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Machete Tactics 『The Nightmare Has Begun』 を解説します

Machete Tactics の結成


「悪い音楽やりたいんだよね」

2020年の12月のことだ。名古屋は大須のライブハウスでの打ち上げで、嶋崎さんがそう言った。嶋崎さんと森川さんと僕の3人で、確かSLAYERやDecapitatedあたりの話をして「あの曲は悪(ワル)だよね〜」などと盛り上がっていたときだったと思う。

元々それなりに関係性はあったが、この3人の組み合わせで深く話し込むのは初めてだった。お酒の力を借りずとも意気投合した僕らは、一度スタジオに入って音を合わせてみようと約束をし、東京に戻った。すぐに「悪い音楽」という名のLINEグループを作り、ほどなくしてアイコンは映画『13日の金曜日』のジェイソンとなる。スラッシャー映画がコンセプトのバンドをやりたいと嶋崎さんが言った。

Machete Tactics はそうやって始まった。

何ヶ月か後スタジオに入り、嶋崎さんの指定でSEPULTURAの”Subtraction”と、Kernel Zeroの”Still Burns”を合わせた。

森川「嶋崎さん、なかなか渋い選曲ですね(笑)」

高橋「俺Kernel Zero知らなかったけどカッコいいっすね!」

嶋崎「うんカッコいいよね〜!でもおっしゃる通り渋いし全然有名ではない(笑)」

悪い音楽をやっているのに、雰囲気はとても良かった。初音合わせで、「この3人ならいい音楽を作れそうだ」と感じたものだ。

そこからは音源作りに向けて、スタジオに入った。嶋崎さんが曲を持ってきて、3人で合わせながら各パートをアレンジしていく。

嶋崎「どう?この曲」

森川・高橋「いいっすね〜悪くてめっちゃ良いです(笑)」

こんな日本語は完全に矛盾しつつも成立している会話が幾度となく繰り返され、デモのレコーディングやライブも挟みつつ、気付いたら10曲が出来上がっていた。

制作の話

本格的にアルバムレコーディングに向けて動き始めたのは2022年の6月頃だ。

レコーディングは嶋崎さんの元バンドメイトだった、Nakkamenさんにお願いをした
2021年末にデモを作ったときもNakkamenさんにお願いしたため、Machete Tacticsに必要な音の録り方をよく分かっていた。
暇を見つけては彼のスタジオに行き、ひたすら録る日々。信頼関係があるからこそ、忖度なく率直なやり取りができ、随所に的確なアドバイスをいただいた。

ミックス/マスタリング、そしてサウンドデザインは「福岡のメタルゴッド」ことSAWさんにお願いした。

SAWさんのTwitterでの発信を見て、僕はずっとエクストリームなメタルを作るなら、SAWさんにお願いしてみたいと思っていたため、真っ先にDMを送った。

「音についてはメンバー以上に責任を持ちます」

そう答えて引き受けてくださったSAWさんとのやり取りは、とてもクリエイティブな時間だった。オンラインではあったが、各パートの質感から曲間の秒数、細かなエフェクトの数値まで、徹底的にやり取りをした。
特にマチェーテの切れ味については、かなり話し合った。切れ味が鋭すぎると重厚さが足りず、逆に血糊やサビが付きすぎるとただの鈍器となってしまう。SAWさんとタッグを組んだからこそできた、残虐の限りを尽くした極悪サウンドに仕上がったと思う、

また余談だが、メタルが好きな4人が集まると、自然とメタル談義にも花が咲く。思い返せばこの時期、Machete Tactics を中心に行われていた雑談や、話題に挙げるバンドは本当に悪いメタルの話ばかりだった。そんなやり取りも純度666%の極悪サウンドに反映されているのかもしれない。

アートワークはKyoko Kawanobe さんに描いていただいた。Machete Tactics の曲のモチーフであるスラッシャー映画のワンシーンを描写している。キャンプ場の若者たちを遠目に見て、マチェーテを持って復讐を企む男の後ろ姿。正に”The Nightmare Has Begun (悪夢の始まり)”を想起させるアートワークになった。

このアルバム“The Nightmare Has Begun” の完成には、Nakkamenさん、SAWさん、Kyoko Kawanobe さんのお三方のお力添えが不可欠であった。この場を借りて心からお礼申し上げたい。

全曲セルフレビュー

僕の視点から見た全曲レビューを記していく。
ぜひ爆音でアルバムを流し、頭をぶん回しながら読んでいただきたい。

《視聴はこちらのリンクから》

《CREDITS》
All Musics & Words: Daisuke Shimazaki
Arrangements: Machete Tactics
Vocals: Daisuke Shimazaki
Guitars: Daisuke Shimazaki
Bass: Haruyuki Takahashi
Drums: Ryo Morikawa

1. Killing Field


オープニングを飾るナンバー。イントロのSEは某スラッシャー映画からサンプリングした。我こそはという映画オタクの方は、今度我々と会ったときに、ぜひ答え合わせをしてほしい。

初っ端からキラーリフ。爆走しながら展開し、サビを迎えたときの気持ちよさ。中盤は落とすかと思いきやトリッキーなフレーズが続き、勢いを落とすことなく元の展開へ。そして最後のサビを迎えたときにカタルシスすら感じる、短いながらも密度のかなり濃い1曲だ。

イントロのフィードバックノイズの上がり方、SEの終わりから曲スタートまでのタイミングは、SAWさんと共にかなり気合いを入れて決めた。実はあのわずか8秒間の調整には、30分以上かかっているのだが、その甲斐あって素晴らしいオープニングに仕上がったと思う。

2. The Machete


Machete Tactics を代表するナンバー。ある意味では我々のアンセムでもある。Machete Tactics で初めて出来上がったのはこの曲だった。

とにかくイントロのリフが印象的だ。マスタリング時、Killing Field からの流れでThe Macheteのイントロを聴いたとき、僕はこのアルバムの勝利を確信した。
中盤ではハーコーの香りを感じ、元々ハードコアバンドのギタリストだった嶋崎さんの背景が伺い知れる。Aメロのリフが1回ずつ異なったり、1番サビと最後のサビでは歌の回しが異なるなど、豪快ながらもかなり芸が細かく緻密に作られたMachete Tactics らしさ全開の曲だと思う。

3. The Red Awakening


渋い曲だ。だがこのアルバムのキャラクターを決定付ける、超重要曲でもある。最初期からアイデアはあったが、展開やアレンジには最も時間がかかり、10曲の中でも最後に完成した。

ある程度形になったとき、最初のスタジオで嶋崎さんがSepultura のSubtraction を指定した意味がよく分かったのを覚えている。展開の多さが、世界観を重層化するのだ。そして派手さは無いものの不気味なリフが連続する。聴けば聴くほどクセになるスルメ曲だろう。
ドラムの森川さんは、この曲が最もお気に入りとのこと。決して速いだけではないクレバーさが目立つフレージングを、ぜひ聴きこんで欲しい。

4. Region of Death


これぞデスラッシュと言わんばかりのキラーチューン。3.の不穏な空気を切り裂き、派手なゲリラ戦が始まりを告げる。

まずイントロのリフが素晴らしい。この手のリフは嶋崎さんの真骨頂だろう。SLAYERを感じるスケールで進行し、サビでヘヴィになる展開は破壊力が抜群だ。
再び疾走に戻ってからの一瞬のベースソロは、Suffocation のDerek Boyer になったつもりで弾いた。速え!強え!かっけえ!というメタルが好きな僕は、この曲はかなりのお気に入りだ。Machete Tacticsの入門としては、かなり最適な曲なのではないだろうか。

5. Traumatic Demise


このアルバムは、実はA面とB面のような作りになっている。つまり前半5曲がA面、後半5曲がB面のようなイメージで、曲順を決めた。このTraumatic Demiseは、A面の最後を飾る曲だ。

これもなかなか渋い曲だ。ヘヴィなパートと疾走パートを繰り返しながらも、終始重苦しく絶望的な雰囲気が漂っている。しかしそれでもダレないよう、変則的なキメや完全無音なブレイクなど、随所にリズムのフックが散りばめられている。

最後のフェードアウトは、まさにトラウマになるような絶望感とともに終焉を迎える様を表している。

6. The Fever Unsainted


B面の1曲目。5.の最後のフェードアウトから、シームレスに始まりフェードインしてスタートするイントロは、後半戦のSEのような効果を狙った。

ダウンピッキングを中心としたリフだが、平坦ではなくハネ感があり、比較的パーティーチューンなのではないだろうか。
リフの響きや刻みのパターンにはEND ALLを経た嶋崎さんの、サビを中心に入るベースラインにはMELT4を経た僕の。それぞれの背景を感じられる仕上がりになった。
この曲のベースラインには、リフとのユニゾン具合やフィルイン、若干のメロディアスさといった「ベーシストHARUの色」がはち切れんばかりに詰まっていると思う。

7. Vengeance Is Mine


SAWさんをして「素晴らしくしかめっ面が似合うメタル」と言わしめた1曲。2021年末のデモでも録り、最初期から存在していた。

イントロから最後まで、BPMは速いのに重苦しい雰囲気がずっと漂っていて、目を閉じると大柄なジェイソンが重い鉈を振り回しながら、目の前のリア充どもをなぎ倒しまくる情景が広がる。そう、まるでジャケットの男がキャンプ場に降った後の惨劇のように。
余談だが、この曲はリフが非常にややこしい。TAB譜か絶対音感なしで、正確に耳コピすることは不可能だと思われるが、ドMのギタリスト&ベーシストはコピーしてみてはいかがだろうか。

8. The Burning


またまた登場、デスラッシュのキラーチューン。爆速でぶち抜けるつつも案外キャッチーな曲で、アルバム配信前にYouTubeにて先行でリリースをした。

ハードコアのノリも香るメロディアスなイントロ。その後はひたすら嶋崎さんの刻みが光る。どの展開にもブリッジミュートの旨味が詰まっており、彼の右手は本当に唯一無二だと思い知らされる。
随所に挟まれるブレイクは、Dew-ScentedのようなイメージをSAWさんとやり取りした。

9. Declaration


2分半のインスト曲。これはなかなかの名曲だと思う。
SLAYERの名盤『Reign In Blood』で言えば、かの名曲Postmortemのような立ち位置。

何と言ってもメインリフがいい。もしかしたらこのアルバムで一番好きかもしれない。そして展開もいい。どのパートも同じリフを弾いているようで、実は少しずつ違うニュアンスを付けているため、聴いていて飽きない。不穏なフィードバックノイズに導かれたブレイクを挟んで迎える最後の展開は、マスター音源を聴いたとき衝撃が走った。あれこそがエクストリーム音楽を聴く者しか感じ得ないエクスタシーだろう。

10. Blood Sea Carnage


アルバムの最後を飾る1曲。リフリフリフの刻みマシマシ全員シンガロング系デスラッシュ祭り。途中の”Burn! Die!”のコーラスには、前述のNakkamenさんと僕が参加している(その他の曲のコーラスは全て嶋崎さんによるオーバーダビング)。

パワフルでタフガイな曲だ。ストイックな刻みが続き、徐々に盛り上がりを見せて、サビに移る。繰り返した後は、いかにもMachete Tacticsと言うべき、ハーコーノリの(だが決してハーコーではない)中盤パートを迎え、派手なドラムフィルが最後の展開を導き、堂々たるラストランを締めくくられる。

最後に

この10曲が出来上がるまでの2年間は、それぞれの音楽人生の転機でもあった。嶋崎さんはEND ALLを脱退し、森川さんはJormungandが解散した。僕もMELT4を脱退した。

今このタイミングは、Machete Tacticsの名刺を作る時期であると同時に、各メンバーそれぞれの新しい名刺を作っている最中なのだろう。その大きな1ページとして、『The Nightmare Has Begun』をリリースできたことを、心から嬉しく思う。

3人とも色んなバンドで、色んな経験をしてきた。だからこその実現できるスピード感とバランス感覚を持って創作活動に取り組めた。文字通り、満を辞してのリリースだ。

おかげさまで各方面からご好評いただいている。2022年11月2日付のiTunes Store(国内)の「メタルトップアルバム」では、3位を記録した。いくらニッチな市場とは言え、Metallica、Slipknot の後にMachete Tactics が続く未来など誰が予想できただろうか。

(スクショをした時はMegadethに抜かれて4位となっていた…笑)

だが僕は、まだまだこのアルバムは伸びると確信している。長く愛される作品になると確信している。

2023年1月7日(土)には、新宿WildSide Tokyoで『The Nightmare Has Begun』のレコ発ライブが行われる。
CRY、IN FOR THE KILL、INVICTUS、PORNOSTATEの4バンドには、ありがたいことに出演をご快諾いただいた。
極悪な音を奏でる大先輩たちがMachete Tactics のリリースをサポートしてくれる。こんなに嬉しいことはないが、この日は遠慮せずに全員ぶち殺す予定だ。

また今後のCD発売、データ販売に向けても準備中だ。そちらも楽しみにしていただきたい。

この素晴らしいアルバムを、そしてMachete Tactics をお見知り置きいただき、爆音で聴いてほしい。そして極悪なメタルを求める者のもとに届いてくれると本望だ。


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