花組『アルカンシェル』の感想7

 『アルカンシェル』の好きなところ、思ったことを思いつくままに少しずつ書いていきます。
 
 ピエロがコゼットと踊りはじめるところ。それまでコミカルな動きだったのが、急に軽やかになって、ボリュームのある衣装がふわっと広がってすごく綺麗。
 
 ピエロが失恋に気づくところ。落ちている花束だけに気づいて、ゆっくり歩み寄るところがすごく可哀そうで好きだったけれど、今の、コゼットと中尉の仲に気づいてショックを受ける展開も、やっぱり可哀そうで好き。あと、マルセルと中尉コゼットコンビの位置関係がメリーゴーランドみたいにぐるっと回ってるのが素敵で、ピエロさんを凝視したい気持ちと全体を見たい気持ちに挟まれる。でも、わりと凝視していたのに襟が四種類あるなんて、全然気づかなかった。
   
 マルセルがモダンなピエロのダンスを止められるところ、東京公演だと驚いているように見えて印象的だった。
 それまでのマルセルは、アルカンシェルでは自分のダンスができないと不満を持っていていらついていたけれど、このマルセルは自分のダンスを少しもあきらめていない感じ。お金が貯まったらすぐ渡米するけど、貯まるまでのあいだもなんとかして自分のダンスを踊り続ける、と思っているから、止められるとちょっと意外そうな顔をした?
 大劇場公演のぴりぴりマルセルもすごく好きだけど、東京公演のマルセルは、前に進む気持ちが強くて、不満がたまる暇もない感じが大人っぽくてかっこいい。
 
 マルセルが「中尉をナチの軍人に見立ててやっつけるんだ」みたいなことを言ったあと、コーエンの言葉を聞いて、自分の発言を悔いているように見えるところ。仲間の命に係わる重大な事柄を、腹立ちまぎれに冗談にしてしまったから? 大劇場公演のいらいらしたマルセルが、本来は繊細な感受性で人を思いやれる性格なのが伝わってきて、すごく好きだった場面。前向きマルセルだと、自分の悪いところにすぐ向き合って、そのつど自分を改善していく行動力が感じられて、やっぱり好き。
 
 パリが占領されると知って、ショックを受けていたジェラールが逃げる算段をはじめてすぐに立ち直るところ。アルカンシェル、コーエンとジェラールがさくっと逃げてくれてなかったら、もっとずっと悲しくて辛いことになってただろうな、と思う。
 
 そういえば、ぴりついていたときのマルセル、ぴりぴりいらいらモードのときと、うんざりアンニュイモードのときがあって、前者は、女の子にもてたくて音楽をやる仲間の俗っぽさや、突然のアコーディオンの不協和音へのいらつきが強くて、後者は、前衛的という批判へのうんざり感が突出して強く感じられて、違いが面白かった。
 いつだったか、モダンのピエロのダンスのとき、上を向いた拍子に口にネクタイが乗っかったのを、八つ当たりみたいにすごい勢いで落としていたのが好きだった。
 
 一番好きだったのは、ドナウジャズバージョンのリハーサル、赤いカーテンを背景にカトリーヌに「似た者同士ね」と言われて、「はっ」って言うところ。美青年っぷりといらつきがあいまってすさまじく眼福だった。でも、今のマルセルは「仕事に私情を挟まない」を実践して以前よりしっかり踊ってくれるので、それはそれですごく嬉しい。とにかくここのダンスが好きなので。
 柚香さんのダンス、キレのある動きだけじゃなくて、ゆっくりした動きも、動いてないときの姿勢もすごく目に快いというか、脳に心地よい。完璧に制御された動きと姿勢という感じで、本当に好き。 
 
 ぴりぴりマルセルは、ストリートキッズっぽい鋭さが感じられて、なんとなく、貧しい家の子だったのかな、という感じがした。世知辛い生活のなかで、繊細な感性の理解者を得られず、ダンスだけが心の柔らかい部分を生かすことができる唯一の手段だったのかな、と勝手に想像。「俺のダンスは俺のダンスだ」と言うとき、すごく苦しそうで、そこを変えると心が死んでしまうんだな、という感じがひしひしと伝わってきた。
 
 前向きマルセルは、髪がくるんとしてるせいか、革の鞄を斜めがけにして学校に通う、いかにもパリっ子っぽい子供時代が脳裏に浮かぶ。強いメンタルは、堅実な家庭で育まれたのか、それとも厳しい環境で生まれたハングリー精神なのか。「俺のダンスは俺のダンスだ」の言い方が力強くて、ダンスだけが唯一の支えという消去法での選択ではなく、ダンスへの強い憧れや思いが感じられた。
 これだけ目的に向かってぐんぐん前進していく人が、自分のダンスより観客優先、と考えを変えるの、すごいと思う。
 
 ジョルジュが怒り出すところ、最初はいきなりキレる人という印象だったけれど、マルセルのぴりぴり度があがって、そりゃ怒るわ、と感じる煽り方になったのが面白かった。でも、ジョルジュは作品全体に渡って、急にキレる人なので(そのおかげでコンラートの不意を打て、マルセルを救えた?)、今の、マルセルがそれなりにうまくやろうとしているのに怒り出してしまう方がしっくりくる感じがする。
 
 検閲のとき、カトリーヌの歌の伴奏をするところ。カトリーヌをすごく見て、息を合わせて弾いてあげているのがすごく好き。伴奏する人ってそうだよね、という萌えと、その場の緊迫感が感じられて、とても好きです。
 東京公演ではピアノの角度が変わり、マルセルの顔が見やすくなったので大喜びで見ていたら、コンラートが恋に落ちたのが声だけで伝わってきて、なんだかおかしかった。
 
 「SWING」のところ。歌のはじめのころは、ちょっと話のわかりそうな将校だから、うまくやれるかもしれないと計算してる顔なのに、歌っているうちに思惑を忘れて意気投合するところ、すごく好き。二月ごろの、ピアノを弾いてるときからノリノリだったときも好きだけど、そのあとの、ビートにのってる感じを水面下に引っ込めて、ときどき熱狂がじわりと滲んだり、炸裂したりする感じになったのも、ものすごくかっこよくて好き。歌が終わったとたん、相手が敵兵であることを思い出して、ショックを受けているように見えるところも好き。一曲のあいだに、そこまで人を好きになれるのすごい。本来はそれだけ仲良くなれる相手なのに、本人たちの気質とは無関係に時代や社会に分断されちゃうの切ない。
 
 「あちっ!」のところ、マルセルが若干引いていても、カトリーヌがぜんぜん気にしないで得意げでいるところがすごく可愛い。
 でも、一時期のマルセルへのダメ出し多めでつんつんしてるときも可愛かった。それまで嫌味たらたらだった美青年が急に嘘みたいに人懐っこい顔で笑いかけてきて、でも仕事相手とは恋しないとかいってるんだから、そうなるよな、と共感。

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