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屋根の上

おいでませ。玻璃です。

私立の高校に入学が決まっていた私は、公立組の生徒たちよりも早く、卒業を待つばかりの気楽な毎日になった。

父は工務店の仕事は行ったり行かなかったり、焼き肉屋をやったりやらなかったり。なんだかやさぐれた様子で自室にこもり、暗い部屋でお得意の爪の甘皮を剥いでいた。

この頃、焼き肉屋の営業は最初ほどの繁盛はないもののなんとか営業できていたと思うが、なぜかこの頃の記憶があまりなく、長い期間営業していた記憶がない。

休日の昼間、母は度々出かけいた。

「どこいくん?」
「お母さんはタノモシに行ってくるから。」
「タノモシ?」

その頃よくわからなかったが『頼母子講』のことだ。


この頼母子メンバーも怪しい仲間だった。
金持ちの医者の奥さんやいつもお金に困っている母の友達。

父はこの母の付き合いが嫌いだったが、どうやらこのメンバーに借金もあり、金策に動いている母には文句が言えなかったようだ。

そのうち、資金繰りが上手くいかなくなって、焼き肉屋はたたむこととなった。おそらく仕入れがうまく行かなくなったのだろう。
なぜ、仕入れに困ったのか。

両親は多額の借金を抱えていた。

最初は名の知れた消費者金融からの返済を迫る電話ばかりだったが、そのうち名前もろくに名乗らないチンピラのような男からの電話が増えた。
そしてその電話に出て居留守を使うのは私だ。

ある日、電話は何度も鳴るし、とうとう怪しげな男が家にまで訪ねてきた。
その時両親が出かけていたので、私が対応したが

「本当に父ちゃんと母ちゃんはおらんのか?」

と家に上がり込みそうな勢いで恐怖で身体が震えた。
なんとか帰ってもらったが、その後も怖さとこの先の未来が全部真っ暗になったような気がして、私は2階へ駆け上がった。

何度も鳴る2階の親子電話を毛布でぐるぐる巻きにして、私はベランダから外へ出る。電話のコードを抜けばいいだけだが、それは浮かばなかった。

もともと平屋だった家の後ろに建て増された二階には一階の屋根にくっつくようにベランダが設置されていた。

ベランダをまたいで一階の屋根に降り立つ。
そこに体育座りをして、空を眺める。

なぜこんなことになっているのか?
私は高校に行けるのか?
いつまでこれが続くのか?

何度も鳴り響く電話の音。
不安と寒さで身体が震える。
空を見上げる冷たくなった私の頬に、温かい涙が流れていることも気づかないくらい動転していた。

両親が帰ってきて、事情を尋ねるとやはりあの怪しいおじさんが絡んでいた。

あのおじさんに言いくるめられて、借金の保証人になったそうだ。
そしてお決まりの夜逃げをされたのだ。
探し回っても見つからないし、返済はもちろんうちの両親に迫られる。

終わった…。
高校には行けないなぁ。

そう思っていたが、なんとか成人している姉たちに助けられて私は高校に行くことができそうだ。

さぁ、これからどうする?

真っ暗な家族の雰囲気になりそうだが、こんな時でもご飯を食べ、食後には「ザ・ベストテン」を家族で楽しく観ていた私たち。
いいのか悪いのか、基本、逆境に強い家族だとつくづくと思うのだった。

ではまたお会いしましょう。


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