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ねこがきた ⑥鳴かない猫

10月末に「ビビ(vivi)」と名付けた庭にくる猫。
不思議なもので、名前をつけると得体の知れない怖さや不安は薄らぎました。

猫は相変わらずなかなか姿を見せず、チラリと見えても、人が近寄れば、影も形も気配も残さずに消えたように隠れてしまい、探してみたところで見つけることはほぼ不可能ということがわかりました。

それでも、猫がいそうな感じがしたら、窓を開けたり、庭に出たりして、「ビビ」と呼びかけるのが、なんとなく楽しみになっていました。
もちろん反応はありませんでしたけれど。

この猫「ビビ」の特徴は、
ビビり、という表現がぴったりの臆病さと慎重さ。
人の気配を感じて隠れる時の動きの速さなど、猫というより野生動物のそれでした。

そして、もうひとつ気になることがありました。
それは、全くひと声も声を出さないということです。

尋常でない臆病さ、呼びかけても反応がない事と相まって、もしかしたらこの猫は耳が不自由なのでは?と疑い始めていました。
人を怖がるのに、うちでいちばん物音も人声もする、音楽のレッスンをしている部屋の窓の下に隠れていることが多いのも、それを裏付けているような気がしました。

もしそうであれば、この猫が外で暮らしていくのは健康な猫よりもたいへんなことでしょうから、助けてあげることができないものか?というような気持ちにもなりました。

しかし、そこまで考えても、その時の私には、具体的に何ができるのかも、どうしたら良いのかもわかりませんでした。これは今となってみれば大いに反省すべきことなのですが、同じような猫との出会いをする方のご参考のためにも、そのまま記録します。

この猫には他にも不思議なことがありました。今まで庭に現れた野良猫のように、汚れていたり、お腹を減らしているようでもなく、痩せてもいません。
しかし、全く人慣れしていない様子を見れば飼い猫とも思えず、いったいどこからうちの庭に来ているのか、謎は深まるばかりでした。

私は、猫の様子をもう少し詳しく知りたくなりました。
どのくらい来ているのか、いついるのか、とりあえず、それを探れば何かわかるかもしれない、と思いました。
しかし、猫が来ていることが鳴き声でわかる、ということがないので、猫が来るタイミングを探る方法を考えて、小さな入れ物に猫用のカリカリのおやつを少しだけ置いてみることにしました。
この作戦は成功で、姿が見えなくても、そのカリカリの状態で、猫が日に1、2度くらいは庭に来ているということがわかるようになりました。
カリカリはほんの少しだけ食べられていることが多く、飢えてはいない感じがすることは安心材料でした。

姿は見えないけれど名前を呼んで、目印のカリカリを置き家の中に戻る、ということを1週間ほど続けているうちに、私が庭にいるときに、猫がはじめて姿を見せました。
その時の動画が残っていました。

なんと、呼びかけに答えようとしているように見えます。
しかし、声は出ません。

この日は、これ以上接近することはできず、猫はこの後姿を消してしまいましたが、スマホを出して撮影することができるくらいには、しばらくこの距離で対峙していたのだと思います。

「声は出ないけれど、耳は聞こえていると思う。」
という報告と一緒に、夫に送ったこの動画が夫のスマホにも残っていました。

🐈‍⬛つづく

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