Ep.3 自動車業界のトレンド(Shared/Services)
日本では、全就業人口の約1割にあたる554万人もの人が自動車産業に携わっている[1]。
新聞やニュースで自動車業界が取り上げられない日はなく、最近だと『ホンダ、EV・車載ソフトに10兆円 投資計画2倍に[2]』『トヨタやホンダ、型式指定で不適切事案 内部調査で確認[3]』などが日経新聞の朝刊1面で取り上げられていた。
本記事では、社会人の教養として欠かせない自動車業界のトレンド(CASE)について、物語形式で学ぶ。自動車業界のトレンドを抑え、新聞やニュースをより深く理解できるようになろう。
今回はCASEの中でも特に、"Shared/Services(シェア&サービス)"を紹介する。
【登場人物】
小林(主人公):工学部機械科の大学3年生。就職活動にやる気が出ない。
今井先輩 :工学部機械科の大学4年生。自動車部品メーカから内定をもらっている。
1. シェアリングとは
今井先輩「ここまで、”Connected(コネクテッド)"と”Autonomous(自動運転)"を紹介したね。3つ目は"Shared/Services(シェア&サービス)"だ。」
今井先輩「シェア&サービスとは、複数の人が車を共有して利用するサービスのことだ。」
小林「複数の人が共有?カーシェアリングサービスとは違いますか?以前利用したことがあります。」
今井先輩「カーシェアリングサービスも含まれるよ。シェア&サービスは、大別するとライドシェアとカーシェアリングの2つに分けられる。」
小林「ライドシェア・・・。どこかで聞いたことがあるような・・・。ライドシェアって、そんなに普及しているものですか?」
今井先輩「ライドシェアは、カーシェアリングに比べると、まだそこまで普及していないよ。でも、タクシーに限定せず、利用できる車両を私有車にまで広げて、ライドシェアを実現していくことが、シェア&サービスの実現には欠かせない。」
小林「なるほど。ライドシェアのことをもっと知りたくなってきました。」
今井先輩「そうだね!もっと詳しく見ていこう。ライドシェアもまた、3つに分類できる。」
今井先輩「ライドシェアに関しては、法規制の観点から海外でも苦戦しているのが実情だ。例えば韓国では、タクシー事業者の大規模デモにより、ライドシェア事業を中止するなど、なかなか普及が進んでいない。[4]」
小林「コネクテッドや自動運転とは違い、海外でも苦戦していると聞いて少し安心しました。」
今井先輩「そうだね。でも、ライドシェアのメリットは大きいから、今後普及していくのは間違いないと思う。次は、ライドシェアのメリットとデメリットを見ていこう。」
2. ライドシェアのメリットとデメリット
小林「ライドシェアのメリットは気になりますね。だれかよくわからない人の車に乗るより、タクシーに乗った方が安心だと思います。わざわざライドシェアを選ぶ理由が思いつかないです。」
今井先輩「いい観点だね。安心感は、ライドシェアのデメリットの1つでもある。ライドシェアの主なメリットとデメリットを整理すると、以下のようになる。」
今井先輩「ライドシェアはマイカーさえあれば始められる、利用者の費用負担を軽減できるといったメリットがある一方で、デメリットも大きい。特に利用者側のトラブルについては、運転手が乗客に性的暴行を加えたり、殺害したりする事件も後を絶たない。[5,6]」
小林「性的暴行や殺害・・・。なかなか物騒ですね。」
今井先輩「そうだよね。こういった問題から、ライドシェアに関する法整備が急務なんだ。日本でもこういった法整備が少しずつ進んでいる。最後に、国内の動向を見ていこう。
3. 国内の動向
今井先輩「国内では、2024年4月に自家用車活用事業がスタートした。[7]」
小林「そんな事業が始まっていたんですね。全然知らなかったです。名称から推測すると、自家用車で誰かを送迎できるようになるということですか?」
今井先輩「その通り!でも制約は多い。この事業は、一部の地域や時間帯に制限されていて、一般ドライバーは、管理会社から教育や運行管理、車両整備管理を受ける必要がある。」
小林「なるほど。管理会社に教育を受けたり、車両を管理されたりすると聞くと、何だかタクシーと変わらない気がしますね。」
今井先輩「そうだね。車は自家用車だけど、実質タクシーと大差ないのが現状だ。それでも、今後制限が緩和されることも見越して、ライドシェアに取り組み始めている会社もある。」
小林「コネクテッドで取り上げていたGoも含まれているんですね。あ、博報堂って広告会社じゃないですか?そんな会社まで参入してきているんですね。」
今井先輩「そうだね。ライドシェアは、それだけ魅力的な市場と言えるかもしれない。特に日本では、既にタクシードライバーの不足が顕在化してきていて、ライドシェアの需要は高まってきている。
一方、ライドシェアは、コネクテッドや自動運転と比較して、技術的なハードルはかなり小さい。法整備さえ進めば、一気に普及するだろう。」
小林「たしかに自家用車で誰かを送迎するだけなので、技術的ハードルは小さそうですね。色々な企業が参入しやすく、競争が激化していきそうですね。」
今井先輩「そうだね。ポイントは、いかに利用者が使いやすいサービスを作るかだと思う。今後の動向に注目だね。」
(つづく)
参考文献
[1] 一般社団法人 日本自動車工業会, 『基幹産業としての自動車製造業』,https://www.jama.or.jp/statistics/facts/industry/ .
[2] 日本経済新聞, 『ホンダ、EV・車載ソフトに10兆円 投資計画2倍に』, https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC15A2X0V10C24A5000000/, 2024/5/16.
[3] 日本経済新聞, 『トヨタやホンダ、型式指定で不適切事案 内部調査で確認』, https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE030NO0T00C24A5000000/, 2024/6/1.
[4] 国立国会図書館, 『【韓国】ライドシェアに係る法改正と今後の在り方をめぐる議論』,
https://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_11423775_po_02820110.pdf?contentNo=1, 2020/1.
[5] 日本経済新聞, 『ライドシェアでの性的暴行、3000件 ウーバー報告書』, https://www.nikkei.com/article/DGXMZO53033250W9A201C1TJC000/, 2019/12/6.
[6] 日本経済新聞, 『中国・滴滴出行 ライドシェアサービス一部中止』, https://www.nikkei.com/article/DGXMZO34616200W8A820C1FFE000/, 218/8/27.
[7] 国土交通省, 『自家用車活用事業の制度を創設し、今後の方針を公表します。』, https://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha03_hh_000416.html, 2024/3/29.
[8] 株式会社博報堂, 『地域の社会課題解決を目指す共助・共創モデル開発 — ノッカル』,
https://www.hakuhodody-holdings.co.jp/csr/ir/online/2022/04/nokkaru.html,
2022/4.
[9] 株式会社GO, 『タクシーアプリ『GO』 一部エリア・時間帯にて「日本型ライドシェア」車両へのマッチングを開始 東京・神奈川・愛知・京都で4月中から』, https://goinc.jp/news/pr/2024/04/01/3fqdsrfkzgprhplzw39vim/,
2024/4/1.
[10] 中村尚樹, 『日本一わかりやすいMaaS & CASE』, 株式会社プレジデント社, 2020/4/14.
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