エンタメの最低ラインを知ること 漫画実写化の話 前編

「あ、これ原作小説読んだやつだ」
そんなきっかけで映画を見たりドラマを視聴したり、あるいはアニメを鑑賞することはよくある。
”好きなお話だから”とストーリーを楽しめるものであれば、期待する面白さのある程度の誤差内であれば納得できる。
しかし中には原作の話を映像化する際の都合により誤差の範囲内から飛び出し、その結果賛否問わず様々な激論が世を交差する。

今日は様々な実写化作品の中から、近年特に目につく機会も多い『漫画原作』の実写映画について語りたいと思う。
そしてさらに今後も多数あるであろう原作愛が溢れるゆえの実写化への批判をどうしても行ってしまう方々に向けての心の持ち方などの対策を記させていただく。

昔からあった、作者も激怒する実写化

ワタリ

戦後日本で赤本漫画と呼ばれるブームが落ち着き貸本漫画ブームが盛り上がり始めていた1950年代の話。
一人の漫画家がデビューを果たした。

白土三平。赤本の紙芝居時代から活動していたが、貸本時代の牽引車の一人として今では高い評価を受けている作家の一人だ。
伝説の雑誌ガロの創立時の漫画『カムイ伝』や当時としては大長編となった『忍者武芸帳』などを連載した作家だ。
その白土三平の作品の一つが実写映画化するという話しが上がった。

作品名は『大忍術映画ワタリ』当時少年マガジンで連載していた大人気作の『ワタリ』を原作とした映画であった。

東映の劇場映画として1966年に公開されたのだが、公開前の映画が完成したとのことで試写会を開催した。
その際に原作の白土三平も同席したのだが、視聴を終えた白戸三平は激怒した。
「自身が込めた民族階級闘争の話を子供向けの単純明快な話にされた」と怒っていたのだ。
その後映画はそこそこ人気が出たので、手応えを感じた東映は白土三平にTVドラマ化を希望したが当然の如く断ったそうだ。

YAWARA!

日本で柔道ブームを起こした作品は二つある。
一つは講道館四天王の一角、いまなお最強の柔道家の一人とも呼ばれる西郷四郎をモデルにした小説『姿三四郎』がその一つだ。
そしてもう一つは小学館漫画賞も受賞した天才柔道少女の活躍を描いた快作『YAWARA!』である。

YAWARA!はビックコミック原作で青年誌での連載だったため、ある程度大人が読む漫画として連載されていたが、TVアニメがゴールデン帯で放送されたことで全世帯で爆発的に人気が高まることとなった。
その結果YAWARA!に影響され柔道を始める子供が増え、「柔道は男のもの」といった価値観が一般的だったものを覆し全国で女子柔道部員が激増した。

そんななか、YAWARA!実写映画化が決定した。
原作者の浦沢は脚本の確認を行ったが、それが納得のいくものではなかった。
「ならもう俺書くよ」と言ったかどうかは分からないが、脚本を三徹し書き直し先方に提出した。
映画制作側は「これいいっすね!これでいきます!」と返事をした。
しかしほっと胸を撫で下ろした浦沢が実際に出来上がった映画を見たら、自分が手直しした箇所が一か所も使われていなかった。
怒りのあまりそのあと予定されていた記者会見には出ず、そのまま帰ったそうです。

映像化ってものが生まれてから数多くの作品が世に解き放たれましたが、全てが納得のいく作品だったわけではなく時には作者すらも(逆に作者であるからこそ)怒り心頭となったケースもありました。

どうしてこういったことが起こるのか。そしてその解決策は?
続きは次回

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