対し、虚偽の内容の情報を含む徴税事件の関連情報を流出したことが一連の報道につながったに違いないと訴えたもの。

  4. 米国地方裁判所は国際司法共助制度により、日本の裁判所に対し、NHKの記者への証人尋問の実施を嘱託した。

  5. 平成17年7月8日,本邦裁判所による証人尋問が実施されたが、NHK記者は報道の取材源は誰かなど、その取材源の特定に関する質問事項について,職業の秘密に当たることを理由に証言を拒絶した。

  6. アメリカやドイツなどの諸外国には報道関係者の取材源秘匿権を認める立法例があるのに対し、日本にはそのような法規が存在しない。取材の自由に基づく取材源秘匿権が、憲法21条によって保障の対象となるかが争われた。

判旨

  1. 民事事件において証人となった報道関係者が民訴法197条1項3号に基づいて取材源に係る証言を拒絶は絶対的なものではなく、原則的なものであって、当該報道の内容や社会的な意義・価値などの個別事情を踏まえて認められると解すべきもの。

  2. 取材源を秘密に留める社会的価値を考慮してもなお、公正な裁判を実現するために当該証言を得ることが必要不可欠であるといった特別の事情が認められない場合には、民訴法197条1項3号に基づき、報道関係者は取材源に係る証言を拒絶する権利を有する。

判例の意義

  • 民事訴訟上の取材源の秘匿権が、取材の自由の一環として憲法21条の保障範囲と認められた重要判例。

  • 一方、刑事訴訟法は民訴法197条のような「職業上の秘密」を保護する規定を有しておらず、刑事事件における新聞記者の証言拒絶権は最高裁によって否定されている。

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参考文献

  • 「憲法判例百選Ⅰ(第7版)」―長谷部恭男、石川健治、宍戸常寿編、有斐閣

以上


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