よりみち通信19ブック・カウンセリング「あれから10年」―私たちの秩序はどのように保たれているのか―

元東京オリパラ大会組織委員会会長の女性差蔑視発言に、まだ日本のジェンダー意識はこんなにも低いのかと、改めてがっかりさせられた人も多いことと思います。

しかし、10年前の東日本大震災の折に、すでにそのことは顕在化していたとはっきり描いている小説が、垣谷美雨『女たちの避難所』(新潮文庫)です。

津波にのまれ、帰る家を失った三人の女性たち。身を寄せた避難所では、高齢男性がリーダーとなり、段ボールの仕切も使わせない監視社会が広がっていて…。お金も逃げ場もない女性たちが、男尊女卑はびこる無秩序状態を生き延びた記録を小説として描いた傑作です。

一方、頓所直人『笑う、避難所』(集英社新書)は、段ボールの仕切を使わない選択をしながらも、避難所の秩序が平和に保たれた事例を追ったノンフィクション。

公の支援が届かない中、独自のネットワークを開拓し、他の避難所の支援まで果たしていた石巻の自主避難所「明友館」。ルールはたった一つだけ「ウンコをしたら水を流す」!

なぜそんなルールだけでみんなが楽しく生き延びられたのか。リーダーが40代の元不良でフリーダムな生き方をしてきたこと、人脈が広かったこと、色々理由は見つかりますが、何より大きかったのは、いろんな人たちのいろんな生活習慣や属性を何一つ排除しなかったことにあるように思います。

秩序が崩壊した災害のあとで、それを取り戻すために私たちはどうしても「決まり」を必要としてしまいますが、肝心なのは、それをだれがどのように決めるのか、です。

無秩序状態の中で求められるのは、みんなを従わせるという存在よりも、みんなの多様さを認める役割の人なのかもしれません。

10年前に明らかになっていた新しい価値観に、いまだ気づけない人々がいる――森元会長の言葉は、図らずもそのことを露呈してしまいました。コロナ禍の今まさに、暗雲立ち込める日本の未来を暗示しているようで、心底ぞっとしてしまったのは私だけではないはずです。
(小笠原千秋)

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