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生きている

また一年が経った。言葉もないような寒く孤独な冬が過ぎて、春になり、夏が来た。また季節が巡った。ちっぽけだった私はちっぽけなまま二十歳を迎えてしまった。
時間に追われ、睡眠を削り、ただ理想像と現実を埋めるためだけに走った。苦笑いでごまかし、失敗を憂い、時々どうしようもなくなって泣いたりした。一年が過ぎてしまった。

ちっぽけなままここに座って、キーボードを打ち続けている。私はこの場所で何を見て、何を知ったのだろうか。なにも、と私が言う。何も気付けないまま、何も見えないまま、無様に生き延びてしまった。
それでも、と私は続ける。それでも生き延びてしまった。みっともなくても、惨めでも、また一年を通り過ぎた。きちんと食べて、寝て、呼吸をして、心を動かした。一度も休まずに。

また一年が過ぎ、ちっぽけなまま私は歳をとるだろう。笑ったり怒ったり、時々泣いたりするだろう。大丈夫だ。結局全ては熱された水滴みたいに消えていくのだから。それまでに一生懸命心を動かして、無様なまま生きていればいい。とても綺麗なものを見て、自分の中に誰かを招いて、誰かの中に自分を築いて、それすら忘れられるまでずっと生きていればいい。



この失敗にもかかわらず
私もまた生きてゆかねばならない
なぜかは知らず
生きている以上 生きものの味方をして

茨木のり子「この失敗にもかかわらず」


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