花組『アルカンシェル』の感想

 『アルカンシェル』のイープラス貸切公演を見てきました。ピエロの柚香さん、ディズニーアニメみたいな動きを生身でやってて、とんでもなかったです。今までも柚香さんのダンスを見て「この人布製なのでは?」とか、「ゴム製なのでは?」と感じる瞬間が何度もあったんですが、今回はそれ以上にすごかったです。ダブダブの服と細長い靴をいかして、現実ではありえないような、手足がひょろひょろと長くて布みたいに丸く曲がる人に見えました。
 言いたいことがバシバシ伝わってくるマイムと、コミカルなのに美しい動きと、動きに添って波みたいに揺れるピエロの衣装の迫力がすごくて、もっともっと見ていたかったです。

 でも、そのあとのモダンなピエロもすごかったし、ジャズもラテンも最高でした。そんななか一番好きだったのは、カトリーヌが最初に「似たもの同士」って言ったあとあたりのダンスだった気がします。確実に一番大好きなのに、ちゃんと覚えてないのが口惜しい。
 
 とにかく、脳裏に焼き付けておきたい柚香さんのダンスや表情や歌声の目白押しで、記憶がどんどん上書きされてしまって大変でした。

 ピアノ弾いてるときの揺れ具合も好きだし、ダンサーの女の子にダンスを教えてるところも、なんだかすごかった。あの動きであの表情の人があの近さって、どうなのか。なぜ皆平然と教わっていられるのか。距離が近くなるのは好きな人だけじゃなかったんですか。正直もっと見たかったです。

 カトリーヌとの二人きりの時間もやっぱり最高でした。マルセルとカトリーヌが二人きりになると、それだけで客席は安心するというか、リラックスするというか、さあ腰を据えて見守りますよ、という気持ちで一体になる感じがします。一番好きなのは、マルセルの部屋でゆっくり話すところ。カトリーヌの話を、お話を聞く子供みたいな表情で聞いたり、蝶ネクタイがきつすぎて飲み物が飲めなかったりと、目が離せず、向かい合って歌うところが本当に素敵でした。
 再会したときの、コンサートでもやっていたくるくるくるーって回すのも最高でしたし、最後のデュエットダンスもすばらしく綺麗で、この二人が本当に本当に好きで、なんで時間って止まってくれないんだろうという思いでいっぱいになりました。
 
 
 お話もすごく好きです。ときに大胆な救出作戦を行って決定的な悲劇は避けるけれど、基本、無理はしすぎず、戦時下の難しい状況をしなやかに辛抱強く生き抜いて、なんとかハッピーエンドにこぎつけるところが、すごく柚香さんにぴったりだと思いました。
 
 印象的だったのは、第一幕の最後、連行されていくときの表情です。これからひどい目にあうとわかっているのに、そこにとらわれすぎないで、考え続けている感じがかっこよかった。
 絶望的に思える状況でも、活路が開けると信じて、ときには仲間の個々の才覚を信じて救出の機を待って、考え続けるマルセルがものすごく好きです。しなやかなのに不屈なところが、まさしく「たゆたえども沈まず」という感じでした。
 
 戦争に勝ったと知ったとき、マルセルがそれまで以上に沈痛な表情になったところも、すごく心に残りました。目の前で悲劇が起きたばっかりなこともあるけれど、耐え忍んできた時間の長さが重く伝わってきました。レジスタンスで肩を組んで、じわじわと喜びをかみしめているところを見ていたら、こっちが先に泣けてきてしまいました。
 
 予習で見たNHKのバタフライエフェクトの「パリは燃えているか」では、パリはその文化的な価値ゆえに爆破されなかった、といわれていました。戦時中でも文化人であることをやめず、ショーを続けたマルセルたちみたいな人が当時のパリにいて、パリが現在形で文化の発信地であることや、相手が人間であることをドイツ兵に思い出させたのかな、と思うと、なんだか胸がいっぱいになりました。


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