難しい判断3-サイレント ネオ-ムーン ソング

この時、タイミングよく連絡将校が駆け足で会議の間に入ってきた。
「ご注進、北閥のフィヨルドⅢ世の命により、シュトライツァー党が進軍を開始しました! 目的地はルーゼンフェルムと予想されます!」
この報をきくと、家臣たちはいっせいに表情を変えた。
「シュトライツァー党じゃと、北方最強と呼ばれる軍団ではないか!?」
ミトが叫ぶと、一斉に家臣たちがざわめきたつ。
「シャローン様、これはただならぬこと。シュトライツァー党といえば、過去、エビル様とも互角に戦った猛者揃い。北国最強と言われて久しいですが、今や月歌一の軍団という者さえいるほどです。
我がキングダムは先の暗殺事件で、有力な将軍を多数失っています。
シュトライツァー党に対し、ここにいる誰が互角に戦うことができるでしょうか!?」
いつになく弱気な発言のミトに対し、シャローンもすぐに返答はできなかった。シュトライツァー党の強さは、月歌の誰もが認めるところだったからである。

すると、グリフォンが椅子から勢いよく立ち上がり、
「ミト殿、あなたもずいぶんお年を召されたようですな。もはや、引退されてもおかしくない年齢。いったい、いつからそれほど臆病風に吹かれるような御仁になったのでしょうか!?
ミト殿はここに居並ぶ家臣団にシュトライツァー党で対峙できる者はいないとおっしゃる。キングダムに人なきと!?」
グリフォンの発言にミトは色をなし、対向してやはり勢いよく立ち上がった。
「その通りでござる。エビル様やエドガー様が健在ならばまだしも、今のこのキングダムの状況では、シュトライツァーと互角に渡り合えるもの、残念ながら思い浮かびませぬ!」
それを聞くと、グリフォンが大笑いを始めた。
「グリフォン殿、何がおかしい!?」
「ふん、これを笑わずにいられましょうか!? ここにいるではありませんか!」
美食でならすグリフォンは突き出た腹をぽんと威勢よく叩き、胸を張っている。
「メルセデウス家、親子3代に仕えたこの私以上に、この危機的状況に適任な将軍はおりますまいぞ!」
これを受けてミトはおおげさに天を仰ぐと、
「何をいうかと思えば、あまりの状況に気でも狂ったか!? 申し訳ござらんが、シュトライツァーと貴君では月とすっぽん!」
「なんですと!? いくら功労者であるミト殿でも聞き捨てなりませんぞ!
いったいどちらが月で、すっぽんと言うのです!?」
「そんなこと言うまでもござるまいぞ! そもそも、そなたは親子3代に仕えたことを常日頃鼻にかけているが、このわしとて同じぞ!」
と二人はどんどん前に進み、ついには顔を突き合わせて睨み合いを始めた。
これを呆れてみていたシャローンは、
「両者とも落ち着け、大人気あるまいぞ!」
シャローンの言葉に2人はしぶしぶ従い、にらみ合いを続けながらも自分の席に戻っていった。

「じいよ、ここに人がないとはあまりに言い過ぎである。これからは言い方を工夫せよ」
「は、シャローン様、申し訳ございませぬ」
「グリフォン、貴君の申し出は頼もしいが、今キングダムに援軍を出す余裕はない」
「と、いうと…」

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