解説:ディアベリ変奏曲 ⑧


③ 第21変奏~第30変奏
神秘的な時間を経て、勢いよく第21変奏(a,c,f)が現れる。この変奏では唯一、同一変奏内で2種類のテンポが交互に登場する。第22変奏(b)はモーツァルトの「ドン・ジョヴァンニ」からのパロディで、ドン・ジョヴァンニの家来であるレポレッロが、主人にいいように使われることへの愚痴を歌う冒頭のアリアから取られている。
第23変奏(g)は左右が反行する部分と、和音を代わる代わる打ち付ける部分とが交互に奏でられ、非常にエチュード的であるが、その後に姿を現す第24変奏(b)のフゲッタの美しさを一層際立たせる役割を担っている。喧噪の中で一瞬の静寂と宗教的な雰囲気をもたらすこのフゲッタに続き、今度はコントラバスのソロのような、鈍い独特の滑稽さを持っている第25変奏(a,b,c,e)が奏でられる。第26変奏(c,d,f)はゆっくりとした回転のなか、優雅なアルペジオが奏でられる。第27変奏(b,c,d,e,f)でその回転がスピードを速め、テンポやリズム感がもう一度テーマを想起させる。第28変奏(c,f)では執拗にアクセントが繰り返され、打楽器的な要素が盛り込まれる。この変奏を最後に、ハ長調から離れた長い旅が始まる。第9変奏以来のハ短調である第29変奏(c,g)はテーマの4小節分を1小節に収める比率で進んでいくが、3小節目の途中からテーマにはない部分が付け足されており、急に異空間を漂う。霧の中を彷徨うような第30変奏(g)はカノン風で書かれている。終結部に付けられた最後4小節の繰り返しは、深いため息のようで、霧の中に一瞬見つける光も、悲しみの中に埋もれてゆく。


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伊澤悠 ピアノリサイタル
2020年3月7日 18:30開演
於:サロンテッセラ(東京・三軒茶屋)
チケット:https://tickets-order.stores.jp/

※新型コロナウイルス感染症の拡大が懸念されておりますが、国や自治体の情報に留意しつつ、ご来場いただくお客様に対し、できる限りの感染予防策を講じて、本公演を実施いたします。

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