マガジンのカバー画像

短歌

8
短歌たち。
運営しているクリエイター

記事一覧

グッバイ、蕎麦屋

グッバイ、蕎麦屋

お互いに名前以外を知らなくて「いらっしゃいませ」の癖だけを知る

こっそりとバックヤードでおにぎりを頬張ったとき笑っていた目

どこにでもある蕎麦屋ですここにしかなかった蕎麦ですまかないスペシャル

この場所で成長したかわからないけど卵なら上手に割れる

眠たいの我慢しながら蕎麦つゆの匂いに囲まれていた土曜日

いらっしゃいませ食券は台の上でお預かりしていますでブレス

洗い物じゃんけ

もっとみる
K

K

2年ぶりだねって笑う好きだった人の匂いはやっぱり好きだ

「あのギター、錆びちゃったんだ」「そうなんだ」目は合わせないままで開演

キャラメルのポップコーンを分け合った映画の主題歌 何故か泣きそう

右肩に熱が伝わる 穏やかに歌を聴いてる 君はともだち

帰りたくなんてなかった このままでふたり余韻に溺れたかった

ヨコハマの光に君を好きだった気持ちが溶けていくのを見てた

もっとみる

旅の記憶



連作も条例も当てはまらないけど、10首の短歌でひとつのまとまりです。

旅の記憶は幸福のまま綴じられました。

14時間の夢

14時間の夢

へたくそなウインクきっとこの人は優しい嘘をつくのだと知る

何回もタルト・タタンを奏でてる指先 上がった小指と約束

今ここで生まれて死んだ感情の名前に気づかないフリをした

しりとりを続けたかった夜だった 微かなたばこの匂いの中で

顔を上げられないままで少しずつ溶け出していく柚子シャーベット

完璧でいられないならこの夜に溶けてしまおう うん そうしよう

繋がったままで歩いた夢の中知ってる街

もっとみる
2016うたよみんまとめ

2016うたよみんまとめ

「なぜ泣いているの?」「あなたをいつの日か忘れてしまうことが怖くて」

遠くから見ているだけで幸せな恋だったんだ チャイムが響く

昨日より2センチ高く飛べそうだ 受信履歴のあなたも消えて

初雪に涙をそっと溶かし込む こんな痛みはさっさと消えちゃえ

約束をしなきゃ会えない人からの返事がぷつんと切れた夜です

星々を指で結んで音にして君の隣のあの日にワープ

イヤフォンの絡まりを解く さよならを

もっとみる
ライブハウスの後ろの方で

ライブハウスの後ろの方で

ゆるやかな死と再生を繰り返す ライブハウスの後ろの方で

渦になる音の宇宙を漂ってゆらゆら、ひとりぼっちを愛せ

唇に押し当てたプラスチックのコップ油断をしたら泣きそう

動かないあの子の頬に降り積もるミラーボールのひかりが綺麗

暗闇に届く歌声わたしたちひとりじゃないと錯覚してる

今はまだロックンロールのせいにして世界平和を叫んでいたい

あたたかな指先だったCDの向こう側でも生きていた人

もっとみる
11月と旅

11月と旅

誰ひとりわたしのことを知らなくてここなら泣いていいかな(いいよ)

就活もメンヘラ彼氏も卒論も遠く離れたここはイタリア

今さっき覚えた挨拶振りまいて進めここの半分は夢

「いま何時?」あの人に聞いたり聞かれたりするだけの連絡が好き

曖昧に笑っています学校で習ったはずの言葉が出ない

束の間の浮遊感いま少しだけ死ぬってことを考えたりした

この人を好きになれたら幸せになれるだろうな冷たい吐息

もっとみる

夏の影

台風も進路に悩んでいるようで希望調査の紙が真っ白

ほろ酔いのままで好きってキスをした13回目の告白は、夏

「もう夏は終わるみたいね」「じゃあ僕らせーので死のうか」蝉の鳴き声

シンナーの匂いで部屋がいっぱいで秋が入ってくる場所はない

君と夜歩いただけの日のことを思い出しつつ生きてくつもり

退屈な真夏日さえも愛しくて夏の影から出られずにいる

夏休み最後の日から見かけないあの子は人魚だったの

もっとみる