井上春香

暮らしをテーマとした月刊誌の編集部に所属し、取材・執筆に携わる。その後、実用書やエッセ…

井上春香

暮らしをテーマとした月刊誌の編集部に所属し、取材・執筆に携わる。その後、実用書やエッセイ、絵本を中心とした書籍の出版社で広報・流通業務などを担当。現在はフリーランスの編集・ライターとして活動中。山形生まれ、東京在住。 Instagram:@harukainoue__

最近の記事

そこに在ったかもしれない日常の風景『KYIV(キーウ)』

ロシアがウクライナへの軍事侵攻を開始して7か月。数日前のニュースによると、プーチン大統領は、30万人のロシア人を戦場に送り出すことができる部分的な動員令を発表したといっていた。 2022年3月31日、日本政府はウクライナの首都の呼称を「キエフ」から「キーウ」に変更した。ウクライナとの一層の連帯を示すための行動らしいのだが、政府がそういったスタンスを示す以前に、私は「キーウ」という表記を都築響一氏のメールマガジン(ROADSIDERS' weekly 2022/03/16号

    • コロナ禍と宇多田ヒカルの音楽

      2021年にSpotifyで最も再生回数が多かったのは、宇多田ヒカルの「One Last Kiss」だった。 ロンドンがロックダウン中だったこともあり、全編リモート制作による庵野秀明監督のミュージックビデオ(メインの編集はシンエヴァ本編でも編集を務めた女性の方)もYouTubeでよく視聴した。ベッドでごろごろしているシーンは当時5歳の息子にiPhoneで撮ってもらったという。そのエピソードだけでも充分と思っていたところ、撮影された動画を見て「自分は息子と話すときにこんな優し

      • ひらかれる介護とその周辺。『かいごマガジン そこここ』

        私にとっての介護とは、身近なはずなのにどこか遠く、想像ができないぶん暗く、重かった。実際のところはどうなのだろう。介護にまつわるいろいろは、ごく自然に、日常のそこここに存在している。 3年前に亡くなった祖母について。私が実家に帰るのは年に2回ほどで、祖母の介護には全く関わっていなかった。それどころか、母との電話で祖母の介護の愚痴になると耳を塞いでしまったりしていたから、せめてもっとちゃんと聞いてあげられたらよかったなと思う。祖母にも母にも申し訳ないことをした。体調が悪化して

        • ベターでもベストでもなく“ナイス”。『松野家の荒物生活』

          実体があるようで無い「ていねいな暮らし」というフレーズ。そもそも、暮らしというものは一人ひとり違う。ひとりぐらしの人もいれば、家族や親しい人と暮らしている人もいる。家事や料理に時間をかける人もいれば、そうでない人もいる。「丁寧」の定義は人それぞれなのだから、誰かのものさしを自分にあてがう必要はない。にもかかわらず、この言葉にはある一定のイメージが存在し、生活者(というよりもここではあえて消費者)の憧れの対象としても度々用いられたりすることがある。 このもやもやを払拭してくれ

        そこに在ったかもしれない日常の風景『KYIV(キーウ)』

          はじめに

          2020年以降、コロナ禍という状況と個人的な環境の変化もあり、自分の内面に意識が向くことが多くありました。私という人間の性格や個性。他人からみた自分への評価。考えてもどうにもならないようなこととひたすら向き合っているのは、なかなかに辛い。そこで意識を外に向けてみると、案外心を保てるようになりました。 人と会うことやコミュニケーションも大切だけれど、好きなものや好きなことは自分だけの心のシェルターであり、生きているあいだ感じられるよろこびであり、時にセラピーのような効果もある