SABA-MISO
味噌煮業界に君臨する王さま、サバの味噌煮が好きです。
味噌で煮るというシンプルな調理法ながら、なぜ鯖はこんなにも味噌とマッチするんだろう。
同じ大豆から加工される醤油で食べる魚は数多かれど、鯖だけは味噌で煮込む方が美味しい気がします。
サバ以外にはなぜ味噌で煮ることをしないのか?多分サバ以外のお魚を味噌で煮たって必ず美味しいはずなのだけれど。
味噌業界では鯖が独占しているために、新参者(新参魚?)が入る隙がない、つまり味噌煮業界は寡占もとい独占業界なわけである。
味噌煮業界を独占するに値するほどのサバの競合優位性は、何か?
それは間違いなくあのトロトロとした味噌とサバの脂の溶けた部分を白いご飯に乗っけてほおばるという技術であろう。
他の魚が味噌煮業界に参入できないところを見るあたり、おそらくあの組み合わせの特許が出願されているのかもしれない。
特許番号219281 鯖の味噌煮のとろとろ味噌を浸してご飯乗っけてかっこむ技術
一.ほぐしたサバの白身をそのとろりとした味噌でコーティング加工を施す
二.一の手順で生成したサバのとろとろほぐし身をはしで救うようにして白いご飯に乗せる。
三.ご飯を箸で流し込むようにして食する
この技術が鯖味噌によって独占されている限り、その地位が揺らぐことはきっとないだろう。
独占されておらず技術が公開されている(鯖の好意によって)でも揺らがないだろう。
鯖は永遠に味噌煮業界のスターとしてあのしましまの皮目を抱きつつ輝き続けるのだ。
背中のしましま
輝きといえば、鯖は縞模様が見えるところもよいですよね。
特に秋から冬にかけて脂の乗ったサバの背中は頼り甲斐が途方もない。
その皮目の下に潜む美味しいとっぷりとした身のことを想像させるような、白色とグレーと黒色のグラデーション。
サバの押し寿司にするときだって、その背中は大変頼もしい。我は鯖である、と主張してくれるし、
鯖味噌で十分に国民から信頼を得ているその背中を見るだけで、少し酸味のある香りすら期待に変わるのである。
しましまの部分がサバの最も太っている部分にあたる。そのしましまに調理をする際にバッテンの切れ込みを入れて、
味噌が染み入るための動線を確保する、肉は叩いて柔らかく染み込みやすくするが、鯖はバッテンを入れる。
ここのバッテンの下に、宝物が埋まっていますよと目印にしているわけです。
煮汁のとろとろ
サバの本体を食べなくっても、この鯖が浸かっている味噌だけで、ご飯は二杯いける。
さすがに良心が許さないが、”サバが浸かっていた味噌のタレご飯”があれば、店が出せると思う。
煮汁をとろとろにするためには落とし蓋をして煮詰めるという作業が大事になる、そして生姜もいい仕事をしてもらう必要がある。
味噌を途中で足してもいい、でも欲張って火を入れすぎると、身がパサついてしまうので本末転倒だ。
鍋で味噌をすくっては、上からかけて上げつつ、ここぞと時間をみ極めるのです。
そうして生まれた味噌のとろとろは、白いご飯とすこぶるマッチする。
味噌と魚の旨味と砂糖と生姜なわけですから、これはもはや白飯業界で言うとルールスレスレもいいところです。
それぞれの調味料単体でご飯に合わせてうめ確(うめえ確定)なわけですから。
本体たる身がなくたって、白飯に乗っけてしまえば上位ランキング、プラチナランク余裕でしょう。
サバの味噌煮は定食で
サバの味噌煮を見かけたらつい頼んでしまいます。
魚やさんや市場の近くの鯖味噌が美味しいのはもちろん。
でもサバの味噌煮はご飯と一緒にあってこそ、つまり定食屋さんの鯖味噌も大変に美味しいのです。
一番心に残っているのは、渋谷の坂を登った先にある鯖味噌。
一見ただの定食屋さん、しかし一味違うのは、サバの味噌煮が二種類あることです。
・サバの味噌煮定食(カミ)
・サバの味噌煮定食(シモ)
なぜ二種類のサバの味噌煮定食があるのだろう?
サバの味噌煮で!と伝えたら、それだけではサバの味噌煮が給されることはないのです。
おそるおそるどっちかを頼んでみると理由がわかります。
サバのみが大きすぎて、縦に半身にして分けているのです。すげえ。
ペットボトルの胴体くらいの太さのサバが並ぶ。ご飯は一杯では足りうるはずがない。
そう、サバの味噌煮は、定食として楽しむのが一番いい。
味噌煮だってそもそもは保存技術という側面がある。日常の中で気軽に楽しむような贅沢なわけです。
サバの味噌煮は魚料理の中でもとても馴染みが深い
家庭科の調理実習だってサバを煮込んだし、多くの小学生はサバを煮込む中で落とし蓋という調理法を学んだのではないだろうか。
ああ、サバの味噌煮
脂の溶けこんだとろとろの味噌と、
ほろほろの白いほぐし身、
ほくほくのご飯。
渾然一体とした味噌とサバと白飯。
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