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38回目の夏にアゲハ蝶を育ててる話

お盆休みがドロドロと溶ける音がする。もう半分近く溶けた。1日目は彼女と遊んだ。それはまあいい。2日目はYouTubeで動画見てた。3日目はパチ屋で5万負けた。今日は4日目。 ゴミみたいな夏だ。

社会人になると一週間以上休みが続く状況がなかなかない。だから時間を溶かすにしてももっとこう、ゲームをひたすらやり込むとか、何かを作るとか、長期休暇の時しかできないようなことをすべきだ。旅行するやつは本当に賢い。心からそう思う。でも俺は旅行があまり好きじゃないし、家にいるほうが楽しい。だからお盆休み前にゲームを買った。お盆はそのゲームの世界にどっぷり没入するつもりだった。だがお金を払ってDLしたにもかかわらずほとんどやってない。なんか「やるぞ!」って気持ちが先走り過ぎて義務感みたいになって逆にやる気が削がれてしまった。気負い過ぎたんだと思う。宿題から逃げるガキのようにYouTubeの動画を見たり、頭の悪いチンパンジーのようにパチンコのボタンを連打してた。それで2日溶けた。このnoteは「このままだとヤバい」と思って書き出した。俺の38回目の夏はいまにも溶けて腐って生ゴミになろうとしてる。

ところでいま、うちの部屋には芋虫が数匹いる。

俺は元々昆虫が大好きで、小学生のころは毎年この季節にアゲハ蝶の幼虫を捕まえてきて羽化させていた。もう四半世紀以上も昔の話だ。ところが三日前、遊びに来た彼女といっしょにスーパーに行った帰り、植え込みのミカンの葉っぱに幼虫がついているのを見つけてしまい、つい小学生のころの俺が復活して、持って帰ってきてしまった。

アゲハ蝶の幼虫はミカンの葉っぱをもりもり食う。そして黒胡椒みたいなウンコをしてどんどん大きくなる。見た目は最初、鳥の糞みたいに濃茶と白が混じってる。それが二回ほど脱皮してthe 芋虫みたいな緑色になる。そして蛹になって、羽化して、アゲハ蝶になる。俺の部屋にいる幼虫はまだ鳥の糞みたいだ。

正直ノリで持って帰ってしまった。多少後悔してる。だけど持って帰ってしまったものはしょうがないので蝶まで育ててやろうと思う。

待てよ。冒頭、半分近く溶けたお盆休みを振り返って反省して「ゴミみたいな夏だ」と言った。だが38歳のおっさんがアゲハ蝶を育てる夏ってのはよく考えてみると結構いいんじゃないか。「38回目の夏はアゲハ蝶を育ててる」ってよくないか。いや何がいいのか全然わからないが。ほらあれだ、人生も折り返し地点に差し掛かろうというおっさんが、真夏に都内のワンルームマンションでひとりでアゲハ蝶の幼虫を育ててるんだ。かなりやばくないか。

計画性のある大人は長期休暇を有意義に使おうとするし、有意義にできないやつは空虚な時間を過ごす。だが「アゲハ蝶の幼虫を育てる」ってところにはまず辿り着かないだろう。大人が。自力で。いや実際こういうところが俺のすごいところだと思う。そこらのやつにはない“ガチ”の部分だと思ってる。どうだこのオリジナリティー。なあ、2019年、夏、お前はどんな夏を過ごしてる? 俺はな、アゲハ蝶の幼虫を育ててる。どうだ? すごいか?

Twitter:https://twitter.com/haru_yuki_i