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『魔法少女まどか☆マギカ』-さやかと杏子にみる愛-

 「ねえ、杏子。私、幸せだったとは言えないかもしれないけれど…、でもね、決して不幸な人生だったなんて今は思ってないんだ。」

 「誰かの幸せを祈った分、他の誰かを呪わずにはいられない。」さやかは二の句を継ぎ、悲哀の香気を放ちながら話す。
 「私は魔法少女の酷薄な宿命を感じたの。あんな、魂のない抜け殻のような身体になってしまい、大切な人に好きって気持ちも伝えられなかったり…この世界は本当に大きな代償を払ってまで守る意味があるのかって一人疑念に駆られたり、そんなことで。もうほとほと。何もかもに嫌気がさしてしまったの。気が付けば、私のソウルジェムはドロドロと濁っていたの。
 ああ、私はもうすぐ魔女になってしまうんだな。この、私であるソウルジェムはやがてグリーフシードになって、私が大好きだった、本当に大好きで可愛いくてやさしくてかっこうよかったマミさんのような魔法少女に奪われちゃうんだな。」そう思うと、とても悲しくて、泣きたくて、たまらなくなって、どうにかなってしまいそうだったんだ。
 「苦しくて苦しくて、自分が自分でなくなってしまう感覚。それが恐くて、それでね、私は狂ったように使い魔や魔女を切り刻んでいったの…。そうしている間は何もかも忘れられたし、『私はいいことしてるんだ!正義なんだ!』って感じることもできたからさ。 」さやかは続ける。
 「…私、自分が魔女になってしまった時のことは憶えていないの。もしかしたら、魔女っていうのは理性や感情を無くすことであんな強大な力を手に入れているのかもね。キュウベイが魔女に関わっているなら考えられないことではないと思うの。だからね、まどかが私のために一生懸命に声をかけ続けてくれたことも、杏子、あなたが私と戦っていたことも、全然記憶にないんだ…。」
 「まどか…、私の親友の大切な大切なまどかっ‼︎ごめんね…。ひどいこと言っちゃった私なんかのために、とっても危険なのに必死になって呼びかけてくれたのに、私、まどかに気がつくことができなくて…。ごめんね。ごめんね。
 まどか、今までずーっと一緒にいてくれて本当にありがとう。『ありがとう』って最期に言いたかったよ…。短い人生だったけどさ、まどかがいてくれたから私、充実してたと思うんだ。一緒に勉強したり、買い物したり、お弁当食べたり、そういう何気ない日常がすごく楽しくて幸せなことなんだって、私、今はわかっているよ。
 まどか、私の分まで絶対に幸せになって。ねまどかの悲しい顔なんて、私みたくないんだからね。
 ばいばい、まどか。"私"はいなくなっちゃったけど、でもね、私ずっとまどかを見守っているからさ。

 「杏子…。杏子!杏子っ‼︎
 私が輪廻の理に同化して全てのことを把握したとき、杏子、あなたが私と相討ちになって…、それで…、それで亡くなったことを知ったの。
 杏子、あなたは私が寂しいから、私が独りで悲しくて、泣きたくて泣きたくてどうしようもなかったから、それで、それに気づいてくれて私の傍にいることを選んでくれたのね。
 杏子、あなたは父親の出来事があって以来、二度と他人のために力を使わないんじゃなかったの?他人のために祈りを捧げた私がわからなかったんじゃないの。なのにどうして……。どうして、私なんかを救うために命を投げ出したりしたの…。
 でもね、こんなわがままな思いが許されるかわからないけど、私ね、杏子と一緒にいられてよかった。すごく嬉しくて、最高に心地よかったんだ。
『ああ、なんだかあったかいな。』
あの時、ぼんやりと、でも確かに感じた安らぎは、杏子、あなたの腕のなかにいたからなんだね。杏子の体温や鼓動が伝わってきてね、何だか、命の深いところで私達が繋がっているような気がしたんだよ。
 ねえ、杏子。私が最初に不幸でもないって言ったのはね、それは、杏子、あなたがいてくれるからなんだ。まどかや恭介が大切な人なのは勿論だよ。でもね、私が一番大切に、愛しくおもう存在は杏子なんだ。なんでだろうね笑。なんでかけがえのないまどかや恭介じゃなくて、憎みあって、戦いあった杏子なんだろうね笑。正直、よくわからないや。
 でもね、あの教会で二人語り合ったときから、私達は誰よりも前に、どこかずっと遠い遠いところで既に繋がっていたんじゃないかって感じはじめているんだ。
 …杏子、私の最愛の人。ごめんね、ごめんね、私のせいでごめんね…。そして、そして、ありがとう…。私、やっぱり淋しくて淋しくて。杏子のぬくもりが私の冷えきった魂を復活させてくれたんだ。

 杏子、私、杏子を愛してる。

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