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ワンカットの没入感を体験する『1917 命をかけた伝令』作品レビュー

こんにちは、夏目です。
昨年8月からstand.fmで「もっと映画が好きになるラジオ」を始めました。毎月テーマを決めて配信していて、2月からは「1910年代のハリウッド映画」について話しています。

配信スタートした2022年8月のテーマは「1970年代ハリウッド」。
そこから2022年の5か月間で「2010年代ハリウッド」まで完了し、今年に入ってからは「映画前史」、今月は「1910年代ハリウッド」、来月は「1920年代ハリウッド」へと続いていきます。

まだまだ一般的には取っ付きにくい”白黒サイレント映画”の時代が続くんですよね。。。むむ。

「白黒サイレント映画作品なんて、よっぽどの映画好きじゃないと観ないでしょぉぉ」というツッコミも分かるので、早いところ「ヒッチコック」などのパワーワードが登場する時代に突入したいところですが

やっぱりこの年代も面白いので、noteでは当時制作された作品だけではなく比較的最近公開された映画作品も織り交ぜつつ、1910年代のアメリカ映画について紹介していけたら良いなと思っています!

では早速ですが、今日は1910年代を考える上では避けて通れない「第一次世界大戦」を描いた作品、2019年にサム・メンデス監督が制作した「1917 命をかけた伝令」の紹介です。

この作品は「戦争映画をワンカット撮影する」というとんでもないコンセプトを持った作品で、公開当時も話題になったんですよ。

1914年、文化や経済面で世界の中心となっていたヨーロッパで起きた国家総動員戦争。

終わってみれば世界の覇権を握っていたはずのイギリスは王者の地位から転落、ロシアには革命が起き、映画界の中心にいたフランスも自国が戦場になった事で映画製作は事実上中断、アメリカに配給作品を求めざるを得ない
状況に追い込まれました。

それ以来、経済と映画文化の中心はヨーロッパからアメリカに移動し、
その状況はいまでも続いています。

振り返ってみるとヨーロッパが起こした戦争なのにアメリカ以外の参戦国が総崩れしたのが第一次世界大戦ではないか?と思うのですが、国家総動員戦争がどんな戦争でどんな結果をもたらすのかなんて、開戦当時には誰も分かっていなかったのかもしれませんね。

ところで第一次世界大戦で中心となった戦略は「塹壕戦」だったそうです。
この時代、技術の進化が融合して「映画」が生まれたように、技術革新の結合によって武器の性能も格段に優れて行きました。

その結果、殺傷能力が高い武器を手にしたもの同士の闘いは領地の周りに掘った溝に軍隊が集まる塹壕戦が中心となり、闘いも長期化していくことになります。

何をもって闘いが終結するのか誰にも分からないだなんて、あまりに悲惨な状況だと思いますが、今日紹介する「1917 命をかけた伝令」は、この第一次世界大戦の戦況の変化や指揮官の苦悩を描く作品ではなく、まるで自分がこの塹壕戦に迷い込んでしまったような息苦しさと緊張感を味わえる作品になっているんですよ。

「戦争映画をワンカットで撮る」という信じられないプロジェクトの元に製作された本作品は思わず息を止めてしまう臨場感たっぷりな作品になっています。

若き戦士2人が最前線へ重要メッセージを届けるというシンプルなストーリーですが、いつの間にか息を止めて彼らと共に戦地を駆け抜けていることに気づくはずです。


■1917 命をかけた伝令
2019年製作/119分/G/イギリス
監督:サム・メンデス
出演:ジョージ・マッケイ、ディーン=チャールズ・チャップリン

【ストーリー】
1917年4月、フランスの西部戦線では防衛線を挟んでドイツ軍と連合国軍のにらみ合いが続き、消耗戦を繰り返していた。
そんな中、若きイギリス兵のスコフィールドとブレイクは、撤退したドイツ軍を追撃中のマッケンジー大佐の部隊に重要なメッセージを届ける任務を与えられる。

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映画とは体験である。

もちろん全ての映画が「体験」になるとは思いませんが、ラジオを通して「映画前史」「1910年代ハリウッド」を振り返ってみると、この時代の映画人として名を残したのは「映画体験とは何か」を追求していた人であり、現代もその挑戦に変わりはなのだな、と感じるようになりました。

エジソンやリュミエールが映画を発明した1890年代後半、映画は「見世物性」が重要視されており、この「見世物性」こそ、観客を引き付けるキーワードになっていました。

珍しいもの、美しいもの、観たことがないもの、驚くものという直感的な見世物を映像化する時代を経て、映画は物語と合流し、想像することしかできなかったもの、知るよしのないもの、この世にないもの、過去の出来事など
少し複雑な見世物も語り始めます。

つまり物語を手に入れることで映画が内包する「見世物」のバリエーションは増えていったのですが、観客にとって「見世物性」が重要であることは、いつの時代でも変わる事がありませんでした。

だからその見世物を物語でぐるぐる巻いたり、切り口を変えたりと、絶えず工夫されているのが映画の歴史なのかなと考えています。

そして今日紹介する「1917 命をかけた伝令」も、まさに「映画体験」に挑戦した映画ではないかと感じる1本です。

物語はいたってシンプルなんですよ。

第一次世界大戦のフランス西部戦線。
若い兵士2人が上官から託された重要なメッセージを届けるために、敵地に侵入しながら自国軍の最前線に向かって進んで行く。

これだけとも言えるミニマムな物語ですが、サム・メンデス監督は全編ワンカットで見せる事に挑戦します。

厳密に言えば複数のカットをつなげている映画なんです。
それを知っていて見始めたので、最初は「編集点どこだろう?」と考えていたのですが、途中からそれどころではなくなりました。

第一次世界大戦と言えば悲惨な塹壕戦が延々と続いた戦争でした。雨が降ると水がたまり、何が腐ったのか分からないドロドロな塹壕内で生活をしながら生死をかけた闘いをする。

そんな状況は想像をはるかに超えてしまいますが、いつの間にか私たちは若きイギリス兵のスコフィールドとブレイクと共に3人目の兵士として戦場を走らされている事に気づきます。

体についた泥がもの凄く不快で、いつ敵と遭遇するか分からない緊張感から息が出来なくなっていく。その緊張感は映画の進行とともにどんどん高まっていきました。

この映画は戦況の変化や政治的な駆け引きを描いた作品ではなく、最初から最後まで戦場に居る若い兵士目線で映し出される映画です。観客はこの場に引きずり出されてしまう。

サム・メンデス監督はこの映画体験のために、ワンカットで見せる撮影方法を選んだのだと思います。ワンカット撮影する、という事は映画内に流れる時間と私たちが過ごす時間は基本的に同じ流れの中にあります。

シーンごとに1日、1年、10年、時には何千年も時空を超える映画とはまるで異なる映画体験が待っているんですよ。そして、常にスコフィールドとブレイクから離れる事の出来ない我々は彼らと同じように戦場から逃れることが出来ません。

120分間続く緊張感と、サムメンデス監督の用意した少しの緩和に是非翻弄されてみてくださいね。

ちなみに本編視聴後はメイキング映像を観るのも楽しいと思います!
ワンカット撮影のためにセットの距離をセリフに合わせたり、カメラが機材から人の手にバトンされていく様子、ミニチュアセットで照明のシミュレーションをする場面は観ていてもワクワクしますよ♪

以上「1917 命をかけた伝令」の作品レビューでした!


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