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パーダーボルン 三羽のうさぎが見守る街(一部追記あり)
Paderborn パーダーボルン
パーダーボルンに住むパートナーの幼馴染から、遊びにおいでとお誘いを頂いた日のこと。
私がその街を初めて訪れると知り、街案内をしようと提案してくれた。
パートナーは、幼馴染の結婚の証人でもある。
とても大切な友達だ。
初めて顔を合わせた時、当時10歳の息子さんは恥ずかしそうにしていた。
最初に案内してもらった場所は、川。
Pader:パーダー川
Born:泉(Born:ラテン語/独語:Quelle)
これが、街の名前の由来となっている。
パーダー川の泉と名付けられた通り、街の中には200もの泉があるそうだ。
川の全長は4kmで、ドイツ最短の川だという。
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この街は、カール大帝が滞在した頃から周囲の街を統括する位置にあり、その後カトリックのパートナー司教区が作られ、今も残る大聖堂の建設が始まった。
799年の事だそうだ。
街を守る城壁や塔、そして大聖堂。
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この大聖堂では、二種類の動物を見つけることができる。
孔雀と兎だ。
かつて、フランスからこの大聖堂まで、聖物を運ぶという重要な任務を背負ったリボリウス司教。
彼の旅は一か月にも及んだが、孔雀によって街まで導かれたという。
この街でも移動遊園地のようなお祭りが開催されるが、KirmesキルメスではなくLiboriリボリと呼ばれる。
これは司教リボリウスから取った名前で、彼を祀る行事が市民祭に変化したのだそうだ。
こちらがリボリの様子。
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デュッセルドルフのキルメス
移動遊園地と同じように見えるが、リボリウス司教を祀る行事がメインである。
下の写真の黄金の箱が聖遺物。
大聖堂でミサが行われた後、数百人規模で数時間をかけ、この宝物が大切に掲げられ市内を巡回する。
写真右側、孔雀の羽で作られた大きな扇。
伝承通りに、孔雀がリボリウス司教を導く。
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教会は今、少しずつ修復されており、聖遺物は、地下部分のクリプトから薔薇窓の下に安置されるようになった。
この位置が、かつて安置されていた場所だったそうだ。
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大聖堂中庭には孔雀の銅像があり、その後ろにDrei Hasen Fenster 三羽の兎の窓 と呼ばれる物がある。
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すると突然、幼馴染は、呪文のようにリズミカルに、ある文章を話し始めた。
Der Hasen und der Löffel drei, und doch hat jeder Hase zwei.
兎とスプーンが3つ、どの兎も2つ持っている
私は意味が分からず、みんなの顔を交互に見ながら、きょとんとしてしまった。
みんなは意味を知っているので、クスクスと笑っている。
『ねぇパパ、僕が説明したい!』と、息子さんが申し出てくれる。
ありがたい助け船だ!
『スプーンはね、兎の耳の事だよ』
しかし、まだ分からない。
『Dito、兎は何羽いる?』-『3羽だね』
『スプーンは何個?』 - 『3個だね』
『でも、兎は2つずつ耳を持っているよ』
もう一度頭の中で、呪文を唱える。
なるほど、そういう意味だったのか!
拡大写真はこちら。
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3羽の兎
スプーン(耳)は3つ
しかし、兎はみな2つずつ耳がある
この呪文のような文章は、まるで謎解きの言葉だったのだ。
続いて、幼馴染が解説してくれる。
兎はイースターのシンボルでもあるが、キリストの復活や、子孫繁栄を表す。
そして三羽が、神の三位一体を表すようだ。
このお話を教えてもらってから街を歩くと、至る所にこのシンボルがある事に気付く。
**以下追記 **
コメントにて、弟切千隼さんから、このシンボルが中国起源だと教えて頂きました。
三兎共耳と呼ばれているそうです。
調べたところ、このシンボルの最古の物は、中国で見つかった6〜7世紀頃の物のようで、シルクロードを通りヨーロッパへ伝えられ、キリストの三位一体の教えとして、新たな意味を与えられたようです。
このシンボルは、パーダーボルンだけでなく、NRWの街Kirchhundemでも残っています。
また、北ドイツBraunschweig出身のSchrader氏が、Mischelstadtというドイツ中部の街で、ホテル・レストランを1685年頃に開業しており、このお店のシンボルマークは、まさにこの三羽の兎です。
彼はこのパーダーボルンの兎を知っていたようです。
中国からドイツへ。
まさにシルクロードが運んだこのシンボルマーク。
世界が一気に広がり、胸が熱くなりました。
弟切千隼さん、三兎共耳の事を教えて下さってありがとうございました!
**追記終わり**
クリスマス時期の市庁舎前広場。
正面の窓には数字が貼られ、市庁舎全体がアドベントカレンダーだ。
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息子さんが、引き続き街の案内をしてくれる。
『ここは、アダムとイブの家だよ』
幼馴染の説明によると、ここは現存する市内最古の建物で、数年前までは歴史博物館として使用されていたそうだ。
上部から順番に、アダムとイブのお話が楽園追放まで描かれていることから、この名前が付けられている。
今は建物内部は空で、市所有の記念物として保管されているという。
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サッカーのホームスタジアム、ベントレーアレーナ。
2部リーグ昇格が決まったゲームを、たまたま見に行っていたが、まるでお祭り騒ぎだった。
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また、この街にはシーメンスSiemensの地域統括基地があり、コンピュータ関連分野も有名だ。
ドイツ政府がその研究費を担うFraunhofer Instituteの一部も、この街に拠点がある。
この組織は、欧州最大規模の応用研究機構だ。
この組織と電通国際情報サービスは、2018年に合弁会社を立ち上げ、この街に拠点を構えた。
Schloß Neuhaus ノイハウス城
1257年頃から、司教の住居がノイハウス地域に建てられた事が始まりだそうだ。
この城の中には、Standesamtという婚姻登録のための役所があり、頻繁に結婚式や写真撮影を見かける。
花が咲き乱れる庭で、大切な写真を残す新郎新婦。
お二人の末永い幸せを祈り、その写真撮影を遠くから見守る。
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カトリック色の濃い、しっとりと落ち着いた街パーダーボルン。
街は、こんこんと湧き出でる泉そのもののように、どこを切り取っても清らかで美しかった。
街案内が終わると、息子さんから、目を閉じて手を出してみてとお願いされた。
目を開け、そっと手のひらを見ると、そこにはキーホルダーが2つ乗せてあった。
三羽の兎がモチーフになっている。
息子さんは、私に向かってこう言う。
『Ditoが買い物に行く時には、必ず持って行ってね』
パートナーが『Ditoだけ?』と食いつく。
息子さんは笑って、パートナーから逃げる。
パートナーは悔しそうなフリをして、更に畳み掛ける。
『君が赤ちゃんの時に寝ていたベッドは、誰が組み立てたのかな?
僕が家まで運び、君のパパとママがいない間に組み立てたんだぞ。
そんな僕がオマケだなんて、悲しいなあ』
息子さんは『もう何度もその話を聞いたよ!』と笑いながら、パートナーとじゃれ合う。
幼馴染の奥様が説明してくれる。
このキーホルダーは、息子さんが見つけたのだそうだ。
大聖堂でこのシンボルを説明したかったのは、こんな理由があったのだ。
買い物カートを使う時には、小銭やチップを入れてチェーンを外す。
キーホルダーのコイン部分は、取り外してチップの代わりになるのだ。
息子さんは、出会った時に恥ずかしそうにしていたのが嘘のように、私に向かってこう言った。
『Ditoは、僕の初めての日本人の友達だよ』
私にはこうして、小さなお友達ができた。
私の小さなお友達は、次は僕の部屋を案内すると言い、私の手を引いて駆け出した。
パートナーは『僕を置いていくの?』と言い、追いかけてくる。
それを見ると、息子さんは私の手を放し、はしゃぎながら逃げて行く。
パートナーは、息子さんの事が大好きなのだ。
幼馴染の夫婦と共に、二人の様子を目で追っていると、幼馴染の奥さんがこう言った。
あの子はね、昨日の夜、なかなか眠りにつけなかったのよ。
会えるのが、よっぽど嬉しかったのね。
パートナーと幼馴染家族の関係が、この一言だけでよく分かった。
キーホルダーにたくさん傷がついているのは、息子さんに言われた通り、買い物には必ず持参するからだ。
そして、これを使う度に息子さんの満面の笑みを思い出す。
今年は卯年なので、この街の事を思い出した。
そして、みんなの笑顔を見たくなった。
今度はいつ、みんなに会えるだろうか。
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