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歓喜よりも安堵感なのよ(vs京都サンガ)

 豊川選手のつまさきにはじかれたボールが、ふんわりと左肩のすこし上あたりをこえていく。サァっと血の気がひくのがわかった。あわててターン。やばい。先いかれてる。からだもぶつけられない……。荒木さんもかわしてゴールする豊川選手の背中を、見おくることしかできなかった。

 痛恨だった。住吉さんに空中戦をまかせてたテマエ、ぜったいにとめなきゃダメなシーンだった。

 京都サンガ戦、茶島さんはこのゲームのポイントが、自分のところの守備だってことをわかっていた。ぼくは自分のことを茶島雄介だとおもって観てるから、なんとなくわかる。

 相手チームの監督はチョウさん。湘南ベルマーレ時代、小柄な選手をたくさん起用していた監督で、サイズの差がゲームにどう作用するかをよく知っている。だからこそ確信があった。「まちがいなく自分のところをねらってくるな」と。

 サイズ差をねらわれるのは、小兵プレイヤーの宿命で、シリアスな状況だ。なにせねらわれた時点で”地上戦の守備はすべてとめる”ことと"マイボールにあったら特別なプレーをする"ことを強制的に約束させられるからだ。それくらいやらないと”採算があわない”。弱点あつかいされるってそういうこと。

 だから前半16分、京都サンガのカウンター、キープする一美選手の前に腰をねじこんでボールを横取りしたシーン、あれがファウルになったのにはキレた。当然だ。会心のボール奪取だったし、相手のカウンターにカウンターをかぶせるチャンスでもあった。まさにねらっていたプレー。それをファウルにされちゃかなわねえよということだった。

 ただまあキレはしたけれど、全体的に集中してやれていたとおもう。京都サンガペースではあったけれどパスカットもしていたし、コースにカットしてワンタッチパスを前線につける、おしゃれなこともした。手ごたえはあった。

 ハーフタイムに入ると、空中戦を住吉さんにまかせてカバーポジションをとることを徹底、役割をよりはっきりさせた。よし、やったるぞ。そうおもった矢先、ゴールきめたゆるみか、豊川選手にぶっちぎられてゴールをきめられてしまう。まさに痛恨。この日つみあげてきたものがまるっと台なしになった。

 あの瞬間、ぼくはショックで脳が一時停止してた。茶島さんも似たようなものだったとおもう。決定力どうこういわれてるなかでの失点だし、そもそもきりかえの上手な選手でもない。アタマのなかまっしろけだったんじゃなかろうか。

 でもじつは、まっしろけになってたおかげで2点目を決められたんじゃないか、ともおもってたりする。チームがかなり前がかりになってるあの状況でクロスにとびこむのは、正常な判断じゃあない。正気だったらペナのなかまでは入らない。あれはアタマじゃなくてからだのほうが勝手に反応して決められたゴールだ。トレーニング内容が習慣づいてる証拠。ぼくはそうおもう。

 あのゴールがみとめられた瞬間、ぼくは息をするのをわすれてためこんでた酸素を、おもいっきりはきだして椅子からくずれおちた。おもわず「たすかった~」「命拾いした」とぼやく。2ゴールをきめたというよろこびよりも、あの"自責点"をチャラにできたっていう安堵のほうが、ぼくのなかで上まわっていた。いまでも、安堵感>2ゴールの歓喜、なのはかわらない。首脳陣に、やっぱりサイズないとな、と一瞬でもおもわれたらおしまいのこの状況。なんともいいがたいものがあふ。

 かなしいかな、今後も相手チームがこちらのゾーンをねらってくるのはほぼ確定。今後は豊川選手のゴールみたいなプレーは、かならずはばまないといけない。「うかれずに気をひきしめたいっすね……」そうヒーローインタビューにこたえる茶島さんに、おもわず声をかけてしまうぼくだった。


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