エンタメの最低ラインを知ること 漫画実写化の話 後編

「あ、これ原作小説読んだやつだ」
そんなきっかけで映画を見たりドラマを視聴したり、あるいはアニメを鑑賞することはよくある。
”好きなお話だから”とストーリーを楽しめるものであれば、期待する面白さのある程度の誤差内であれば納得できる。
しかし中には原作の話を映像化する際の都合により誤差の範囲内から飛び出し、その結果賛否問わず様々な激論が世を交差する。

今日は様々な実写化作品の中から、近年特に目につく機会も多い『漫画原作』の実写映画について語りたいと思う。
そしてさらに今後も多数あるであろう原作愛が溢れるゆえの実写化への批判をどうしても行ってしまう方々に向けての心の持ち方などの対策を記させていただく。


前回の話

想像との距離

”漫画が実写化する”ともなればその漫画は人気のある者できっと多くの読者がいるだろう。
そしてそれは読者ごとにその漫画のそれぞれの『想像の世界』があり、読者の脳内で大冒険をしていたり大恋愛をしていたりすることだろう。
そうした際にきっとセリフは読者それぞれの思い思いの声で再生されている。
そして作品の中の世界は「きっとこのキャラ達はこういう風に生活しているんだろうな」と想像を巡らせているはずだ。

原作は漫画であるため実写映画とするには文字通り次元が違う演出方法が必要となってくる。
そのためどうしたって原作との乖離が生まれてきてしまう。
乖離が多ければ多いほど、強ければ強いほど数多くの否定の意見が集まってしまうこととなる。

どういった乖離が起こりうるのか、例を挙げさせていただく。

キャラクターの乖離

どうせ実写映画化するなら人気の俳優・女優を使ってみよう!としたときは、大概原作のイメージをかけ離れた役者を使ってしまい顰蹙を買うことはよくみる。
きっとお金の絡むことだもんで、制作会社・配給会社・芸能プロダクションと色々と表には言えない大人の事情もあって、彼ら彼女ら役者を入れ込むのでしょう。
しかしそれが真に役としてハマったものであるならば良いが、そうならないケースの方が多いように思う。
そもそも二次元の人物をベースにするのだから、次元を越えたハマり役はなかなか見つからないのであろう。

*映画ではないが、旧美味しんぼのドラマの江守徹は完璧な海原雄山だった。ああいうのもっと見たい。


ストーリーの乖離

実写映画化するものは大抵人気作品であるから、ある程度長編のものが多い。
しかし映画の尺は長くても2~3時間。この中で人物の紹介から、関係性、盛り上がり所、結末と全てを盛り込まないといけない。
漫画と違い時間という長さが決まっているものを表現するのにどうしても避けられないのがストーリーの再構成。
しかしそもそも実写化した映画に最も期待できる点はもともと漫画原作で語られているストーリーである。
人物や世界観は再現することが難しいがストーリーであるならば、ある程度は次元の壁を破るよりは楽に再現できる。
そこのジレンマをどう乗り越え魅力あるお話と出来るかに脚本の腕がかかっていると言っても過言ではない。

*近年で言えば和山やま作の『カラオケ行こ!』の実写映画化は見事だった。

原作に描き切れない空気感や生活感を映画で表現していたように思う。
短編の作品は割と上手くいきやすいということかもしれない。


設定の乖離

ストーリーの乖離とやや似てはいるが、設定の乖離も顰蹙を買うケースが多い。
直近でいうとドラマの『ブラック・ジャック』の再実写化が発表されたが、作中のBJのライバルで元軍医のドクター・キリコが性別を男性から女性に変更となったのが話題になった。

性別の変更意外にも他にも日本が中心の撮影の為か人種の変更、兄弟姉妹設定の変更、友人関係の変更などなど配役や脚本の都合で様々な設定が実写化にあたり、変更となることが多い。
女性向け漫画だと繊細な心情を描くものが多いため、人間関係の変更などされた日には途端に関連する様々なものが雪崩のように変更され、原作との乖離がとても強く大きくなったしまう。
もちろんそういった実写化にあたり変更となったものを喜ぶ声が上がることもあるが、やはり多くは忌避されるファクトの一つとなってしまうだろう。

*ビックコミックで連載された『ラーメン発見伝』の続編である『ラーメン才遊記』は実写ドラマの際に、キーマンの一人であるラーメンハゲこと『芹沢達也』は男性から女性へと変更となった。

ラーメン発見伝 小学館
メインヒロインのラーメンハゲは実写では女性ラーメン職人に転生した

当然のように批判の的となるかと思ったが、思ったよりも騒ぎにはならずむしろ「商品を売るために常に冷静沈着なラーメンハゲなら、ドラマ化にあたりより市場に受けが良さそうな性別変更は喜んで受け入れてそう」という深く作品を理解したユーザーが多く、性別変更という絶対炎上の元は燃え上がらずそれどころか好意的に終わった稀有な例もある。

最底辺を知ること

ではそういった様々な原作との乖離を気にせず、実写化された全てのものを楽しむにはどうするべきか。
批判を恐れずあえていうならば『実写版デビルマン』を見ればいいと思う。

(私の中で)伝説の作品の実写版デビルマンは、東映が渾身の作品として世に送り出したものだ。
「原作漫画の完全実写映画化」を目標に掲げ、莫大な制作費をかけ当時主流だったVFXを贅沢に使った作品。
特撮映画の『東映』とアニメ制作の『東映アニメーション』がタッグを組み、アニメと実写の融合を目指した。

結果は知ってる方も多いだろうと思うが大失敗に終わった。
何がいけなかったのか?と問われることが多いが、もう全部ダメだったのだ。
配役も演技も脚本も監督も小道具も褒める要素が一つも挙げることが出来ない。
*映画の内容の外ではあるがポスターは凄く出来がいい

デビルマンを見れば「これより下の実写化作品はない」と感じられることから、これから様々な実写化作品が見れると思うがその全てを楽しむことが出来るはずだ。だってデビルマンより酷い実写化作品はありえないんですから。

勘違いしないでほしいのですが、よくある「原作作品へのリスペクトがない」とか「○○の担当が手を抜いていた」とかそういう話では全くないです。
実写版デビルマンは全てのスタッフ、キャストがデビルマンへの敬愛を込めて全力でやりきった結果クソ映画となってしまったのである。
それ故に愛を持って見れる映画ではある。そこだけは忘れないでほしい。

今後の実写化作品を最高に楽しむためにもい、是非一度はご視聴ください。

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