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ラーメンは“バトル”である

俺はラーメンが好きだ。食べる際は必ず汁まで飲み干す。めちゃくちゃ身体に悪い。許されることなら一日三食ラーメンを食べたいくらいだ。そんな俺を見て「ラーメンばっかり食べてると身体壊すよ」とか「汁まで飲むのは身体によくないよ」と言ってくる人がいる。健康を損ねないように、食生活のバランスを考えるように、とのアドバイスだろう。わかる。実にありがたいことだ。感謝しかない。ありがとう。だがお前は根本的に間違ってる。

ラーメンは食事じゃない。“バトル”だ。

バトル。戦い、敵を倒すこと。争いだ。争いに明け暮れていれば当然身体も壊す。自明の理である。だからどんなにラーメン好きな俺でも、“バトル”はせいぜい3日に1回、多い時でも1日1回までにしている。バトルを終えれば身体が傷つく。傷ついた身体は回復させなければならない。次のバトルで戦えないからだ。回復したら再び次のバトルへ向かう。ラーメンはバトル。俺達には戦わなければならない“瞬間”がある。麺をすすり、肉を平らげ、汁まで全部飲み干せば、どんぶりの底にある“完全勝利”を掴み取れる。

店に入り、食券機に1000円札を入れる。選ぶラーメンはなんでもいい。初めて入った店であれば一番スタンダードなもので“実力”を図るのが王道戦術だ。そして券売機のボタンを押し“対戦相手”を決める。この時点でバトルは始まっている。決して隙を見せないようにカウンターの空席に座り、食券を店員さんに渡す。お冷がセルフの場合、ボーッと座って出てくるのを待っているのは“間抜け”だ。ここは戦場。状況観察を怠ってはならない。
そしてお冷を飲みながらラーメンが出てくるのを待つ。この間も油断は禁物だ。イチャつきながらモタモタ食ってるカップルには目もくれず、一番食べるのが速そうなデブの動きを目で追う。あいつは“デキる”…。
そうこうしている間にラーメンが出てくる。カウンターの上に置かれたどんぶりを取り、手を滑らせないよう自分の元に置き直す。そして箸と蓮華を構える。この構えにも“流派”があるのだが、説明は割愛する。
まずは蓮華でスープを掬い、口元に運んで一口。小手調べだ。スープを一口飲めばその店の“実力”が分かる。口腔に染み渡る出汁の味。なかなかの“強敵”…。だが決して負けてはならない。己の闘争本能を全開にする。闘気を全身から放出させ、一心不乱に麺をすする。チャーシューをかみ砕く。野菜もろともだ。具をすべてブチのめしたら遂にスープとの決戦。最後の力を振り絞り、全力で挑みかかる。ネギの一かけらも逃さない。どんぶりが空になるまで飲み干す。そして脂ぎった口腔にお冷の残りを流し込む。フィニッシュブローだ。空になったどんぶりをカウンターに置き、店員さんに一言「ごちそうさま…」と告げ、退店する。“完全勝利”だ。

ラーメンを食べる際のBGMは何が合うか。例えば高級洋食のフルコースを食べるならBGMはクラシックやジャズ辺りが似合うだろう。オシャレなカフェのワンプレートランチを食べるならボサノヴァ辺りか。家庭的な和食を食べるならゴールデンタイムのバラエティ番組のふざけたSEが似合うかもしれない。蕎麦屋で掛かっていて欲しいのは演歌か歌謡曲だ。じゃあラーメンは何が似合う?
以前、上野の出版社で勤務していた頃、行きつけのラーメン屋があった。馬鹿みたいに濃い、馬鹿みたいに脂ぎったラーメンの店だ。店内にはいつもメロコアが掛かっていた。メロコアを聴きながら食べるラーメンは完全に馬鹿の食い物で、偏差値に換算するとおそらく32。学区で一番ガラの悪い工業高校レベルだ。麺を一本すするごとに、スープを一口含むごとに、脳がドロドロに溶け出していく感じがした。実際食後に具合が悪くなったりもした。
だが、ジャズを聴きながらラーメンを食べたいと思うか? クラシックを聴きながらラーメンを食べたいか? 俺は到底そうは思わない。個人的にラーメンにはメロコアが似合う。それかメタル。それか頭の悪いJ-POPでもいい。西野カナとかEXILEとか倖田來未とか。とにかく低偏差値なBGMがよくマッチする。それはなぜか。バトルだからだ。

もう何が言いたいのかわからなくなってきた。ラーメンばっかり食べてると馬鹿になる。塩分と脂質で血の巡りが悪くなり、脳細胞の死滅速度が上がり、言語中枢にも支障をきたす。でも俺の言いたいことはただ一つしかない。ラーメンは“バトル”ということ。食事じゃない。“バトル”だ。出されたどんぶりと自分との勝負だ。700円とか800円とか980円とかいう大金も掛かっている。負けは断じて許されない。
スープを全部飲めないのはわかる。あんなもん全部飲むもんじゃない。残しても仕方ない。でも麺を残すなんてもってのほかだ。バトルをなんだと思ってるんだ。
いいかもう一度言う、ラーメンは食事じゃねえ、バトルなんだ。これさえ伝われば後はもうなんでもいい。西野カナとかEXILEとか倖田來未とか全然関係なかった。わかったらもう健康がどうとかゴチャゴチャ抜かすな。お前もラーメンというバトルに挑んでみろ。死ぬ気で麺を食え。そして出来ることならスープまで全部飲み干せ。どんぶりの底にある“完全勝利”を掴み取れ。“バトル”に勝つんだよ。

Twitter:https://twitter.com/haru_yuki_i