When You Were A Dog
犬みたいな感じだったのよ、と彼女が言う。それで私も想像する。薄暗い部屋にいる、白い小さな犬を。
犬はお腹を空かせている。細い尻尾をぱたぱたと振る。飼い主のそばによっていって、上目遣いで見上げる。愛をください、飼い主は笑って、冗談みたいに餌をくれる。愛にとてもよく似ていて、だけどぜんぜん違うもの。
犬はそれを喜んで食べる。お腹が空いているから。そうして少し元気になって、ぱたぱたと動き回る。暗い部屋の中を。そのうち飼い主が起き上がって、冗談みたいに犬を殴る。犬はキャンと鳴いて、尻尾を丸めて部屋の隅にいく。それでしばらくめそめそしている。
薄暗い部屋の隅っこでめそめそしていると、お腹が空いてくる。それで犬は尻尾をぱたぱたと振って飼い主に近づく。愛をください。飼い主は笑う。笑って餌をくれる。
それから犬はどうなったの、と私は聞いた。彼女は言った。噛み付いたの、ある日。殴られて痛かったから、飼い主に噛みついた。
それ以来、飼い主は犬を殴らなくなった。その代わり、餌ももう与えられなかった。犬は鼻を鳴らして飼い主のそばを歩き回ったけれど、もう餌をねだったりしなかった。犬は飼い主を憎んだ。犬を殴ったことにではなく、餌をくれなくなったことに対して。
彼女はそう言って視線を上げた。私も彼女の顔を見た。毛並みがよく、きれいな白い犬。
部屋を出て、自分で訓練したの。愛でもそれによく似た餌でもない、自分のご飯を見つけれるように。それからちゃんと自分の毛並みを舐めて整えて、愛されて育ってきた犬のふりをしている。なんでかって?なんででしょう。
犬は時々飼い主のことを思い出す。殴られたことも、噛みついたことも、不均等に思い出す。特にお腹が空いているときには、飼い主がくれた餌のことを考える。甘くて、愛によく似ている、不健康な餌のことを。そうして自分の毛並みを舐めて整える。
飼い主はどうしているのかしら。私は呟く。彼女は笑う。知らない。もしかしたら、新しい犬を見つけているのかも。それか誰かの飼い犬をしているのかもしれない。
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