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内定のない自分はだめだ…そう思わされるなら『格闘する者に◯』を読む

 三浦しをんのエッセイと小説ばかり読んでいる。エッセイ『妄想炸裂』を読んでからというもの、どれもあまりに面白くて止められない。勝手に、大学在学中にデビューしたのかなと思っていたら、エッセイに就活の話が出てきて驚く。インタビュー記事を読んでみると、就活がきっかけで作家になったという話だった。そんなデビューもあるのか。そのデビュー作が、漫画の編集者を目指す就活生が主人公の『格闘する者に〇』(新潮社)だ。

 これはすごくいい。なんたって良いのは、主人公も友人もたいして就活に力を入れていないところだ。エントリーシート、筆記試験、面接。漫画オタクの可南子は百貨店や大手出版社を受けるも、次々と落ちていく。しかし、可南子は実にふてぶてしい。私服で面接に行き周りがリクルートスーツだらけでも、嫌みな面接官に会っても、堂々としている。たいして焦りもしなければ「落ちるのは私が悪いから….」とめそめそなんてしないのだ。就活がうまくいかない、と落ち込んでいる人は、この本を読むだけでも少しは回復できるのではないだろうか。
 就活をしていると、大企業に早くに「内定」を貰う人が偉いように見える。採用されなければ、「自己責任」「失敗」という重い言葉に呑み込まれそうになる。最近も、ツイッターの質問箱で「就活が大変で気分転換をしたいけれど、内定のない自分が遊んでいていいのかなと思う」といった主旨のコメントを見つけ惹きつけられた(私宛の質問ではないのに)。私も以前同じことを思っていたからだ。もしかして、就活が終わらない自分は怠けている、と質問者は感じているのではないかと考えている。そう思わせる力が、なぜか「就活」にまつわる諸々にはある。でも、そんなことないのだ。「自己責任」「失敗」をはねのけるような可南子と友人のパワーを浴びて休んでしまえ!!落ち込んでいて余裕がなくても、引き込まれるストーリーだ。分厚い本でもなく、文庫で270ページくらい。

 三浦しをんのエッセイを読んでいて感じる「好きなもの」がたくさん詰まっている小説でもあった。なんといっても少女漫画への愛、それから同性への思慕とBL読みをできる関係性、古今東西の小説、お嬢様。解説にもあったが、特に『BANANA FISH』のワンシーンに言及する場面が最高だ(やっぱり『BANANA FISH』好きなんだ!)。また三浦しをんの小説とエッセイの感想を書きたい。

『格闘する者に〇』
三浦しをん 2000年 新潮社


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