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AI時代の教育を切り拓く!武藤佳恭氏の考えを教育現場に取り入れる方法

武藤佳恭さんの『AIとオープンソースで真贋を見る目を養う―素人の発想力・玄人の技術力』(春秋社・2022年10月)を読みました。武藤さんは、AI技術を活用して、カメラ付き携帯電話や紙幣鑑別機、脳腫瘍判別機などの革新的な技術開発を行い、さらに東日本大震災後には温度差発電や床発電などの代替エネルギー製品を発明するなど、広範な分野での活躍が知られています。本書を通じて、私は武藤さんのAI技術開発に関する考え方が、教育学の分野にどのように応用できるかについて考えを深めました。

① 情報リテラシー教育の再考

「実際の検索において重要なのは、一度検索して見つからないと諦めてしまわないこと。見つからなくても、毎日同じ検索を繰り返してみる。長い時には、一週間や一か月としつこく何度も検索し続けると、探しているものが出てきたりする。サーチエンジンのアルゴリズムには、確率モデルを使った関連性のランク付け機能が搭載されている。初期の推論を何度もアップデートすることで、ユーザーにとってより優れた検索結果を表示させようとする。」

(前出・94頁)

この引用から、武藤さんはAI技術を活用した情報探索のプロセスにおいて、根気強く検索を続けることの重要性をその理由と共に述べています。この考え方は、教育学における情報リテラシー教育に応用することが可能です。これまで、教育現場ではネット検索は浅薄な方法と見なされることが多かったですが、武藤さんの考えに触発されることで、ネット検索のプロセスを深く理解し、情報収集のスキルを高める教育へと発展させることができます。具体的には、学生に対して検索エンジンの仕組みやアルゴリズムの働きを教え、検索結果の信頼性を評価し、情報の価値を批判的に分析する能力を育てる授業を構築することが考えられます。これにより、学生はAI技術を活用した効果的な情報リテラシーを身につけることが期待されます。

② 概念的理解と教育方法の統合

「難しいことは分からなくても、根本原理について、概念的にざっくりと直感的に掴むことは必要である。専門知識や専門用語の細かなところで立ち止まってしまう人は少なくないが、あらゆるものがモジュール化され、抽象的に簡素化されている現代においては、まずは大雑把に全体の雰囲気を感じることが重要なのである。それがイメージ作りにつながっていく。」

(前出・170頁)

武藤さんのこの考えは、教育学にも応用できる視点を提供します。教育現場では、「アクティブ・ラーニング」や「単元内自由進度学習」といった異なる教育アプローチがそれぞれ独立して用いられがちですが、これらを統合的に捉え、学習者に柔軟な学びを提供する必要があります。武藤さんの概念的理解の考えを教育に取り入れることで、基礎知識の習得段階では教師主導の学びを、応用的な活動では学習者が主体的に取り組むような授業設計が可能になります。また、井庭崇の「ジェネレーション」という第3の考えを取り入れることで、学習者が自ら知識を生成し、応用するための環境を整える柔軟な学びのモデルを構築することも考えられます。こうした統合的アプローチは、教育方法の効果を高めるための新たな指針となるでしょう。

③ 異分野の視点と教育手法の革新

「途中で行き詰ったとしても、それを失敗と考えたことはほとんどない。研究でそうしたことがあれば、見方や考え方を変えてテーマをシフトしていく。視点や比重を少し変えるだけで、大きく前進することもあるし、ブレイクスルーを引き起こすこともある。そのためには隣接分野・異分野の重要トピックスの収集やそれを引き寄せるキーワードを活用して検索し、そのテーマの全体像を正しく認識することが肝要である。」

(前出・57頁)

この引用から、異分野の知識を積極的に取り入れることの重要性が浮かび上がります。教育学においても、異分野の視点を導入することで新たな教育手法を開発することができます。例えば、私が開発を行った「見たこと作文」という方法は、もともと総合的な学習の一環としてのレポート学習を、国語科の作文教育の分野に転用し、さらに教育現場での多くの追試実践を通じてブラッシュアップしたものです。このように、異分野の知見を取り入れることで、教育の新たな可能性を開拓することができるのです。

④ 熟達教師の知識を明文化する「無意識の言語化」の価値

「(優れたAIを創るための)データセットづくりは、専門分野とAIの世界を橋渡しする重要な部分であり、意思疎通を含めて意外に時間がかかるものである。(略)AI専門家の立場からすると、業界の前提知識や専門用語などの予備情報のないなかで、いきなり難しい職人や熟練工の説明を聞いても、一度ではわからない。辛抱強く構えて根掘り葉掘り聞き出していくうちに、だんだん全体像が見えてくる。」

(前出・176頁)

この引用は、異分野の専門家間での意思疎通の難しさを示していますが、教育学にも応用できる視点です。現在、私が進めている「無意識の言語化」という取り組みは、熟達した教師のスキルや判断を明文化し、他者と共有することを目指しています。こうしたアプローチにより、教育現場での実践知が共有され、次世代の教師にとって実践的なガイドラインとして役立つ教育資源が形成されます。これにより、教育の質の向上と新たな教育方法の研究・革新が促進されることが期待されます。

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