棒切れ

一つの棒切れが、僕にとっての母のよう。
どうして僕らは生きていようか、
この棒切れを折らぬようにするためだ。
大きな青い一枚ガラスが、
僕を見下ろしている。
ガラスの向こうがある、
ただあることは知っているのに。
僕らはなんにも知らないで、
この星に生まれてきたわけで。
遠いところに置いてきたものを
すっかり忘れてしまっている。

僕はそれがいったいなんなのか、
とんと思い出すことはできないが、
手のひらの棒切れが、
それだと思い、生きてきた。
生きるって僕にとってはそう云うことだ。
抱えられて生まれてきて、
何かを抱えて死んでいく。
抱えるものはなんでもいい。
ぜんぜん大層なものでなくていい。
ラムネのビー玉でも、
コカ・コーラの王冠でも。

どこかに置いてきた、
僕にとっての僕のうつしみは、
僕にとっての生きること。
僕を僕として生きることを、
ここに結び付けられた生命を誉れとして。
この広い海と地の先で、
君が生きている、
声を交わすことは叶わないかもしれないけれど
僕の言葉を羽として
命の香りがする詩を書いていこう