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あの本は 日記2023/03/06

 街を歩いていて、出版社を見つけた。看板を見たとき、あ、と声が出た。小さいころ読んだ本のタイトル、外国の作者の名前。あの出版社が出していたはずだ。こんなところにあったんだ、近づいてとまじまじと見てしまった。小さいころ、会社というのは皆東京にある大きなビルのものだと思っていたけれど、その会社はこじんまりとしていた。ここか、としみじみ思った。何度も読んだ本なんていくつもあるのにその1冊をよく覚えているのは、子どもながらに作者名と出版社名を覚え、近所の人にその本が面白いのだと話したところ、すごいねえよく出版社の名前まで覚えてるねえと言われたからだ。その人が心からそう言っているのがわかった。別に大したことではないが、嬉しかったのだ。そして本の内容に引っ張られたのか、その出版社の名前を聞くとオコジョのような白くて胴体の長い動物を思い浮かべるようになった。

 思い出すまですっかり忘れていていたことが、看板を見た瞬間にするすると出てきたのだった。やっぱり一番に浮かんできたのはオコジョの姿だ。読んでいた本は動物が主人公なだけでオコジョは出てこないのに、なんでだろう。きれいな表紙の本だった。今でもはっきり思い出せる。

 帰り道に出版社の名前を検索してみた。実はもう営業していなかったら悲しいと思ったが、ずっと続けているようでほっとした。

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