解説:ディアベリ変奏曲 ⑦


② 第11変奏~第20変奏
休息とも取れる第11変奏(a)で第2部は幕を開ける。その雰囲気を引き継いだまま穏やかに川のせせらぎのような第12変奏(a)が奏でられるが、それは第13変奏(c,e)のイ短調の和音によって急に断絶される。この変奏での衝撃と静寂の繰り返しは、聴き手に息をつかせない。そこに今度は、荘厳な雰囲気を伴って第14変奏(a,c)が現れる。ここまでの変奏では、例外なくテーマ1小節あたり1小節の比率で書かれてきたが、ここで初めてテーマ2小節分を1小節として書かれている。ゆったりとした行進曲風の音楽は、壮大な建築物を想像させ、非常に高貴な雰囲気を作り出す。しかしその空気を、第15変奏(b,c,f,g)でベートーヴェンは自ら笑い飛ばしてしまうのである。この変奏内での笑い声のような音型と不気味な和音進行との対比もかなり激しいものがある。
第16変奏(a,b,c)、第17変奏(b,c,)は対として書かれており、前者でマーチのリズムを打ち付ける右手と、16分音符で活発に動く左手は、後者で役割を交替する。第18変奏(a,d)では、数声部がそれぞれ独立して動いたり、ユニゾンで同じ方向に動いたり、付かず離れずを繰り返し、第19変奏(b,d,g)で再び突然の活発さが現れたかと思えば、突如地中でうごめくかのような第20変奏(b,c,)が現れる。この落差はこの作品の中でも異常なもののひとつと言えるが、前変奏との間には、カノンという確かな共通点が存在する。この変奏はこの作品の核を成すとも考えられ、時間的にも丁度中間くらいに置かれている。テーマの9~12小節に当たる部分の和音は、理論的な説明が難しく、これまでも様々な評論家の議論を呼んできた。 

画像1

ウーデはこれらの和音を“固められたモチーフを含んだクリスタルガラス”と描写し、その後まるで溶けだしていくかのようだと述べている。

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伊澤悠 ピアノリサイタル
2020年3月7日 18:30開演
於:サロンテッセラ(東京・三軒茶屋)
チケット:https://tickets-order.stores.jp/

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