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戦場を走る意味を探して

映画感想文 『1917 命をかけた伝令』 監督:サム・メンデス

今年は新旧合わせて100本の映画を見るぞ!と意気込んだものの、半年が終わったのにも関わらず25本しか見れていなかった。一応半年を振り返ってみて、『1917 命をかけた伝令』は、素晴らしく期待を越えてくれた。

サム・メンデス監督といえば『007 スカイフォール』『007 スペクター』しか見たことが無い。淡々としていて、男を格好良くする人の印象だ。女性は微妙で、『007 スペクター』では、3回ほど映画館で見たのだけれど、あのモニカ・ベルッチの扱いは何だったんだと、毎回思った。

ちょっと芝居がかってるくらい格好良い映像を見せてくれる映画が好きなので、撮影監督を努めたロジャー・ディーキンスが撮る映画は大好きだ。人間もさることながら、風景が良い。デスクトップの壁紙にしたい。『007 スカフォール』のボンドがスコットランドのハイランドを見ている風景は、衝撃的に格好が良い。

そんなロジャー・ディーキンスが撮る全編1カット(風)は気になったし、期待していた。そして、期待を通り越してくれた。1カット(風)に意識が行くのだろうと思っていたのだけれど、『1917』はとんでもない没入感を与えることで、カットがどうとかを全く忘れさせた。私たちは主人公であるスコフィールドと共に走り、感情を同一にし、息をひそめる。スコフィールドへの共感が途切れないので始終緊張する。戦場を走るとは、こういうことなのだ。

よくあるパターンは、安心させてから緊張させる、を繰り返す。ところが『1917』は安心させてくれない。緊張しっぱなし。そこには恐怖があり、恐れがある。1シーンしか出てこない、主人公たち以外の登場人物たちは、錚々たるメンバーによって固められていて、緊張の中に知った顔が出てくると安心するのだが、この安心がスコフィールドと共鳴する。戦場を走るには、勇気も必要で、『1917』は見る側にも、勇気を要求する。

映像が格好良いのは言うまでもない。夜、占領された街にたどり着く。そこには照明弾が上がり、火の手が見える。その映像のなんと美しいことか。敵地で姿が見えるというのは致命的で、この光は絶望なのに、しかし、美しい。建物と光のバランスが完璧で、メイキングを見るにどうやらこの影であったり立ち位置には相当の努力があったようだ。

なぜスコフィールドは走るのか、序盤早々にそれは明かされる。ただ、戦場において彼が走る意味はなんだろうか。伝令とは何なのか。戦争とはなんなのか。この映画はいわゆる反戦映画ではないのだけれど、驚くほど明確に、戦争における人間とは何かを見せつけてくる。それはとんでもなく、人間性から乖離したもので、その恐ろしさに喉が渇く。

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