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豚提督オジャム6 サイレント ネオ-ムーン ソング

武装商船に乗り込んだオジャム。中は空調も整って涼しく、まるで天国だった。
しかし、オジャムは歓迎されるはずもなく、すぐに船の中の狭い一室に押し込められた。
そこには10人の子供がおり、泣いている子供、うつむいている子供、目を閉じて動かない子供など様々な表情があった。

オジャムは部屋の片隅に腰を下ろすと、与えられたポットの水をガブガブと一気飲みした。
それから何か言おうとしたが話しかけれる雰囲気ではなく、部屋はすっかり静まり返って誰1人も口をきかない。
実を言えばこの子供たちはさらわれたか、売られたかした子供たちだった。
そう、この2人の男は人買いの悪い商人だったのだ。
つまるところ、オジャムは人買いにつかまり、どこかに売られることになってしまったのだ。
窮地を脱したどころか、さらなる窮地に追い込まれたのだ。
しかし、そんなことは思いもよらないオジャムは、水を飲むと元気も少し戻り余裕が出た。

外からはわからなかったが、部屋にある大きな窓はマジックミラーになっていた。
人買いの船だから、当然、外から中を見られたらまずいわけだ。
子供たちはオジャムに全く関心を示さなかったが、とりわけ小さな5歳くらいの子供が1人いて、この子供だけはオジャムをじっと見ていた。
オジャムは指をくわえながら自分を見る子供に狼狽して言った。
「余は提督である…」
とオジャムは強がった。
「ていとく…」
子供が言った。
「そう、提督だ…とっても偉いんだぞ!」
「えらい? どれくらい?」
「え……」
オジャムは困ってうろたえていたが、手を横にいっぱいに広げた。
「こーんなに偉いんだぞ!」
すると面白がって、子供も同じように手を広げた。
「こーんなにえらいの!」
「うん、そう、そう。本当に偉いんだぞ」
オジャムは得意げに言った。
「ねえ、なんで、へんなかっこうしてるの?」
子供はオジャムのぼろ衣を指さして言った。
とたんにオジャムは恥ずかしくなって、顔を赤くする。
「こ、こ、これは…その…」
オジャムは困って話題を変えた。
「僕はオジャムって名前なんだけど、君はなんて名前なの?」
「わたし…わたしは”サーたん”」
「サーたん?」
「そう”サーたん”…」
「ああ、さっちゃん!」
オジャムがいうと、子供はうれしそうに笑って拍手した。
「そう、サーたん、サーたん」
オジャムがさっちゃんと呼ぶこの子供は、サシャという名前だった。
「よし、さっちゃん、君を家来にしてあげよう。これはとっても名誉なことなんだよ!」
オジャムが調子に乗って言った。
「けらい? めいよ?」
サシャが首をかしげた。
「そう、家来になる!?」
「けらいになると、どうなるの?」
「え…そうだね、とーってもいいことがあるよ、きっと」
「ほんと…なら、いいよ」
サシャは何のことかわからずにあっさり承諾した。
しかし、オジャムは大喜びして手を叩き、
「君が新しい家来、第1号だ! 第1号だ!」
と飛び跳ねて叫んだ。
このようにオジャムは、小さな小さな家来を1人見つけることができたのだった。

それから、外はすっかり闇に包まれ、サシャを始め他の子どもも寝息を立て始めた。
しばらく、オジャムは窓から砂漠に浮かぶ星々をぼんやりと眺めていたが、いつの間にか眠ってしまった。

オジャムが目を覚ますと、もう窓の外は緑がある草原に変わっていた。
商船は砂漠を抜けて、リムリの国境を走っていた。
リムリは水の都と呼ばれる水に恵まれた豊穣な土地と鮮やかな田園が広がる小型都市だ。
何でも最初に入港した人々は地球の欧州というところからやってきたそうである。
そのため、白い壁に大小の三角屋根がある建物が目立っている。
川の近くにある家々には水車があって、くるくると回っていた。
何とも雰囲気のある都市で、ムーンキングダムからの観光客も多いという。

商船がしばらく行くと肥沃な農園地帯が広がり、太陽が麦を黄金色に染める。
涼しげな風がふくたびに、黄金色の麦が気持ちよさそうに揺れている。
実を言えばオジャムは、カイバから一歩も出たことはなかった。
しかも、屋敷と政庁を往復するだけの日々だった。
そのため、悲惨な状況であるはずなのに、まるで旅行をしているかのような楽しい気持ちになっていた。

船はリムリを南東に進んでつっきると、ムーンキングダムとリムリの国境地帯にさしかった。
ここは放牧業が盛んな場所で、いたるところで馬や牛、羊などを放し飼いにしていた。
そこからしばらく行くと、今度はうってかわってうっそうとした森にさしかかった。
ここはバンシーの森と呼ばれる不吉な森で、近くの市民たちも恐ろしがって近づくことはなかった。
この森をだいぶ奥に進むと、ついに武装商船は動きを止めた。
目的地についたのである。
つづく…

最終話まで一気読みしたい方におすすめ

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