言葉の意味が分からない

 学校で問題行動を起こし、家族から懐疑の目で見られるようになった私は自らの愚行を振り返る度に、鬱々とした気持ちにならざるを得なかった。性的観察を行ったこと、家族に対する下劣な行動を取ってしまったことは「世の中の恥さらしだ。」と自己批判するしかない。

 最大の課題は、人とのコミュニケーションである。言葉の意味をまるで理解できていなかった。そう自覚したのは、まだ生まれてまもない頃のことだ。

 3歳の誕生日を迎えた頃、父親がバースデーケーキを買ってきた。皆でお祝いをすることになった。だが、父とのやり取りの中で少し違和感を感じていた。

 父「これ、何ですか?」
 私「おしぇんべい。」
 父「おしぇんべい!? これ、おしぇんべい?」

 どうやら父が指を差したケーキの入った箱をおかきの詰め合わせの箱と勘違いしたようだ。母方の祖母がよく銀座で購入してくるおかきの詰め合わせの箱の包装が白に見えたのだろう。

 続けて、こんなやり取りもあった。

 母「今、いくつですか。」
 私「2歳!」
 母「違うでしょ。」
 しばらく間が空いて…
 父「3歳でしょ。」
 私「3歳!」
 母「そう!3歳ね。」

 年を取ったことすら理解できていない。

 その時の出来事が後に小学校時代に露わになった。

 ある授業の一環として農業体験を行った後、宿題で農業体験の感想を書く機会があった。クラスメートは「一番大きいトウモロコシが撮れて良かった。」「農家の話を聞きつつ、野菜の育て方がどれだけ大変なのかがわかって貴重な体験をした。」といった理路整然とした感想が寄せられていた。そんな中、私の感想は予想をはるかに超えていた。

「野菜は緑色です。」

 周りのクラスメートは苦笑。頓珍漢な解答である。感想を聞いているにも関わらず、野菜そのものの状態を書いていたのだ。自分でもよく分からない。

 こんな話もある。ある学校のイベントで懸賞として貰ったおもちゃの指輪を「本物」だと勘違いしたのだ。先生に「これは本物ですか?」と聞いたら、「偽物です。」と答えた。その後、友達から「これは本物だよ。」と言って、友達の一言を信じ込んでしまった。騙されたなと思った。
 本物と偽物、これらの言葉の意味をしっかり理解できていなかったのだ。恥ずかしくて、思わず下を向いていた。

 会話をしようにも、人にうまく伝えることができない。故に支離滅裂なやり取りのまま終わってしまったことが幾度もある。

 次第に人と話すことを怖れるようになり、苦悩する日々を送ることになった。

 会話がろくにできない私にとって、学校では恰好のいじめの対象になりえる。男子生徒から「アイツは何も言わないから、何をしても反抗しない。やりやすい相手だ。」と思われた。殴る・蹴るなどの暴行を受けた。女子の一部からも「馬鹿」や「アホ」などの侮蔑な言葉も受けた。何も抵抗できない私にとっては苦痛でしかない。
 また、休憩中にクラスメイトの男子生徒が女子の前で強制的に私のパンツを脱がされ、下半身を露出されかけたことがあった危うく校内の恥さらしに合うところだった。

 女性とのコミュニケーションもうまくいかない。ある日、私が席に座っていると、女子生徒が学校のしおりを持って声をかけてきた。その時、不意にも彼女の顔に軽く平手打ちをしてしまった。その後、彼女から頭をポンと叩かれ、「いー!」と歯を見せ、彼女は怒ってその場から去った。
 当時、自分が何をしたのか理解していない。しかし、振り返ってみると、女性に対してとんでもないことをしたことに気づいた。自分に危害を与えるのではないかと思い込み、「ぼくに話しかけるな!」と威圧的な態度をとっていた。結果として、女子生徒の心を傷つけた。愚かな行動だった。以降、女性との付き合い方に悩むようになる。

 そんな学校生活に、次第に嫌気がさしてきた。


ご助言や文章校正をしていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。