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「ミケランジェロ〜追憶の果て〜」第二話


翌日
〇ニコラの部屋
ベッドに上半身を起こしている首元にギャザーがついたシャツ姿(寝間着)のニコラと、歩き回るミケランジェロ。ミケランジェロは膝までのチュニックにマント姿。
ミケランジェロ   「…親父は金のことばかり!弟は気の強い女房の言いなり」
ミケランジェロ   「俺が今までどれだけ家族に尽くして来たと思ってるんだ⁉」(怒って怒鳴る顔)
横目でミケランジェロを見ながら、くすっと微笑むニコラ。
恥ずかしそうに紅潮し、ニコラを見るミケランジェロ。 
ミケランジェロ  「…こんな愚痴を言える相手は、お前くらいだな」
ニコラ   「僕で良かったら、いくらでも聞くよ。あなたが愚痴れるのはここだけだろ」
ニコラ   「でも僕があなたの家族だったら…愚痴られる一人かな。お荷物だって」(苦笑)
心配顔でニコラを見るミケランジェロ。
ミケランジェロ  「…そんなことない。お前が俺の弟なら…」
ニコラ   「息子だろ」(吹き出して)
ミケランジェロ  「なっ・・・」(真っ赤になって[コメディタッチ])
ニコラ   「…」(苦しそうにぎゅっと目を閉じる様。顔に複数の汗)
駆け寄るミケランジェロ。
ミケランジェロ  「すまん!大丈夫か」
ニコラの背に手を当て、寝かせようとする様。
ミケランジェロ  「セバスティアーノにお前のこと話したら、会いたがってたぞ。今度連れて来ようか?」
         「ローマやベネチアの面白い話が聞けるぞ」
ニコラ   「よしてよ。こんな姿見せたくない」(汗をかきながら苦笑して)
ニコラ   「ペストにでも罹ってるのかって思われる」(ニコラの目のアップ)
ミケランジェロ   「よせ!お前はペストなんかじゃないだろう」
ニコラ   「…ごめん。家族がそう話してたのが耳に入って-…」
ミケランジェロ  「…」
ニコラ   「…墓碑のことで、ローマに行ってしまうんだろ?いつ行くの?」
ニコラを見るミケランジェロのアップ。額に一筋の汗。
眼を閉じるニコラを見るミケランジェロ。
ニコラ  「…それまでに約束したデッサン、仕上げないとね」

〇フィレンツェ大聖堂の傍
路上を並行して歩くアントニオとセバスティアーノ。
アントニオ  「…ニコラの病気は治る見込みがないと聞いています」

(回想)
ニコラ  「アントニオの目標は?やっぱり工房を持つことか?」(セリフのみ)
〇ミケランジェロの工房
画板を持ちながら坐るニコラとアントニオ
アントニオ  「…俺いつかフランスへ行ってみたいんですよね」
 「目標はフランス国王がパトロンになってくれることかな。フィレンツェ(ここ)出身の著名な職人たちのように」(レオナルド・ダ・ヴィンチ、アンドレア・デル・サルトの肖像画のイメージ像)
ニコラ  「すごいじゃないか」
アントニオ  「このこと先生に話したら、そんな話は一人前になってからしろって怒られましたけど」(笑って頭を描きながら)
伏し目のニコラ。
描きかけのアントニオの頭部のデッサン画
ニコラ 「…そんなふうに夢や希望が持てるだけで羨ましいな」
アントニオ 「えっ?」(ぽかんとした顔)
ニコラ 「ここはどう描けばいい?教えてくれないか…」
(回想終り)
アントニオ 「俺、不治の病だってこと知らなくて…将来の夢なんて話したこと後悔しました」
セバスティアーノ「……」

〇教会内部
絵画 フィリッピーの・リッピの「聖ベルナルドゥスの幻視」⑨を正面に後ろ姿のセバスティアーノとアントニオ。
セバスティアーノM  「…この画家の絵は、ローマでも見た。確か
道半ばで病で亡くなったんだよな」
リュート、筆、絵の具、⑩「ラザロの蘇生」のイメージ。
セバスティアーノM 「わたしもいろんなことしてきたけど…音楽 や絵画で、死から救うことはできない」
〇サン・ロレンツォ教会の外観
⑪フィリッポ・リッピの「受胎告知」の絵。
アントニオ  「これを描いたのはフィリッポ・リッピですね。さっきの絵の筆者の父親で同じ名前の」
セバスティアーノ 「修道士(フラ)フィリッポ・リッピだよな」
フィリッポ・リッピのイメージ像(横向き。目は描かず)
アントニオ  「ええ。30歳近くも年の離れた修道女とかけおちして、息子が生まれたのは有名な話ですよね」
苦笑してアントニオを見るセバスティアーノ。
セバスティアーノM  「―生命が誕生し」(受胎したマリアの絵のアップ)
〇教会の外
親しげに話しながら歩くセバスティアーノとアントニオ。
セバスティアーノM  「―無くなる命もある」
教会の正面と、そばに放置してある大理石の塊。
振り返り、それらを見るセバスティアーノ。
セバスティアーノM 「生命の重みと比べたら、スキャンダルも訴訟も、先生が未完成で終わったここの正面(ファザード)の問題も、小さなことなのに…」

〇夜中 ミケランジェロの家
ベッドで寝ているセバスティアーノ。
夢の中。目の前にベールをかぶった女性と、女性に似た顔で、肩までの黒髪の少年が、共に涙を流しセバスティアーノを見つめている。
高熱で息切れし、顔が汗だくで、ベッドに横たわる年を取ったセバスティアーノ。
女性に目をやるセバスティアーノ。
「聖ベルナルドゥスの幻視」「受胎告知」のマリアのイメージ像と、女性のアップ。
セバスティアーノ(…あなたは、あの絵の中の…?)
視線を変え、少年の頬に手を伸ばし、ほほ笑むセバスティアーノ。
セバスティアーノ (・・・泣くんじゃない。・・・まったくおまえはいくつになっても泣き虫なんだから)
         (わたしはすぐ元気になる…絵がまだ途中だ)
歯を食いしばるセバスティアーノのアップ。
セバスティアーノ (まだ死ねない……おまえが成人して立派な画家になるまでは)
目を閉じるセバスティアーノ。ぼやけていく女性と少年の顔。
*転生前のセバスティアーノ、あるいは時空を超え、セバスティアーノがフィリッポ・リッピに憑依したことを読者に想像させる。
朝日が差し込む窓。
目を開けたセバスティアーノ。涙を流している。
身を起こして目を腕で拭く。首元にギャザーがついたシャツ姿(寝間着)。
セバスティアーノ M「…よく覚えてないけど、死んでいく夢?ニコラのことを聞いたからか……」

〇ミケランジェロの部屋
ドア越しのセバスティアーノと、セバスティアーノを見るミケランジェロ。セバスティアーノは前述の普段着。ミケランジェロはシャツ(寝巻と同じ型)にズボン。
セバスティアーノ 「おはようございます。先生、お話があります」
ミケランジェロ   「…フィレンツェに住みたいっていうのか?」
セバスティアーノ 「え?」
ミケランジェロ  「でもこの家に置くわけにはいかんぞ。どこ か部屋を借りるなり…」(セバスティアーノに背を向け、上着を着ながら)
セバスティアーノ 「ち、違いますよ!」(赤くなって手を振りながら)
セバスティアーノ 「わたしはローマに帰ります。そして修道士になります」
ミケランジェロ   「えっ?」(キョトンとした顔)
セバスティアーノ 「以前から勧められてはいました。迷ってたんですが、ここ(フィレンツェ)に来て決めました」
セバスティアーノ 「わたしは先生ほど能力もないし。これからは 人の救いになるような…ハハ、わたしにそんな立派なこと出来やしませんが」(頭を掻きながら)
大声で宣言するセバスティアーノと、声に驚くミケランジェロの様(コメディタッチ気味)。
セバスティアーノ 「と、とにかくここ(フィレンツェ)に来て無性に修道士になりたくなったんです!」
髪を切った修道士姿のセバスティアーノのにこやかな顔のイメージ(コミカルタッチ。間を取る意味のコマ)。
握手する二人の手。
セバスティアーノ 「…修道士になっても、絵は続けますよ。墓碑の件も、変わらずお力になります」
         「あとニコラが良くなるよう祈ります。わたしにはそんなことしかできないけど」
ミケランジェロ  「ありがとう」
(時間経過)
門(フィレンツェ各所に今も残る)の近くの路上
手を振るセバスティアーノ。荷物を肩にかけ、マント姿。それを見送るミケランジェロとアントニオ。

(第二話 完)


⑨「聖ベルナルドゥスの幻視」(210x195cm)フィリッピーノ・リッピ フィレンツェ、バディア
⑩「ラザロの再生」セバスティアーノ・ルチアーニ(デル・ピオンボ)
ロンドン、ナショナルギャラリー 
⑪「受胎告知」フィリッポ・リッピ フィレンツェ、サン・ロレンツォ教会

#創作大賞2023  

第一話↓

第三話↓


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