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#0 ジャンケンが人生を変えた。


EP0:ジャンケンが人生を変えたお話





ジャンケンぽん。


この一回のジャンケンが僕の人生を変えた。


小学3年生のある日、僕たち三沢ジュニアアイスホッケークラブは危機に直面していた。一つ上の小学4年生のゴールキーパーがインフルエンザにかかってしまい、試合に来られなくなってしまったのだ。当時の三沢ジュニアBチームはただでさえ10人ほどしかメンバーがいないのに、キーパー不在で当時の絶対王者、八戸ホワイトベアジュニアとの一戦を迎えようとしていた。


キーパーなんてポジションは誰もやりたくてやっているわけではない。子供たちにとっての憧れは、カッコよくゴールを決めて、お父さんお母さんに褒められる事だった。相手ディフェンスの股を抜いて、華麗にゴールキーパーのグローブ上を射抜く。それがホッケーの醍醐味であり、子供たちにとってのカッコイイだった。キーパーはシュートを決められる人、誰もやりたくてやってる子供はいなかったし、キーパーになりたいって子は少し変わっていた気がする。


「この中でキーパーやりたいやついるか?」


コーチの問いかけに案の定、誰も手を上げなかった。僕もそうだ。僕は昔からシュートを決めるのが好きだった。幼稚園から続けていたサッカーもずっとゴール前でパスを呼んでいたし、ゴールを決めてガッツポーズをして、周りからチヤホヤされるのが好きだった。打ったシュートがゴールに吸い込まれるその瞬間にスローモションになるあの感覚が小学生の僕には特別だった。


「じゃあ今回はジャンケンだな」


ジャンケンで負けたひとがキーパー、子供たちにとってのキーパーは、給食で残るにんじんと同じ。大嫌いではないけど、別に好きではない。食べろって言われたら我慢して食べられる。大人やみんなにやれって言われたらやるけど、自分から進んでやりたいなんて言うポジションじゃない。


「じゃんけん、ぽん」


案の定負けた。こう言う時の僕はめっきり運が悪い。今日はシュートをたくさん決めるつもりだったけど、これじゃあ決められないな。でも子供にとってさえも、いつでもジャンケンは絶対的だった。ここで駄々を捏ねるのは小学3年生がすることじゃないことは、小さいながらに分かっていた。


初めてキーパーの防具を着た。重いし、動きにくいし、グローブはへんてこだし、なんだかカッコ悪く見えた。ただでさえ、最近食べすぎてちょっと太ってきた成長期の少年にとってなんかデカイのはすごく嫌だった。そんな不機嫌そうな僕の表情を汲み取ったのか、コーチにこう言われた。


「キーパーはね、ヒーローなんだ
ずっと試合に出られるのと、ピンチを救えるのはキーパーだけなんだよ」



納得いかなかった。でもゴール決められないじゃん。それでも小学三年生にとってヒーローって響きはカッコよかったし、何よりずっと試合に出れる特別感に浸れるのは悪くないって感じだった。少しの期待と共に初めてゴールの前に立った。みんなが見えた。自分のチームメイトと相手、ベンチにいるコーチ、観客席にいる母親とチームメイトの親。全部見えるんだ。僕にとって初めての景色は新鮮で、新しかった。


気づいたら22点決められていて、試合が終わっていた。



試合後、コーチが一生懸命話しかけてくれていたが何を話していたのかはあまり覚えてない。多分慰めてくれていたんだろうけど、何も聞こえなかった。誰よりも早く着替えて、誰よりも早く控室を出た。不貞腐れながらリンクの2階にある観客席に上がり、大勢いる父兄の前で母親だけに向かってこう叫んだ。


「二度とキーパーなんかやるもんか!」


やりたくもないキーパーをやらされ、ボコボコにされ、少しながら持っているプライドをズタズタに傷つけられた。怒りと悲しみが入り混ざったような気持ち、自分だけが下手くそなんだと思いたくなかった。一人で車に戻り、泣いた。初めてキーパーをやったとか、仕方なくやらされたとか、そんな理由はどうでもよい。ただ、自分がシュートを止めれなかったこと、あれだけ好きだったホッケーが自分から離れていくような感じがして悲しかった。子供ながらに自分のキーパーとしての仕事ができなかったことを理解していたからこそ、心の片隅に"責任”を感じていた。いつもはゲラゲラ笑いながら見ていたトムとジェリーのDVDはなぜか帰りの車ではつまらなかった。


あの試合からホッケーにあまり熱がはいらない。みんなで一緒に氷の上を滑っている時も、隅で練習している先輩ゴールキーパーが気になって、チラチラ見ていた。一回キーパーを経験してみると、なんであんなに簡単そうに止めているように見えるのが不思議だった。それでも試合で一回だけ、まぐれでグローブに入ったあの感覚、パックの重さがズシリと手のひらに伝わり、その反動でよろけそうになる。グローブの中にはいった瞬間に勝手にミットが閉じるあの感じが忘れられなかったのだと思う。


練習後思い切って、コーチに言ってみた。


「僕、キーパーやります」


半分、コーチに騙されたみたいなもんだ。
ヒーローなんて言われたらやらないわけにはいかない。


でもそんなことより、初めてゴールネットの前に立った時に見えたあの景色と、シュートを止めた時に感じる僅かな振動が好きだった。そして何より、あんなにコテンパンにされたまま終わるのが、逃げたみたいで嫌だった。


シュートを決められるのは怖かったけれど


責任なんて負いたくはなかったけれど


あのジャンケンが、僕をキーパーにしてくれた。


冨田開





令和5年度三沢ジュニアアイスホッケークラブ卒業生の皆様、



まずは卒業生の皆様、ご父兄の皆様、この度は卒業おめでとうございます。今でも三沢に帰省した際に、自分の帰る場所がある、 ジュニアOBの選手を受け入れてくださる三沢ジュニアの温かく、アットホームな環境がすごく素敵で大好きです。ありがとうございます。

卒業してからホッケーを続ける人、続けない人も、時に自分で選択、決断しなければならない場面が多くあると思います。私は人生において何か重要な選択しなければいけない時、大切にしていることがあります。それは「いかに捨てるか」です。自分が今まで積み重ねきたこと、自分の心地よい環境、信じるものを手放すのは不安で、怖いものです。しかし、時に、何か手放さなければ、新しい景色が見られない時もあります。前に進むだけではなく、後ろに下がる時、下がらなければいけない時も必ずきます。短期間では決して成果が出ない時の方が多いことでしょう。成果が出ない時こそ、自分自身と自分の未来を信じて、明確なビジョンを持って、一歩ずつ進めるかどうかが大切だと、私は信じています。


少しでも皆様の力になれれば嬉しいです。


この度は卒業おめでとうございます。
皆様のこれからのご健闘をお祈りしています。



ps. アメリカでホッケーをするなんて思ってもいませんでした。

人生、何がきっかけで、何が起こるかわからないものですね。



最後まで読んで頂きありがとうございます。
アーサー with WE LOVE MISAWAとお別れです

それでは! See you later!! #0


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