解説:ディアベリ変奏曲 ④

2. 全体像
① 調性
ベートーヴェンは、この変奏曲でほとんどハ長調を貫いている。同じ音を主音とするハ短調は4つにとどまっているし(第9、29、30、31変奏)、主音から離れるのはフーガである第32変奏(変ホ長調)のみである。調性の変更を最低限に抑え、ほかの作曲技法でもってどのような面白さを提示することができるか、彼の挑戦を感じ取ることができるだろう。

② 和声
調性を厳密に守ろうとする代わり、和声進行にはかなり凝ったものが見られる。テーマと同じ和声進行のものは第2、3、6、12、16、18、19、28そして33変奏のみで、その他は(テーマと一番近いものであることが通例であった第1変奏でさえ)、ハーモニーの進行がいくらか異なっている。そのため、ハ長調の連続でありながら、その中に様々な色や驚きを感じ取ることが可能なのである。

③ 繰り返し
テーマにおいて、ディアベリは前後半それぞれに繰り返しを書いているが、ベートーヴェンはいくつかの変奏で、繰り返しを省くことで、緊張感を与えたり、その後の変奏の重要性を増したりする効果を与えている。1時間近くを要するこの曲は、以前は繰り返しを省いて演奏されることも珍しくはなく、そのような録音も多く残されているが、私は繰り返しの有無をベートーヴェンが確実に意図したものであると考えている。

④ 小節数
ディアベリは前半と後半を16小節ずつ、同じ小節数でテーマを書いているが、ベートーヴェンはいくつかの変奏(第4、11、21、22、25変奏)で一部分を省いたり、付け足したりしている。それにより変奏は単調さから脱却し、私たちは音楽を疑い、驚き、それを楽しむことができる。


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