呑んだ夜には
おいでませ。玻璃です。
ばあちゃんの家が私の家になったこの頃、父は転職をした。
家から歩いて5分とかからない所に洋平の実の兄、清が結婚をして住んでいた。清おじさんは板金業をやっていて、父はそこで働くことになった。
清おじさんは奥さんと白いプードル2匹と暮らしている。
幼い頃にバラバラに育った兄弟が大人になって一緒に仕事をするようになった。普段は仲良くしていたが、お酒やギャンブルが大好きな父と真面目な清おじちゃんは時々喧嘩もしていた。
父は飲み友達と繰り出すことが多かった。必ずいくのは『八作寿司』というお寿司屋さん。
八作さんの寿司は新鮮なネタが大きく、どっぷりとシャリに乗っかっていて、シャリからはみ出た両端は寿司下駄にプリプリダラリと腰を下ろす程だ。
この店の寿司ネタといえば、私のナンバーワンはウニの軍艦巻き。
引き締まった小さめの身でほんのり甘みのあるウニが「おしくらまんじゅう」する程海苔の内側でひしめき合っている。
萩近海で採れたウニでばあちゃんのウニと同じ味の最高な軍艦巻きだった。
私が大好きなので、父はお土産にウニの軍艦巻き入りのセットを買ってきては
「玻璃〜、起きろ〜!八作買ってきたぞ〜。」
と、起こされた。
「八作!?」
と夜中でも飛び起きてモリモリ食べる私。母も呆れ顔だ。
お土産を買ってきてくれる時はいいが、飲んで帰ってくると何度も同じ話をして、ただの面倒くさい親父だったので、私も母も相手をしなくなる。
そんな時に駆り出されるのが愛犬トミーだ。
夜中に叩き起こされて、港に連れ出される。望んでもいない夜の散歩だ。
日中は鎖を外すと元気に走り回るトミーだが、父からアルコールの匂いがするといくら鎖を外しても父の側から離れない。
足元にピタッとくっついてどんなにボールを投げても走らないそうだ。
足元のふらつく父が心配なのだろう。
心配そうに見つめるトミーに散々愚痴を聞いてもらい、満足した父はトミーと共に帰り大いびきで寝ていた。
昨年の記事「父の灯すあかり」の中に出てきた漁港はここの港のこと。
カッとなりやすい父に怒られても負けじと歯向かう私は、この港から落とされそうになった事も何度かあった。もちろん手加減アリだが。母が走ってきては仲裁してくれていた。
そんな私の父は、今ではお酒を飲む事も寿司を食べる事もない。
お饅頭などの甘いものに目がなく、私の介護のもと穏やかに暮らしている。
だが、年に一度くらいままならない身体のストレスでブチギレて私と大げんかになる。
そんな時は拳を振り上げ、怒鳴りながら麻痺していない左足で蹴りを入れてくる。(車椅子からなので私には届かない)
私も負けずに歯向かう。
あの時の港のように。
だがあの頃と違い、お互いに歳をとった今は、喧嘩の後に握手をして「ごめんね」と言い合える。
天国のお母さん、私とお父さんは相変わらずです。でもお母さんが仲裁しなくても仲直りの方法を覚えたよ。
では、またお会いしましょう。
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