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たかが一週間 ②雨上がりの火曜日

アラームを止めて周りが静かになっていることに気づく。昨日から降り続いていた雨は明け方まで眠りを妨げ、眠りに落ちている間に止んだらしい。
カーテンを開けて確認すると晴れてはいなかったが、分厚い雲が風に乗ってどこかへ消えて行こうとしていた。天気予報によると天気は回復に向かっているそうなので今朝も、自転車に乗って会社へと向かうことにする。
自転車通勤を選んだ時点で鞄と服装もある程度固定になって、シャツとジーンズにウインドブレーカーを引っ掛けリュックを背負う。リュックには昨日買った本を二冊、読み始めたものと一番時間のかかりそうなビジネス書と。セールでケース買いしたペットボトル飲料を突っ込んだ。

自転車に乗って走り出してもパッとしない天気は変わらないままで、時々最後の名残とばかりに雨滴が落ちてくることもある。仕方なく信号を待っている間にウインドブレーカーのフードをかぶる。腕時計で現在時刻と走りだいてからの時間を確認する。信号が青に変わると同時に走り出す。
春先のこの季節、まだ朝の空気が冷たくて走りやすい。大きく息を吸ってペダルをこぎ、幾分余力を残して進んでいく。
乗っているのはこの街に引っ越してきてすぐに買ったちょっと良いクロスバイクで、少ない推進力でスピードを維持したまま進んでいくこの乗り心地をとても気に入っている。長時間の移動でも疲れない。
毎朝三十分かけて会社近くの駐輪場へ走って行き、その間に夜間に再起動した頭の、自動で起動しない仕事で使う部分をどうにか使い物になる程度まで立ち上げていく。

車道を走っていても速度の合わない自転車や歩行者、狭い道での対向車など様々なものを避けながら進んでいくしかない。
実は一日の中で一番集中力を発揮しているのではないかと思う。大袈裟かもしれないが、命がかかっているのだから仕方がない。バスの横を抜ける瞬間を思えば大抵のことは怖くない。
それでも多少余裕のあるところでは、周りの景色を見ることも忘れない。今日は雲が多いからどんよりとしているけれど、大きな河岸や、神社仏閣が通勤路には並んでいる。

一ヶ所、気を抜いていて水溜りの上を通ってしまった。後ろからくる車に抜かれるのを待って車道に少し出て避けるべきだった。
自転車に泥除けがついていないせいで濡れた路面を走ると水が跳ねて全てジーンズにかかってしまう。冷たい。こんなことに気を取られてしまうのも嫌だし、何より今日一日、汚れた服で社内を歩きたくない。失敗だった。

三十分かけて街を純断していくと数キロしか離れていないにも関わらず天気がガラッと変わることがよくある。今朝も家の周りは雨上がりと言いながら小雨が降っていたにも関わらず、ゴールの駐輪場が見えてきた時にはすっかり晴れていた。
雲は切れて灰色から白に変わり、間に青空がのぞいていた。雨の雫が街路樹の新芽について光っていた。もう薄暗い雨上がりではない。
駐輪場についてスタンドに自転車を立ててロックをかける。ウインドブレーカーを脱いで会社まで最後の数百メートルを歩き出す。

会社に入る前にスマホをチェックすると、昨日の友達から連絡が来ていて、来週集まるメンツが決まったという。「今回も全員集合だよ」と書いてある。いつものメンバー。おいおいおい、毎度ハードじゃないか。
(続く)

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