Lament of the Lamb


 一粒の光。玲瓏と輝く粒子は希望の胚珠となり、そうして愛の胎生をみる。
 彼等の自己犠牲。それは崇高で至純なる愛。それは血がもたらす金科玉条。
 世界の外側で生きることを余儀なくされた者達は、その絶望の世界にあって愛によって救済される。これは彼等が刻んだ愛する人へ捧げる自己犠牲の物語。

 2002年、中学生の僕は衝撃を受けた。『羊のうた』という名作に出会ったからだ。
 僕は魅了された。作品に、そして冬目景という人物に。「この人に近づきたい!」そう渇望した僕は、おぼえはじめたばかりのパソコンの掲示板に書き込みをしたり、思いきってオフ会にいったり、冬目先生書き下ろしの同人誌を買うため、冬コミで凍えそうになりながら一人何時間も並んだりした。

 僕の持っていた『羊のうた』はバーズコミックの単行本だった。(『コミックバーズ』2002年11月号に連載された。単行本は全7巻。)マーカーで線の引かれたオリジナルのそれは、僕にとって特別なものであった。

 この作品は悲哀に彩られた暗鬱な世界。そして社会から孤絶してしまった者達の哀しき嘆き。それは"うた"。読者へと響き渡る言の葉は人間的世界から隔絶した存在の哀愁。エルフェンリート。(『エルフェンリート』の主題は『羊のうた』と通奏低音をなす。)
 嘆きは叫び。そしてキミは叫び続ける。「居場所が欲しい」と。

 その腕が差し出される。切なさを内包したような細く白いそれは、皮膚の上を滑るように流れいく血の色を鮮やかにうつしだす。鮮血は雪みたいにまっ白な腕の恩恵を受け、魅惑的なまでにその存在を主張している。 
そしてキミは言うんだ。「もう戻れないのだから、こっちへおいで。こっちへ来て、お願い……」と。 
 彼は己が身体に血をとどけた。彼女のものだった血は彼の体内で命となり、交わり、循環してゆく。そして、彼は充たされた。
 血はシンボリックに愛を現象させる。血は交換されることにより、想いが交感される媒介となっている。そのダブルイメージによって愛の物語は縁取られている。


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