解説:ディアベリ変奏曲 ⑥


3. 各変奏の詳細
 この項では各変奏の特徴を記す。変奏番号後の()内のアルファベットは先述したテーマにおけるモチーフのうち、その変奏内で利用されているものである。
① 第1変奏~第10変奏 
第1変奏(b,c,e,f)から、私たちは驚かざるを得ない。本来変奏曲は、徐々にテーマから発展していくもので、第1変奏が主題に一番近い形で書かれることは、常識であった。ところがこの作品では、テーマではワルツだった曲想が、いきなり第1変奏でマーチとなり、拍子、和音進行、キャラクターすべてにおいて異なったものが書かれている。
更にその後の第2変奏(c,f)では、冒頭のpとleggiermenteのあと、一切の指示がなく、元の3拍子に戻った音楽は、左右の和音を交互に奏でる非常に単純な形をとる。ディアベリのワルツはその後のマーチによって一掃され、まるでキャンバスが真っ白になってしまったかのような印象である。
そしてそのキャンバスに、第3変奏(a,b,f,g)からようやく自由に筆を走らせる。ここから第4変奏(a,b)、第5変奏(b,c,)の3つは、いずれもカノンあるいはそれに近い形をとり、そのモチーフはだんだん短くなっていく。テンポは次第に上がっていく指示であり、その先にこの一連のカノンの集大成としてffの第6変奏(a,d)に到達する。トリルと分散和音によって華やかに奏でられた後、3連符の分散和音が騒がしく奏でられる第7変奏(b,c,d)、それをなだめるかのような第8変奏(b,g)が奏でられ、初めてのハ短調である第9変奏(a,g)が現れる。執拗にも思えるアクセントを特徴とし、緊張感が非常に高められるが、第10変奏(b,c,f,g)ではそれが一気に弾けるかのような有頂天が、風の如く過ぎ去ってゆく。


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伊澤悠 ピアノリサイタル
2020年3月7日 18:30開演
於:サロンテッセラ(東京・三軒茶屋)
チケット:https://tickets-order.stores.jp/

※新型コロナウイルス感染症の拡大が懸念されておりますが、国や自治体の情報に留意しつつ、ご来場いただくお客様に対し、できる限りの感染予防策を講じて、本公演を実施いたします。

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