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線を引く

筆先に絵の具をつけて整える。
無意識的に息を止めながらなるべく細く線を引く。
花や金魚に命を吹き込む時間。
作品の仕上げ段階の一つ。
好きな時間の一つ。

私にとって線を引く行為は精神統一のようなもの。
程よい集中力と安心感を得られるのだ。

剣道の防具を装着する時や
書道で半紙に筆先を置く前のことを思い出す。


不安が続く春。
誰がこんなことになるなんて思っただろうか。
当たり前の日常が日々、失われていくような感覚。
些細なことや普段は気に障らないようなことにも苛立ちを覚えたり
悲しい気持ちになってしまう。
不安定な気持ちが元に戻ると罪悪感や虚しさが襲いかかってくる。
反対に、些細なことに喜びを感じる時もある。
日常だけでなく感情までおかしくなってしまいそうだ。

こんな日常の中、アートの力が
不安を取り除く一助となっている人もいるらしい。

自分もアートを提供している者の一人だ。
そして自分もアートの力に助けられている一人だ。
私の作品がどれだけ必要とされているのかは分からない。
分からないけれども、必要だと感じてくださっている方が確かにいる。
心の支えや癒しと慣れていることに気付けた。
それがほんの少しでも、たった一人だとしても
必要とされているならば私は描き続けるしかないのだ。
自分の心を支える為にも描き続けるのだ。

作品を制作し、発表し、多くの方に会場に足を運んでいただく。
作品を観ていただく。お迎えしていただき、自身の手で送り出す。
お客様の想いを沢山受け取り、また新たな作品を生み出す。

当たり前のように行っていたことがどれだけ素晴らしいものか。
どれだけ心の支えになっていたか。モチベーションになっていたか。


私の役割は何だろう。
ここ最近毎日のように考えている。

あらゆる感情が入り混じった心を鎮めるように線を引きながら
今日も考える。

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