旅する祖母の短歌張

歌人の祖母の小さな短歌張が見つかったのは、葬儀の後、実家で遺品整理をしている時であった。母に聞くとそれは祖母が外に持ち歩くためのノートであるという。薄く透き通ったパラフィン紙に包まれた短冊サイズのノートを破れないように気をつけながら捲る。

そこには言葉の襞を並べては推敲を繰り返す、黒と朱の堆積が記されていた。言葉を表現することを通して、家族とともに旅行した景色を表わした祖母。僕らは思い出を記録をするといえば、片手にスマホで写真を撮って満足している。しかしそこには未だ存在しなかった孫の僕にありありと伝わる麗しい景色とその景色にある自分を含めて言葉にして遺す事ことの技巧があった。

もちろんそれは簡単なことではないことかもしれない。しかし平安から思いを表現する事に長けて来た日本語を母語として生まれたからには、もっと言葉に向き合ってみようか、そう思いながら短歌張のまた次のページへと繰るのである。

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