あんぱん

もし、言葉が私にとって蜃気楼のようなものなら、私は甘い、うっとりするような幻想に浸り続けているだけで、酷薄に過ぎる現実に直面したとき、それは不条理な社会の前にあって力を失う。言葉の記号的意味がイメージされても内実は水泡のように消失する。
 時折、私は「あんぱん‼︎」と自らを鼓舞する。これは『CLANNAD』という作品のなかで、ヒロインである"渚"という女子高生が辛い学校生活を少しでも前向きに過ごすために、学食のあんぱんを手に入れることをひそかな楽しみにしながらその1日を頑張る、そんなエピソードに根ざしたものである。
ただのあんぱん。それだけを目的に彼女は勇気を振り絞って坂道を登り、学校へとむかっていく。

私も、私にとってのあんぱんを見つけたいと思い、確かに実在する楽しみを見つけたいと思い、その楽しみを希望にしたいと思い、「あんぱん‼︎」と叫ぶのだ。力強く、しかし静謐なる祈りのような声と厳粛さで。

言葉は人を変える!私は馬鹿みたいにそう信じている。信じ続けているんだ。

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