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グラビアアイドルの「真実」


グラビアアイドルとしての原点


< さて、突然ですが、みなさんに質問です。
 今パッと思い浮かぶ「グラビアアイドル」という職業のイメージはどういったものでしょうか? ひょっとすると「可愛くて胸さえ大きければ水着姿を見せるだけでお金を稼げるんだから”楽な職業”だよな」と思っている方もいるかもしれません。
 ですが、現実はめちゃくちゃ厳しいのです!
 芸能界の序列からしても、とりわけ地位が低く見られがちな私たちの仕事で稼げる人は、ほんのひと握りです。
 おそらくほとんどのグラビアアイドルは、月に数回のペースで撮影会という、ファンの方々に有料で撮影して頂くイベントの仕事があるくらいで、どれほど頑張ったとしても給料なんて雀の涙ほど。人によってはバイトをしなければ今日の食事すらままならず、それでもいつか自分が第一線で活躍することを夢見て、今もなお努力を続けています。>

倉持由香『グラビアアイドルの仕事論』p.3~4

 コンビニや書店などの販売店で目にする雑誌の表紙を飾るモデルの女性たち。

 一見華やかな世界に見えます。しかし、冒頭部分の説明があったように、内実は私たちの想像を超えるほどの冷酷なものなのです。

 もちろん男性向けファッション誌『Tarzan』や週刊誌などの一般向けの雑誌でも、ファッションモデルや歌手などを生業とする男性たちが表紙を飾るのも「グラビア」との説明がつくでしょう。
 ですが、私たちが目にするのは、たいてい青年向けのものや性に関連する雑誌の表紙を飾る女性たちです。

 本書は、過酷な状況の中でグラビアアイドルの世界を生き抜いてきた倉持由香さんのビジネス奮闘記です。
 本稿では、倉持さんをはじめとするグラビアアイドルたちのリアル、SNS時代に呼応した戦略的仕事術、そして今後の展望について、私なりの考察から話を展開してみます。

 冷厳な世界において倉持さんは特に悪銭苦闘しながらも、血の滲むような努力をしてきました。一字一句血のしたたる想いで書き綴った本書は、ビジネスにとって大切なこと、そして人生訓を教えてくれます。

 愛おしい表情と強調するしなやかな腰回りで人々の心を鷲掴みにしてきた倉持由香さん。彼女がグラビアアイドルとして生きてゆこうと決意した原点はどこにあったのでしょうか。

 当時、倉持さんはタレントの熊田曜子さん、安田美沙子さんといった「黄金世代」と呼ばれるアイドルたちが大いに活躍する姿を見て、華々しい世界だと感じたそうです。元々女体に興味津々だったことに加え、性愛向けの雑誌を読んだことで性に目覚め、職業アイドルとして芸能界に入りました。

 徐々に芸能活動が軌道に乗り、「グラビア雑誌の表紙を飾る仕事がしたい!」と切望したものの、現実は厳しいものでした。雑誌の仕事はほぼなく、給料は著しく低い。一部の担当編集者からの冷たい言葉も浴びました。このような組織の不条理に苛立ちを隠せなかったはずです。

 一時期はワカメやモヤシをポン酢でかける生活を続いたことがあったそうです。栄養失調を心配する声も多かったと思います。

 それでもめげずに、ブログで撮影会での写真を大量に掲載したり、イベントで「ヤングアニマル」の連載を持てる企画を知って雑誌編集部の方々に仕事の交渉の根回しをしたりするなど、地道な努力を積み重ねてきたのです。
 そして、ある番組に同行していたカメラマンからこんな助言を受けたのです。

<「もっちーは大きなそのお尻を武器にした方がいいよ。出さなかったらただの無駄尻だよ!」>

前掲書 p.28

 こうして「尻職人」が誕生。ツイッターなどで写真をアップしていきました。

 その頃はSNSの普及により情報伝達手段が多種多様になっていきました。ツイッターやインスタグラムなどのSNSを活用して自己をプロデュースするグラビアの「知略家」たちが百花繚乱のごとく現れたのです。その中で、倉持さんは「グラドル自画撮り部」を立ち上げ、部長に就任。自画撮りの先駆者として世に名を馳せました。その経緯についてこう記します。

< 自画撮りを載せることはグラドルにとってフォロワー数を増やすいい手段なのだと、自分の経験から考えるようになりました。そこで、この手法は他のグラドルにも有効なのかを探るために、仲良しの吉田山にもやってもらうことにしました。吉田山に自画撮りのコツを教え、ツイートしてもらい、それを私がリツイートすることで、吉田山のフォロワー数が伸びていくことへの手応えを確かに感じることができました。そんな中で、みんなで自画撮りを一緒に載せられるアプリがあればいいのにと考えていた私は、ふと「グラドルみんなが使える共通のハッシュタグを一個作ればいいんだ」と思いつきました。>

前掲書 p.31

 SNSを活用した手法は芸能界のみならず、一般企業の場合でもハッシュタグを使い、商品情報の写真を載せてアピールする。誰もが共感してもらえるようにするというものでしょう。もちろん悪用される危険性が孕んでいるので注意が必要です。

 (倉持さんの自画撮りの誕生と企図については、ビジネス情報サイト「BUSINESS LIFE」でグラビアアイドル・女優の鈴木ふみ奈さんとの対談記事の「コンプレックス×SNS発信でニッチトップを狙う」の項目に述べられています。)

クソリプおじさんの対策法

 こうして、アイドルたちはファンの獲得数を増やしていきます。その後、倉持さんは集英社の「週刊プレイボーイ」から「100万回いいね!プロジェクト」を課されました。旅人の試練のような状況でした。フォロワーやグラビアアイドルの仲間たちの応援のおかげもあり、元気玉を貰うように「100万いいね!」を獲得した。念願の「週刊プレイボーイ」の表紙を飾るという夢を叶えたのです。
 他にもマーケティング戦略として、おじさん目線の確立やネットニュース化、ストーリー性や知名度のピラミッド理論に基づいたフォロワー数の獲得など、様々なアイデアを駆使して知名度の向上に努めてきたのです。

 しかし、倉持さんはその間、SNSでの問題に困惑したことがあります。例えば、クソリプおじさんとの付き合い方です。お節介を焼くようなつぶやきがきたり、不意な性的要求をされたりしたことで悩んでいました。彼らの波状攻撃を「この状況を自分なりに楽しめるように工夫した方がいい」と考え、クソリプおじさんという名の誇り高き戦士たちの群れを左へ右へ飛び乗って、のらりくらりとかわしてきたのです。勇壮な女性戦士である倉持さんの姿には脱帽でした。

 倉持さんはこれまでの職業アイドルとしての人生に起こった様々な艱難辛苦に直面し、心がくじくことがありました。それでも、彼女の中の闘争心は消えることがありませんでした。「絶対に頂点に立つぞー!」と誓い、灼熱のマグマのごとく煮えたぎる精神で乗り切ったのです。

 そうした苦難を乗り越えて、長年の努力によって収入を上げていき、はれて「タワーマンションに住む」という目標を達成しました。底辺から飛翔し、不死鳥のごとく蘇ったのです。
 まるで「ラーの翼神竜」の最終形態「ゴッド・フェニックス」のような神々しさでした。

 その後、倉持さんはプロゲーマーの男性との婚約を発表。子宝にも恵まれました。

 「我が魂 もっちーの永遠の守護神なり」

 旦那様も宣誓を立て、献身的な愛を注いでおります。ご降誕された子息とともに、幸せな日々を送っています。
 お互いに愛の言葉を交わしつつ…

倉持由香の言葉

 倉持さんが伝えたかった人生訓といえる言葉を紹介しておきましょう。

① くすぶっているのは自分の責任
 これはグラビアアイドルを職業とする女性たちが現実とのギャップに苦しんでいるときに放った言葉です。一見きつめの一言のように思えますが、倉持さんなりの優しさが含み込まれています。
 「撮影会しか仕事がない。」と思考停止せず、「撮影会からどう次に繋げるか」を練らなくてはいけない。実際に、倉持さんは撮影会の休憩時間を自画像の写真を撮り続けること、撮影会で撮ったデータをブログで紹介すること、ポージングや衣装の研究に取り組むことなど行ってきました。
 また、SNSを有効活用して趣味や興味のあることを取り上げることで仕事の依頼が来ることもあるといいます。
 人や環境のせいにしても何も始まらない。自分から探究していく姿勢が重要なのです。

② 熱量がファンの心を動かす
 職業・プライベートを問わず、物事に取り組む時は熱量が大切だと説きます。「熱量を生み出すのは、自分の好きなものに対してどれほど真摯に向き合えるかという情熱です。」という言葉がある通り、物事に対する情熱が人の心を突き動かすのです。
 これも倉持さんが自画撮りを繰り返して地道にフォロワー数を獲得できたという成功例が物語っています。

 ③ 自己投資は惜しまない
 「自分の仕事のためにお金を出すというのは、やる気を示すという意味でも効果があります。自爆営業しろというのではなく、将来的な投資になるということです。」との言葉がある通り、グラビアアイドルにとっての商売道具となるものは身銭を切ることが先決だといいます。
 この言葉はビジネスパーソンに共通するものがあります。実際に金融のプロたちは、株式投資などの資産運用を行うことも必要であるものの、自分にとって将来的に成長できるようなことに投資することは大きなリターンを期待できるのです。
 人々がどんなことに知的関心を持っているかを考え、探究していくことはステータスを蓄える上で大切なことになるでしょう。

朋友の苦悩

 倉持さんと積年の苦楽を共にしてきた朋友のグラビアアイドル・女優の鈴木ふみ奈さん。二人は切磋琢磨して芸能界の荒波を渡ってきました。
 ある時は、アバンチュール(フランス語で「危険な香り」を意味する)を漂わせるほどの艶めかしい表情と西洋美術に匹敵する健全な肉体美でアイドルファンを魅惑なエロスの世界へいざないます。
 またある時は、俳優として映画やドラマに出演し、活躍の幅を広げつつあります。並外れた身体能力の高さは目を見張るものがあります。モハメド・アリのように「蝶のように舞い、蜂のように刺す」程の強さを持ち合わせています。

 鈴木さんの写真には、常に明るく元気溌剌とした表情が写真集や雑誌の巻頭グラビアなどの媒体で描写されています。
 しかし、私はその中で気がかりな一枚の写真があります。



 集英社が刊行する「週刊プレイボーイ」の「週刊プレイボーイ28号」(2021年6月28日)に掲載された2ページ分の写真があります。
 アイドルファンをはじめとする多数の人々は彼女の美しい尻に着目するでしょう。観る者を圧倒するほどの魅力的な肉感に惚れ惚れしてしまうと思われます。しかし、私は彼女の表情に気になるところがあります。どこか悲しげな顔を浮かべているように見えるのです。これは一体何を意味するのでしょうか。
 写真から察するに、このような問いかけをしているように思います。

「あなたはどうして一人の女性として見てくれないの?」

 グラビアアイドルとして疾風怒濤の時代を生きてきた中で多くの人々から性的な目線に晒されている鈴木さんは、「性的な魅力がある女性」というイメージがつきまとってしまいます。SNSやテレビなどのメディアで見る限り、明るく前向きに活躍する彼女の姿は人々に勇気と希望を与える存在ですが、その裏では「性的な魅力のある女性」という画一的な見方に疑問を抱いているのではないでしょうか。
 もし男性が「性欲を満たすだけの存在」として鈴木さんを見ているとしたら、どう思うでしょうか。だとすれば、彼女にとって不快な思いをすることに気づかないのはおかしいと言わざるを得ません。「あなたはどうして一人の女性として見てくれないの?」という問いかけは、彼女が抱える悩みや心の中のわだかまりを聞いて、真摯に受け止める必要があることを意味するのではないでしょうか。
 実際に、鈴木さんは近年に公開した動画配信のコンテンツ制作企画の中で、人から「エロくて軽い女」として見られていることに困惑するシーンが幾度となくありました。番組での演出とはいえ、それぞれの映像のシーンには彼女の心の内に潜む苦悩が表れているような気がします。


 確かに私も含めた男性陣はつくづく馬鹿な生き物です。しかし、鈴木さんが抱える「性的な魅力のある女性」という色眼鏡で見てはいけないと思います。グラビアアイドルとしての顔が主となる中で、他に個性・趣向・行動に目を向けてみれば、比類ない才能を発揮していることに気づく人々が大勢いることでしょう。

越境する力

 俳優業・サックスの演奏・麻雀・ポーカー・イラスト描写など興味関心の幅が広く、未開拓の分野に挑戦し次々と才能を開花している鈴木さんの姿は驚嘆に値するでしょう。現代で言えば、歌手・シンガーソングライターで作詞も手掛ける森高千里さんのような豊かな感性と好奇心の持ち主であると思われます。

 知らず知らずのうちに鈴木さんは芸能活動の中で「越境する力」を養われたのかもしれません。私たちも「個の力」が問われる時代において、鈴木さんや森高さんのように一つの分野に固執するのではなく、興味のある分野を複数分持ち、挑戦して開拓する「越境する力」が必要ではないでしょうか。(越境する方法について考えてみたい方は池上彰著『知の越境法「質問力」を磨く』(光文社新書)をご参照ください。)


老いなき世界へ

 最後に有益な例をご紹介しましょう。
 倉持さんの著書の中で、職業としてのグラビアアイドル(ないし芸能界での職業)に定年制がないとはいえ、30代に突入してから体力面の限界のことも考えて引退を決断する方々が多くいます。近年では40代以降でも体のメンテナンスを怠らずに第一線を走り続ける方もいますが、大抵は別の道へ歩む方が多いそうです。
 しかし、定説の前提が覆る研究結果が医学界から発表されました。長寿遺伝学を専門とするデイビッド・A・シンクレア氏は長年の研究成果に基づいた結論が「老いること」なく120歳まで生き延びることが可能になったそうです。研究結果を『老いなき世界』という研究書として出版され、全米で話題となりました。

 ここでは第4章の「あなたの長寿遺伝子を今すぐ働かせる方法」で紹介されている例が実践できるものになっています。

 ① 食べる量を減らす(「意図的な禁欲」によって量を抑える)
 ② 間欠的断食
 ③ アミノ酸を制限するーなぜ肉は危険なのか
 ④ 運動をするほどテロメアが長い
 ⑤ 寒さを身にさらして長寿遺伝子を働かせる
 ⑥ サウナの効果
 ⑦ タバコや有害な化学物質、放射能は老化を早める

 本書ではいくつかの例が紹介されていますが、あくまでも欧米の研究成果であるため、日本人が簡単に実践できる健康法であるかどうかは疑問です。なぜなら過度に進めるとかえって健康リスクに影響を与えかねないからです。とはいえ、「老化は病気」という観点から行動できる習慣もあります。④、⑥、⑦は理にかなっていることでしょう。(④の運動の効用についてはアンデシュ・ハンセン『運動脳』も参考になります。)

 

腸が健康になれば人生が変わる

 また、近年では「腸内フローラ」の研究が盛んに行われています。一例として「プラネタリーヘルス」というライフスタイルがあります。桐村里紗氏の『腸と森の「土」を育てる』

 私たちは常に豊かな自然環境に囲まれながら暮らしています。森や山、川、湖などの環境に恵まれているからこそ、健やかな日常を過ごすことができます。豊かな森をつくるためには「生きた土」を作る必要があります。
 土の状態がフカフカしていれば、保水性と水はけ、通気性が良くなる。雨が降っても、土の奥深くまで水が浸透するのでぬかるみがない。その場所で育つ植物は柔らかい土に奥深く根を伸ばすことができる。結果、健全な山の保水力につながり、人が暮らす里を水害から守ることができるという好循環が生まれます。
 この話は健康な人の便と同じことです。腸内環境が良い状態で作られる健康な便は適度な水分と適度な空気を含み、適度な形を保ち、プカプカと水に浮きます。毎日を健康に過ごすには、腸内の土壌を腐敗しないようにすることが大切なのです。

 本書では、プラネタリーヘルスケアにまつわる食の選択やライフスタイル、腸内フローラ検査といった具体的な方法が盛り込まれています。実践してみると良いでしょう。

 グラビアアイドル界で若い芽吹きが咲き始めるような若手女性たちが次々と台頭する中で、現役で最前線を走るベテランの女性たちも若草のように初々しく活躍できる日が近いかもしれません。
 昔からのアイドルファンの人たちも目を輝かせることになるのではないでしょうか。
 いずれにせよ、グラビアアイドルを生業とする女性たちはこれからエンタメの世界でどのように盛り上げていくのかが気になるところです。

<参考文献>
 倉持由香『グラビアアイドルの仕事論』星海社新書
 デイビッド・A・シンクレア『LIFE SPAN 老いなき世界』東洋経済新報社
    桐村里紗『腸と森の「土」を育てる』光文社新書
 


 


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