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第十一章:マボとトロル兄弟!?4 樫の木庵のマボ-大賢者ニルバーニアと双頭の魔女-(連続小説/児童文学)

弟トロルが言うと、「もっともだ」と2人で顔を合わせてゲタゲタと笑いました。その笑い声の不気味なこと、大きなこと、不快なことといったらありません。マボは耳がおかしくなりそうなので、手でふさがなくてはいけないほどでした。
「さてと、では小人の子供をいだくとするかな…久しぶりのごちそうだ!」

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兄トロルはお輿に手を伸ばしました。その広げた手のひらは、マボの体が簡単にすっかりおおわれてしまうぐらい大きなものでした。そして、マボの乗るお輿をつかむと軽々と持ち上げたのです。

「いただきまーす!」
兄トロルは顔の上まで持ち上げると、その下で大きな口を開けて、マボが落ちるように輿をゆさゆさと揺らしました。マボはもう涙やら鼻水やらよだれやらを垂らしながら、「キッチュ、早く出てきて助けて! 意地悪しないで早く、早く!」と叫ぶしかありませんでした。そうして、輿から揺り落とされないように両手両足を伸ばしてつっかえるようにして踏ん張ったのです。

下を見ると不気味に光るギザギザの白い歯が並んだ巨大な口がぱっくりと開いているのが見えました。まるでくじらが大きなあくびをしているようです。口の中は真っ暗で、どこまで続いているのかも定かではありません。この中に飲み込まれようものなら、マボはもう永遠に光を見る機会は訪れないでしょう。それだけは、はっきりわかりました。

「キッチュ、キッチュ!」
マボはもう名前を叫ぶだけで精一杯でした。しかし、幸運はどこかに潜んでいるものです。
「なんだって、エルフのキッチュを知っとるのか、この小人は!?」
キッチュという声を聞くと、兄トロルは輿をゆするのをやめたのです。マボは手も足もしびれて限界でしたので、これは全くもって幸運でした。
「小人ならエルフの名前ぐらい知っとるべ、驚くことではなかろ。エルフと小人は仲が良いで」
弟トロルが言いました。
「そうだが…こんな時にエルフを呼び出されたら、面倒なことになるかもしれんな」
用心深い兄トロルはそう言うと、輿の中に指を入れてマボの腰をつかんでひょいと掴み出したのです。

樫の木庵のマボ(第1巻 全話完結)|遥ナル (note.com)

マボ:5歳の男の子。臆病で控えめだが、優しい子供。家は貧しく、町はずれの傾いた掘立小屋で暮らしている。
モモ:5歳の女の子。おてんば、おしゃべりで元気な子供。施設育ちで、街一、二位を争う金持ちシュールレ奥さんにひきとられている。
ネネ:5歳の女の子。お金持ちの子供で、つんとおすまししたお嬢様。

ニルバーニア:めったに人界に姿を現さない大賢者。若い娘のような顔立ちだが、老婆のような話し方をする。動物(特に鳥族と仲が良い)と話すごとができ、様々な魔法を使うことができる。自宅のログハウスでは、猫のピッピをかわいがっている。

キッチュ:エルフの女の子。愛しのバブバブ坊やを探している。人間の子供を見つけると、虫に変えようとする。

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