【患者さまの声】PTSDをきっかけに双極性障害を発症。誰にも言えずに疾患と向き合う日々
今回お話しいただくのは、田中 愛さん(仮)35歳。
PTSDをきっかけに10年ほど前から双極性障害を発症されました。一概に精神疾患と言っても人によって発症する症状はそれぞれです。インタビュー中は終始笑顔でお答えいただきましたが、田中さんの笑顔の裏側には「誰にも心配をかけたくない」という想いが強くあるそう。ぜひ、最後までご覧ください。
―――疾患のきっかけや経緯についてお話できる範囲で教えていただけますか?
私の症状は精神疾患の中でも、PTSD、パニック障がい、双極性障害の3つに該当します。
10代のころに起きたトラウマの体験からPTSD(トラウマになる圧倒的な出来事(外傷的出来事)を経験した後に始まる、日常生活に支障をきたす強く不快な反応)を発症しました。パニックの症状が出たのは、高校を卒業したときが始まりだったと思います。PTSDの引き金になった出来事からはだいぶ時間が経っていますが、今でも何かのきっかけでフラッシュバックすることがあったり、思い出してしまったりします。
PTSDをきっかけに双極性障害(気分が高まったり落ち込んだり、躁状態とうつ状態を繰り返す脳の病気)となってから、うつ状態の時には起き上がるのも困難で出勤することすら大変な日もあります。ただ、勤務先に疾患のことを話していないので相談できず、むしろ「バレないように」という思いの方が大きくて、なんとか出勤するというのが現状ですね。
母も姉もいますが、家族には心配かけたくないという思いもあり、相談したことは一度もありません。
もちろん、友達にも疾患のことは話していません。周囲の人に迷惑をかけたくないし、知られたくないという想いがあります。
―――現在の症状や受診について教えてください
現在の病院に通いはじめて13年位経ちます。毎週の受診とカウンセリング、毎日就寝前にラミクタール(※)を1錠飲んでいます。
実は、カウンセラーに相談できるようになるまでに結構時間がかかりました。今でも家族には相談できていないので、カウンセラーさんだけが唯一話し合える相手です。カウンセラーさんとは波長が合っていろんなことを話せます。他愛もない日常のことを気負うこと無く話せる貴重な時間ですね。
躁状態のときは趣味のハンドメイドに没頭して寝ずに作成することもあります。ジムに行ったり好きなドライブを楽しんだり、とにかくいろいろと行動するんです。
ただ、実際はうつ状態のほうが長く、2−3ヶ月続くことも多いですね。
うつの期間は本当に起き上がるのも大変で、起きれない自分に自己嫌悪になったり、起きれなくて出勤できなかったらどうしよう、とか、職場に知られたらクビになるんじゃないか、とか、ぐるぐると考えてしまって負のループに入ってしまう。
物理的な困難と気持ちの落ち込みが激しく、生きることに対しても意欲が湧かなくなりますね。躁状態とうつ状態を繰り返していますが、切り替わるきっかけははっきりとしていません。
双極性障害という疾患と向き合うには症状の波が小さくなれば良いのだろうけど、10年経っても一向に起伏が激しいので、治すことは難しいかも知れない、と思っています。
周囲に迷惑をかけたくない。独りで疾患に向き合う毎日
―――うつのときに「まわりに迷惑をかけるのでは?」という不安もありますか?
そうですね。そもそも私の場合は周囲に疾患のことを話していないので、症状を表出するのは独りでいる時間と受診のときだけです。なので、症状が酷いときには「周りに知られたらどうしよう」という不安を抱えながら人と接しています。
今思えば、学生時代から周りに気を使うようになっていたように思います。
小学生の頃は、今と違ってもっと積極的なタイプで人前にもどんどん出ていくような子だったのに、トラウマの体験をきっかけに人生が変わってしまったのかも知れません。
自分の中の積極的な部分を失くしてしまい「誰かに迷惑をかけないように」という感情のほうが大きくなりました。疾患のこともトラウマのことも、家族に話せば心配性の母の負担になりますし、干渉されるのも嫌なので、今後も話すことは無いと思います。
薬と向き合う意味を感じられない。生きる意欲がなくなる日も
―――薬と共に生きることについてどう考えますか?
躁状態とうつ状態で、生きることや薬に対しての捉え方が180度変わります。
躁状態のときには、前向きに生きていけるような気がします。薬を飲めば症状がコントロールできるし自分にとっても楽になる、という感情を行動につなげることができるんです。だから内服も続けられる。
反対に、うつ状態のときは「“前向きに生きる”って何だよ!」と思うこともあるほどなので、薬を飲むことにすら意味を感じられません。
頭のどこかでは薬を飲まなければ調子が悪くなることはわかっているのに、そもそも「症状を良くしたい」と思うことができなくて…。「薬を飲む」という行為は、疾患と向き合いながら前向きに生きるために、飲むものだと思うんです。私は疾患を良くしたいと思っていないのに、なぜ薬を飲まなきゃいけないんだろうという思考になってしまう。そうなると、「内服する」という簡単な行動1つですら取ることができず、薬と向き合えない時期が続くときもあります。
普段通っている薬局では電子お薬手帳を使っていますが、うつ状態のときには「内服」そのものが負担になってしまっているので、管理がきちんとできていません。
―――お薬手帳にどんな機能があれば便利だと思いますか?
私の場合は、服用を支援するものよりは「薬の情報を知れる機能」があったらいいな、と思います。薬剤名をクリックしたらわかりやすい薬の情報が見られるとか。
現在でも薬情報に関するアプリはありますが、多くは医療従事者のためのもののような気がします。すごく詳しく薬剤情報が書いてありますが、一般人にはかえって理解しづらいですよね。
自分が飲んでいる薬について、もっと気軽にアクセスできたらいいのに、と思うことが多いです。
さいごに
田中さんお話しいただきありがとうございました。辛い過去や疾患のお話しをしているときも、絶えず笑顔で振るまっていただきました。しかし、笑顔の裏側には、生きる希望を持てない日々があったり、トラウマの体験も家族にすら話せなかったり、おひとりで悩まれて苦しむ日々があったこともお察しします。薬を飲むことを前向きに捉えられない日もあるかと思いますが、harmoの存在が少しでも服薬のサポートになれれば幸いです。